そんな日もある
カウンター内に戻った私は、アルベルトにもおしぼりとお冷を渡して、弱火にしていたコーユポットの火を強くする。
「ホットコーユな」
「はいはい」
ホットティーとホットコーユでお湯はちょうどくらいかな。
セルジュ様が来るまでに作っちゃえると楽なんだけど…。
「あしらうレイチェルというのも新鮮だね」
「俺も一応客なのに、酷いと思いません?」
「二十二年の差かな」
「ですかね」
「やり辛いな…」
すると、ヴィリン様が笑いながら謝ってきた。
「ごめんごめん、悪気はなかったんだけど」
「お前ももう少し俺にも気を使えよなあ」
「やだよー」
沸いたお湯を温めていたお湯を流して茶葉を入れたティーポットに勢い良くお湯を注ぐ。
砂時計を反転させ、蒸らしている時間でミルクを沸かしながら、アルベルトが注文したコーユも淹れ始める。
「二人が生まれ育った街はどんなところなんだい?」
「いい所ですよ。ここと同じで、のんびりしてて。海側ではなく山側ですけどね」
「ああ。この辺りの地形はそうだよね。そんなに遠くはないんだっけ?」
「はい。馬だと丸一日はかかますけど」
「それくらいなんだ、もう少し遠いのかと思ってた」
コーユを淹れ終わり、ドリッパーを流しへ置いて、カップを温めていたお湯を流してコーユを注ぐ。
ミルクピッシャーも用意しているとちょうど砂時計も良い感じで、でも少し沸騰しかけてたミルクは慌てて火からおろして、準備を整える。
「お待たせ致しました、どうぞ」
「どうも」
「ありがとう」
二人の注文の品を出し終えて、一息つく間もなく、片付けを始める。
その前に、セルジュ様がいつ来ても良いようにまたお水を足して火にかけておこう。
「はあ…落ち着くね」
「居心地は悪くないですよね」
アルベルトの言葉に微妙なトゲを感じつつ、流しを片付ける前にブレンドの豆を少しひいておく。
カランカランとドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
セルジュ様だ。
今日は紫のシャツと黒いズボンを着ている。
ヴィリン様と並んで座っている水色のシャツを着たアルベルトを見ると、セルジュ様は不思議そうな顔して口を開きかけた。
「セルジュ、こちらはレイチェルの幼馴染みの…」
「あ、アルベルトです。すみません、タイミングが悪かった…というか」
「偶然一緒になってしまって。ヴィリン様が構わないと仰るので一緒に飲んで貰っていたんですが…」
と二人の言葉に説明を付け加えると、セルジュ様は納得したように頷いた。
「わかった。今日は込み入った話があるが、少しで良いなら」
「あ、はい。元々そんなに長居する予定ではなかったので」
「お邪魔する。私はセルジュという者だ」
「どうも」
「俺はヴィリンです」
セルジュ様とヴィリン様に挟まれたアルベルトは少し居心地が悪そうだ。
「よろしくお願いします」
「レイチェル、ホットコーユのブレンドで」
「はい、ただいま」
お湯もすぐ沸きそうだ。
カップはアルベルトと一緒で良いかなと、青ベースのカラフルなものにする。
ヴィリン様のもお茶用だから少し形は違うものの、青ベースのものにしていた。
食器を増やしたい気持ちもあるけど、狭い店内の置き場所は限られているので実行には至っていない。
店内に沈黙が流れる。
何か話題を出すべきか考えているうちにお湯が沸きはじめてしまう。
サーバーの準備は出来ているから、先にカップを温めようとお湯を注ぐ。
私が作業する音だけが響く店内。季節柄、窓を開けている事もあまりないし、今も閉め切っている。
そんな中、私はセルジュ様にお冷も出していない事に気が付いて、ドリップを始めようとしていたコーユポットを置いた。
「すみません。他の事に気をとられてたみたいで」
「構わないよ」
お冷とおしぼりを渡すと珍しくセルジュ様に笑われてしまい、居た堪れなくなる。
「今日は生クリームのケーキなんですが、どうしますか?」
「後で席を移るつもりだからその時にもらおうかな」
「かしこまりました」
もしかして、今日は二杯目いくかな?
セルジュ様のコーユを淹れ終えて、片付けはゆっくりで良いかと作業台と流しを見渡す。
「ところで、レイチェルとアルベルトさんはただの幼馴染みなのかい?」
「え!?それ以外に何が」
アルベルトは急な質問にコーユカップを持った手を滑らせそうになっていた。
ヴィリン様の質問に咄嗟に答えたけれど、間違ってはいないだろう。
「俺は、そんなんじゃ…」
アルベルトがもごもご言うと、コップの水を勢い良く飲む。
「ヴィリン、今のはどうなんだ」
「ん?確認しただけだよ、セルジュ」
ヴィリン様がたまにわからないけれど、セルジュ様がいると助かる気がする。
私は口をはさまずに様子をみる事にして、流しにおいていた食器類を洗うべく手をつけた。




