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夏祭り(会長Ver)

大遅刻しましたが会長の誕生日が8/4なので記念で書きました。

会長ルート後の夏祭りです。

 今日は夏祭りがある。

 夜には花火もあがるので、夕方に会長が僕を家まで迎えにきてくれることになっていた。

 そろそろ時間だなあ、と思っていたらインターホンが鳴ったのですぐに玄関に向かう。

 扉を開けると浴衣姿の会長が立っていた。


「浴衣だ!」


 グレーの浴衣、黒の羽織を肩に掛けるようにしてまとっていてかっこいい!


「お前が着てこいと言ったんだろう?」


 はしゃぐ僕に会長は呆れたように笑っている。


「そうなんですけど」


 すごいのが来るぞ……と身構えてはいたのだが、本物の破壊力に思わずテンションが上がってしまった。


「似合ってるしかっこいいです!」

「お前も似合ってるぞ」


 僕も兄に頼んで浴衣を用意して貰った。

 白の浴衣で爽やかだし涼しい。

 褒めて貰ったのでへへへと照れてしまっていたが、会長の浴衣姿を永遠に残しておかないと! とハッとして写真を撮った。


「こういうのは一緒に撮るものじゃないのか?」


 会長は何枚か撮って満足している僕の手からスマホを取ると、内カメラに切り替えた。

 頭をくっつくほど近づけて自撮りで撮る。

 急に整った顔が近づいてくると焦るじゃないか! とドキドキしつつ写真を確認する。

 顔ばかりで浴衣があまり写っていないようない気もするが……まあいいか!

 待ち受けにしようかなと思ったけど、兄や誰かに見られたら恥ずかしいからやめておこう。


「夏緋先輩は来なかったんですか?」


 祭りの話をしていたときに夏緋先輩もいたから、姿がないことが気になったが……。


「あいつが祭りに行くと思うか?」

「来ないでしょうね」


 苦笑いで即答する。

 人は多いし、外で作っている食べものや不特定多数が触れるものを嫌うだろう。


「みやげでも勝って帰ってやるか。いらないだろうが」

「そうですね。いらないでしょうけど」


 ※


 祭りの場所へ公共機関を使いながら歩いて行ったのだが――。


「今の人、かっこよくない!?」


 会長、目立つ!

 向かいからくる女性は大体会長を見て目を見開いているし、すれ違うときにチラチラ見て通り過ぎると振り返る、という流れになっている。

 背も高いしイケメン過ぎるし浴衣姿だし、目を惹くに決まってるんだよなあ。

『そうだろうそうだろう、かっこいいだろう!』という気持ちと『ジロジロ見るな』の気持ちが混じって複雑だ。

 話しかけられないオーラがあるから変に絡まれることはないし「まあ、いつものことか」と流して足を進める。

 人の喧噪も一層大きくなって、薄っすら明るかった空も暗くなったところで屋台が見え始めた。


「食べたいものはありますか?」

「これといってないが……お前のおすすめは何だ?」

「かき氷かなあ。暑いんで」


 ここまで歩いてくるだけでも疲れたし一休みしたい。


「そうだな。いい選択だ」


 会長の了承も得られたので、すぐに近くにあるかき氷の屋台に一緒に並ぶ。


「何にしようかな。会長は決まってます?」


 順番待ちをしながらメニュー表を見る。


「そうだな……メロンにしよう」

「メロン味が好きなんですか?」

「どれでもいいから色で選んだ。置いているあのシロップはよくあるものだろう? 原材料が同じで風味が違うだけだからな」


 そういえばかき氷は全部同じ味ってきいたことあるな……って、それは僕の目の色だから選んだってこと?

 単純に緑が好きなのかと思ったけど、ちょっとニヤリとしているから僕が思った意味で合っているのだろう。


「じゃ、じゃあ僕はイチゴにしますね!」


 照れ隠しでやけくそ気味に言う僕に会長は「そうか」と満足げにしている。

 余裕そうなのが何かちょっと腹立つな……。


「え!? 会長がいる!?」


 少し離れたところから聞こえてきた大きな声にびっくりしてそちらを見ると、僕たちと同年代の女の子がいた。

 五人くらいのグループでいるが、みんな会長を知っているようなので華四季園の生徒だろう。

 きゃーきゃー言いながらスマホのレンズをこちらに向けている。

 普通に盗撮されてるし!

