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珍しいお客様

ベランダの向こうの景色は切り立った岩壁に青い海が広がっている。

季節は真夏。でも湿気のない海風が吹き込んできて、小さな店内は冷房要らずだ。

縦長の店内は入り口側にカウンター五席、ベランダもある窓側にテーブル席が三席の小さな店だ。

数種類の軽食と手作りの日替わりケーキ、あとは飲み物だけのそれでも一人でまわすには結構なメニュー…とは言ってもそこまで忙しくなる事もないので、何とかやっていけている。

しかも今日はこれから予約のお客様で貸切。貸切代金まで払ってくれる太っ腹なお客様だ。


カランカラン。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

ドアベルの音に顔を上げると、白いマントのおろされたフードから艶やかな少しクセのついた肩までのばされた白髪に鮮やかなロイヤルブルーの瞳がのぞく。

中性的な細面でも身長は高く、程よく筋肉もついているだろう引き締まった体をした二十代前半くらいの男性。

「やあ。彼はまだのようだね」

ベランダを隔てる開口部から店内のカウンター内に戻った私は、お冷とおしぼりとメニューをカウンター席に座ったその青年に渡す。

マントの下は白いシャツに、瞳より暗い青色のベストを着て同色のズボンを穿いた格好で、マントを脱いでもきちんとして見える。

「んー…いつも通りですね。噂をすれば何とやらですぐいらっしゃいますよ」

「だといいかな。アイスティー、ミルクで」

「かしこまりました」

急冷する方法で淹れられるようにやかんのお湯は沸かしてある。

「相変わらず、お忙しいんですか?」

「どこからともなく仕事はわいてくるんだよ、知ってた?」

ダークブラウンの木材のカウンターに置かれた深緑のメニュー表を見ながら、そろそろいいかなとやかんの温度を確かめる。

「それはヴィリン様だからですよ、恐らく」

まずはティーポットに淹れた紅茶を数分蒸らし、次に急冷のために氷を入れたサーバーにポットの紅茶を注ぎ、最後に同じくいくつか氷を入れたグラスに注げばアイスティーの完成だ。

色々な作り方があるけれど、うちの作り方はこれである。


「そうなのかなー。頼めば何でもやると思われてそうで怖いんだけどね」

「と、言いつつも取捨選択してそうですよ?」


その時、控え目にカランとドアベルが鳴る。


「あ、いらっしゃいませ。二人でお待ちしていましたよ」

「そうだね。意外と早かったね」

私は白い髪のヴィリン様にアイスティーの入ったグラスとミルクとシロップを別添えにし、ストローをつけて差し出す。


今し方入店された胸まである長い紺色の髪に白菫色の瞳の男性は二十代後半ぐらいの色男で身長も高い。

白いシャツにダークグレーのズボンのシンプルな服でもどこか人の目を引き付ける人だ。


彼はヴィリン様の隣のカウンター席に座ると「コーユ。アイス、ブラックで」と静かに呟いた。


「かしこまりました」

と、彼、セルジュ様にお冷とおしぼりを渡す。

「今日はショコラのケーキなんですよー」

「では、それも」

「はーい。少々お待ち下さい」

アイスコーユはヴィリン様が来る少し前に作っておいたので、氷の入ったグラスに注ぐだけだ。

ケーキもその日によるけれど前の日や当日の朝早く起きて作っておいてある。



「変わりないか、ヴィリン」

「俺は変わりないよ。そういえば最近ヤーシェがきな臭い事になってるみたいだけど」

「ヤーシェか。南大陸だな、帝国とは関係ないか」

「そうだねー。何をするつもりか人を集めてるって噂があるけど、関わるのはやばそうだから行く気はしない」

「行く必要はないよ。変わりないなら何よりだ」


ここ北西大陸の端っこの共和国の港町の端っこでする話題にしてはヘビーだなとも思いながら、勿論口は出せない。


「お待たせ致しました」

セルジュ様の前にアイスコーユとショコラケーキを出す。ストローとフォークも忘れずに添えて。


「ああ」


でもこの二人はいつもこんな調子だ。

超がつく一流の魔術師と、北西大陸随一のルアノーブ帝国の皇太子殿下。

何をしに来るかと言えば、世界で起きている事象の情報交換だ。

なぜこの店で?と思わない事もないけれど、色々と事情があるんだろう。

たまに予約を頂く次第だ。



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