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通常営業も致しております。

夜会まであと二日になった日の夜、アルベルトが店にやってきた。


「いらっしゃいませ」

一人で現れて、カウンターの真ん中の席に腰掛けた彼は、一応手渡したメニューも見ずに「ブレンドな」と注文してきた。

私も慣れたもので「はいはい」と既にコーヒーポットのお湯を沸かし始めている。

今のうちにミルクピッチャーも用意して、淹れたらすぐに出せるようにしておく。


「お客は俺だけかー」と両腕を上にのばしたアルベルトは自衛団の腕章を外してカウンターの上に置いていた。


「日にもよるけど、この時間はお客さん少ないんだよ」

「そーなんか。来よう来ようと思いながら、なかなか来られなかったからな」

「とか言いつつ結構来てる気がするんだけど…」

「売り上げに貢献してやってるんだろ」

「はいはい、どうも」


沸騰したお湯を少しおいたら抽出を開始する。

湯気が香る瞬間が好きで、心が落ち着く。


「今日の仕事はもう終わったの?」

「そうだな。交代勤務だし」

「大変な仕事だよね」

「まあ、それで助かる人や治安が守られるならさ」

「頭が下がります」

「おー、もっと褒めてくれていいぜ」

「って、だーれがっ」


大変な仕事と言えば、ヴィリン様やセルジュ様も思い出すけれど、別格過ぎて想像も及ばない。

貸切にして深い話を聞かせてくれたりもするけど、実際はもっと色々あるんだろうな。


ティータイムにはせめて寛いで欲しいと思うのが、店主心でもある。


それはアルベルトに対してもだけど、幼馴染みの彼とはどうしても気安くなってしまう。


「でもお前、最近はちゃんと通信アクセチェックするようになったよな」

「んー。遠方の人とやり取りする事が増えたから」


お店をはじめた頃には想像もしてなかった。


「店もそれなりにはどうにかなってるんだな」

「ん、お陰様でね」

カップを温めていたお湯を流して、コーユを注ぎ入れる。


「お待たせ致しました」

「お、サンキュ」

ミルクと砂糖を少々入れるのがアルベルトの飲み方だ。


あとで砂糖のチェックしておかなきゃと思って、でも今日はそろそろ閉店だし明日の朝にしようと決める。

少なくなった時は砂糖を洗ってあるシュガーポットに移して、少なくなった分を足して席に置き、移し終わったシュガーポットはまた洗ってしまっておく。

手間はかかるけど、衛生面にはかえられない。


そこまで砂糖が減ってない場合でも知らない間に固まったりしている事があるので、その場合はかき混ぜて解している。

お客さんがいない時に地味にする作業もなぜか集中出来て楽しかったりする。



「なあ、この後予定あるか?」

「え?ないけど」

「ならさー、街に新しく出来たバルに行ってみないか?」

「んー、いいけど、コーユ飲み終わってからでもあいてる?」

「あー、多分な」

「そういうことならいいよ、お酒一杯おごりね」

「ってなんでだよ」

「じょーだんです。でもまあ、コーユはゆっくり飲んでよ」

「そうさせてもらいます」

「はい、どうぞ」





☆★☆




夜会の日。待ち合わせは、私の店の前だった。

ロングドレスだから裾が汚れないようにするのが大変で、いつも履く仕事用の靴や休み用の靴よりもヒールも高いせいか、歩き辛くもある。


ヴィリン様は私を待たせる事もなくやって来てくれた。というか着替えに帰る際に来てくれて、閉店の看板を掲げた店内で待ってもらっていた。


「綺麗だね」

「そ、そうですか?有難う御座います」

ちなみに靴もバッグもあり合わせのものだけど、シルバーだからそんなに変ではないと思う。


「セルジュも思い切った事するよなあ。そのお陰で俺はレイチェルと夜会に参加出来るんだけどね」

ヴィリン様はカウンター席から立って、入り口の所で立っていた私の手を軽く握る。


「今宵のエスコートはお任せ下さい」

「え?あ、はい。よろしくお願いします」


「よし、では戸締りして行こうか。まずは髪をセットしてもらうんだよね?」

「あ、はい。そうなんです。そんなに時間はかからないと思うんですが」

「セルジュから聞いてるよ。頼んだら俺の髪もしてくれるかな?」

「それは…どうでしょうか?聞いてみない事には」

でもヴィリン様はそのままで良いとも思う。


「じゃ、行くよ」

「はい」

魔術での移動は一瞬だ。




「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

魔術で移動した時には本当にここがあそこ?な場所ボケがあったりする場合もあるけど、出迎えてくれた店員さんは確かに坊主頭のお兄さんだった。

「お待ち下さいね、呼んできますから」

「はい」


「ここがそうなんだねー。あ、帽子も売ってる」

ヴィリン様は興味深そうに店内を見てまわっている。


二階から二つの足音が聞こえてくると、あのお姉さんも表情かたくやってきたものの、「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。

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