 写真撮影はご遠慮ください! のスタッフになろうかな、と思っていたら――。


「…………」

「!」


 会長に視線を向けられ、無言の圧力を受けた女の子たちは「すみません!」と慌てて去っていった。

 ちゃんと消してくださいね! 僕なら消さないけど!

 そんなことをしていたら順番が回ってきたので注文をして受け取り、人の通りを避けたところで食べることにした。


「おいしいですね! 涼しくなったし」

「…………。そうだな」


 返事するまでに間があったな。

 素材が良いものばかり食べていそうな会長からすると美味くはないか。

 祭りで食べているから、状況も合わせて僕は美味しく感じる。


「あ、本当に味が同じなのか食べ比べしてみていいですか?」

「味は視覚と嗅覚でも感じるものだから、違いがあるはずだぞ? 大して変わらない、という話だ」


 そう言いながらもメロン味のかき氷をくれるようなので貰おうとしたら、スプーンですくったものを口の前に差し出された。

 視覚も遮断しようかと目を閉じて口を開けると、会長は少し戸惑ったのか間はあったけれどかき氷を食べさせてくれた。


「あ、違う……けど、たしかに似てる……!」


 イチゴの方が甘かった気がするが、鼻をつまんだら分からないかもしれない。


「そもそも僕のイチゴ味のかき氷もイチゴ風というか……本物のイチゴの味じゃないな? 会長も食べてみてくださいよ」


 お返しにスプーンですくって差し出す。

 会長はそれに少しきょとんとしていたが、ニヤリと笑って食べた。

 それを見て、もしかして僕って恥ずかしいことをしている? と気づいてしまった。

 周りから見たら食べさせ合ってるように見えるわけで……。


「うん?」


 どこかで聞き覚えのある「きゃー!」という黄色い声が聞こえた気がした。

 さっきの女子生徒達がどこかにいるのか?

 まさか、今のを見ていたんじゃないだろうな!?

 気のせいだと思うことにして、まわりは気にしないことにした。

 気にしないからな!

 撮ってたらそっと消してくれ! いや、その前に僕に送ってくれ!


「……で、どうですか? 味の違いは」

「やっぱり風味が違う。イチゴの方が甘く感じる」

「そうですよね! でも、思っていた以上に味が似てるんだよなあ、面白い」


 地味にメンタル値を削られてしまったが、楽しかったかき氷の食べ比べも終え、再び人の流れに沿って歩き始めた。

 向かい合う屋台の間を通っていくが、人が多くて進みづらい。


「ますます混んできましたね」


 時間と共に人の数も増えている。

 ぶつからずには歩けないくらいぎゅうぎゅうだ。

 かき氷で涼しくなっていたが、効果はもう切れていて暑い。


「あんな風にしてやろうか」


 会長の視線の先を見ると肩車されている子どもがいた。


「それはやばい」


 会長なら余裕でできるだろうけど、高校生で肩車されるのは恥ずかしい。


「肩車されたら浴衣がめくれるから不審者になりそうだし」

「それはまずいな。見ないようにまわりにいる奴を一掃しなければ」


 ははっ! と笑っているが「肩車はやめよう」というより「まわりを消す」という考えが怖い。

 それができそうなのも怖いけど、まわりに見せたくないと思ってくれることは嬉しいから、怖嬉しいという新たなジャンルを知ったよ。


「あ」


 進んでいると金魚すくいの屋台をみつけた。

 小さい子が親と一緒に楽しそうに遊んでいる。

 夏祭りらしい光景に思わず頬も緩む。


「金魚すくい、やりたいけどなあ。持って帰ったら兄ちゃんに怒られるだろうなあ」


 一回五百円で、取れなくても一匹貰えると書いてあった。

 持って帰っても水槽やポンプがないし……。


「俺が持って帰って夏緋に世話をやらせるか」

「え! 夏緋先輩、めちゃくちゃ嫌がりそう~」


 金魚の世話をさせられている夏緋先輩――。

 不憫だけど金魚鉢を持っている姿を想像したらちょっと可愛いかもと思ってしまった。

 さすがに可哀想だから、そんなことはさせられないけど。


「あっちならいいんじゃないか?」


 そう言って会長が指差したのはスーパーボールすくいだった。


「あ、たしかに!」


 近づいて見ると、まるいスーパーボールだけじゃなくて色んな形のものがあって楽しそうだった。

 子どもが多く挑戦していたが、ちょうど終わったようでスペースが空いた。


「僕、やります! 会長もやりましょう」


 早速お金を払ってポイを受け取る。

 何度かやったことがあるけど、子どものころ以来だからかなり久しぶりだなあ。

 会長はポイを観察しているようだが、僕はすぐに始めた。

 まずは軽くて取りやすそうなのを狙う。

 壁際にある小さなボールを狙うと、割と簡単に取ることができた。

 思っていたより簡単に取れそうなので、続けて挑戦していく。

 軽そうなゴムの金魚も取れたから、今度はカニをとることにしたのだが……。


「あ!」


 ゆっくりと動かしていたのだが破れてしまった。

 くそっ、カニが欲しかったのに……!


「男前の兄さん、うまいねえ!」


 店員さんの声が会長に向けられていたので横を見ると、僕よりもたくさん取っていた。

 取ったものを入れるカップがいっぱいになっている。

 え、早いし多くない!?

 僕が取れなかったカニも取ってるし!

 こんなところでも能力の高さを発揮するのか。


「プロですか?」

「一番可能性が高い方法でやってるだけだ。まだ取れるだろ……あ」


 順調に取っていたのだが破れてしまった。

 会長はポイの開いた穴を見ている。


「破れちゃいましたね……」

「まあ、これくらい取れたなら上々だ。面白かった」


『面白かったのか』とちょっと驚いたが、アヒルボートを全力で漕ぐ人だったなと思い出した。


「はい! じゃあ、プレゼントは五個までだから、それぞれ取った中から好きなのを五個選んでここに入れてねー」


 おじさんがそう言って金魚袋を渡してくれた。


「あ、会長。金魚とカニにしてください。夏緋先輩のおみやげにしましょう」

「それはいいな」


 生きている金魚は渡せないが、ゴムなら許されるはずだ。

 とても楽しめた上に無事おみやげもゲットできたのでよかった。

 満足しながら再び人の流れに沿って歩き出す。

 せっかく来たし、もっと祭りの気分を味わいたいなあ。


「くじびきとかもします?」

「そうだな。一度はやってみよう」

「あ、あれにしません!? 僕、欲しいのがある!」


 いくつかあるくじびきの屋台の中に、当たりの景品がゲームソフトのところをみつけたので会長を引っ張っていく。


「どれだ?」

「あのゲームソフト!」

「欲しいなら買えばいいじゃないか」

「…………」


 いや、そうなんですけどね?

 身も蓋もないことを言われて顔を顰める。


「当たったら嬉しいじゃないですか。会長が当たったら僕にください」

「分かった。俺が当ててやろう。外れたら買ってやる」

「いや、買うのはいいですから!」


 スパダリか! と思いつつ、お金を払ってくじを引く手に念を込める。

 数字が小さかったら当たりで、僕が欲しいゲームソフトは十番台だ。

 当たれ~当たれ~!


「これ! 絶対当た…………あー……」


 パッと見ですぐにハズレだと分かる三桁の番号だった。

 まあ、そんなもんだよな……。

 何となく運を持っていそうな会長なら! と横を見たが、くじを捲って出てきた番号は大体同じだったので思わず顔を見合わせて笑った。

 現実は厳しい!

 二人仲良く一番ショボい景品を渡される。


「これは何だ?」


 髪を止めるヘアクリップのようだが、お風呂に浮かべて遊ぶおもちゃのようなアヒルがついている。

 またアヒルボートのトラウマを刺激するものだなあ、と苦笑いしつつ袋から取り出して会長の髪につけた。


「……可愛いですよ。ははっ」

「笑いながら言うな。お前にもつけてやろう」

「僕はいいです。二つともつけておいていいですよ」


 二個目もつけようとしたが、軽く奪われたうえにつけていたものも取られてしまった。

 大人しくつけてくれている間に写真を撮っておけばよかった。


「これが五百円か……原価は百円以下だろうな。祭りのくじはおおよそが景品表示法の対象外だが、当たりがない場合は詐欺だな」

「そういうのを店先で言わない!」


 お店のおじさんがちょっと怖そうだったから、会長を掴んで慌てて屋台を離れた。

 本当にこうところを治して欲しい!

 さらに進むと射的が見えたのだが、大人気なのか人だかりができていた。


「やりたいのか?」

「それもあるんですけど、やけに人だかりができているなと思って」


 進行方向なのでちらりと覗いてみると、見覚えのある浴衣が見えた。


「あ、兄ちゃんと春兄!」


 銃を構える姿がやたらかっこいい人がいるなと思ったら兄たちだった。


「おう、央! ……となんでお前がいるんだよ!」


 僕に気づいて明るい表情になった春兄だったが、隣にいる会長を見て一気に顔が怖くなった。

 兄には会長と一緒に行くことは伝えていたが、春兄の耳には入っていなかったらしい。


「春樹、話は終わってからにしなよ」


 会長に詰め寄ろうとする春兄を止めた兄は、僕たちに笑顔で手を振った。

 僕も「兄ちゃんがんばれ~!」と手を振り返す。


「お、おう、そうだな。青桐、逃げるなよ! 央、俺も応援してくれ」


 春兄に応援を求められたので「がんばれ」と言おうとしたら会長に手で口を塞がれた。


「お前には必要ない。央の応援はもったいない」

「お前……!」

「春樹」


 また会長に詰め寄ろうとした春兄は、再び兄に止められて射的をする体勢に戻った。

 嫁に叱られている感じが素晴らしくてニコニコしてしまう。

 口を塞がれたままで苦しくなってきたので、会長の腕を下ろしつつ兄たちの射的を見守る。

 景品を狙って銃を構えている二人の姿はかっこいい。

 人だかりができてしまうのも頷ける。

 見守っていると、兄が景品のお菓子を取った。

 弾は三発撃つことができるのだが、全部当てたようでお菓子を三つ持っている。


「え~兄ちゃんすごい! かっこいい!」

「央にあげる。持って帰っておくね」

「わーい!」


 ゲームしながら夜更かしするときに食べよう!

 喜んでいる間に、春兄は緑のクマのぬいぐるみを取った。

 それを「真っぽいだろ?」と言って兄に渡している。

 貰った兄も嬉しそうだ。

 兄カップルの仲の良さに癒されていたら、春兄が会長のところにやってきた。


「お前もやってみろよ。俺は取ったぞ?」

「! 会長もやってよ!」


 ぜひかっこいいところを見せてやってくれ!

 会長の背中を押すと、任せろと言っているような余裕の笑みで向かった。

 すでにかっこいい~!


「央、欲しいものはあるのか?」


 順番が回ってきたきた会長に聞かれたので、景品を一通り見てフィギュアの箱を指差した。


「あれ! あの箱の! 僕の好きなゲームのキャラ!」


 あれは箱の上に置いている2センチくらいの小さなマトを打ち落とさないといけないようで難易度が高い。

 難しいものを選んでしまったが、それをゲットしてこそ春兄を超えるというものだ。

 早速会長が銃を構えて狙いを定める。

 ……おい、今誰か写真を撮ったな!? 僕も撮らないと!


「あ」


 一発目は惜しくも外れてしまい、箱にぶつかった。

 それを見てニヤニヤしている春兄が兄に注意されている。

 ムカムカするからもっと叱られてしまえ!


「思ったより下に行くな」


 分析して微調整をした様子の会長が、すぐに二発目を撃った。

 すると――。


「あ! え!? 当たった~!!」


 周囲からもわあっと歓声が上がる。


「すごいね、夏希!」

「春兄よりかっこいい!!」


 興奮する僕と兄に春兄は悔しそうだ。


「もう一発残ってるよ」


 目的のものをゲットできて満足していた会長だったが、お店の人に言われて三発目を撃った。

 続けて軽くお菓子をゲット!

 その様子もかっこいいなと見ていたら、会長はお菓子を春兄に投げた。


「これはおまえにやろう」

「いらねえよ!」


 今度こそ文句を言ってやると意気込んでいる春兄だったが、再び兄に掴まった。


「じゃあ、オレたちは行くけど……二人とも気をつけてね。央、帰りはあまり遅くならないようにね」

「はーい」

「おい、待て! 話は終わってないぞ!」


 まだ何か言っていたが、兄に連れて行かれる春兄に手を振っておいた。

 引き続きデートを楽しんでください。


「そろそろ行くか」

「え? あ、はい」


 一瞬どこに? と思ったが、花火を見ることができる場所があると聞いていたことを思い出した。

 そろそろ花火が上がる時間なので移動するのだろう。

 先導してくれる会長と一緒に屋台の通りを抜けると、一気に人が少なくなってホッとした。


「どこに行くんですか?」

「あそこだ」


 指差した先にあったのはこの辺りでは一番高い建物――。


「ホテル!?」


 思わず足を止めてしまった僕を、会長は「何をしている」と訝しんでいる。


「親の伝手で利用できるから話を通してある」

「へ、へえ?」


 ホテルということで意味深にとらえてしまったが……違うよな?

 そんなわけはないと思いつつそわそわしながら会長について行った。




「僕、場違いな感じがする……」


 入ってすぐに若干後悔した。


「そんなにかしこまるような場所じゃない。よくあるシティホテルだ」


 そうは言っても、周りを見ると高校生はいないし委縮してしまう。

 会長が堂々と歩いているからついていくけど……!

 エントランスを突っ切ってエレベーターに向かう。

 途中でホテルの従業員とすれ違ったが、会釈をしてくれたので会長を知っているようだ。

 高層階に到着したエレベーターから降り、進んでいく会長に続く。

 客室がある方向とは反対に進むと、エントランスのような広い空間があった。

 そこには点在してゆったりと座れそうなソファーや椅子が置かれている。


「ここは普段は街並みや夜景を楽しむための展望スペースだ。宿泊客しか入れないのだが許可を貰っている」

「へえ~!」


 花火を見るにはすごくいい穴場だと思ったのだが、席はかなり空いているし人の姿はまばらだった。


「どうして空いているんですか?」


 最高の場所なのに何だかもったいない。


「宿泊している部屋から見る人が多いからな」

「あ、なるほど」


 せっかく宿泊しているんだから、それもそうか。


「前の方に行くか」

「そうですね」


 夜空が見やすい場所にあるソファーに向かったのだが……。


「一人掛けかあ」


 一番いい位置にあるしふかふかで気持ちよさそうなのに、どうして一人掛けなんだ。


「別に一人掛けでいいじゃないか」

「え」


 他を探そうとしている僕の手を引いて会長は一人掛けのソファーに座った。

 え? 僕はどうすれば? と思っていたら、そのまま引っ張られて会長の膝の上に座ってしまう。


「お前はここでいいだろ」

「いや、狭いでしょ! 他にもあるのに!」


 まわりにほとんど人はいないけどゼロじゃないし!

 見られたら恥ずかしすぎる!


「気にするな」

「気にする――!」


 焦って立ち上がろうとしていたら、パンッという音と共に夜空が明るくなった。

 花火が始まったようだ。

 次々と夜空に咲き、色とりどりの光が静かだった空を染めていく。


「わあー!」


 高い場所から見る花火は迫力があって、今まで見た花火の中で一番近くにある感じがした。


「綺麗ですね」

「そうだろう。ここから見るのが一番いい」


 移動しようとしていたことなんてどうでもよくなって、そのまま無言で花火を見入ってしまう。

 夜空にひと際大きな金色の花が開いたとき、ちらりと見えた光に照らされた会長の顔がずるいくらいかっこよかった。

 また来年も一緒に花火を見られたらいいな。


「来年は部屋をとっておくか」


 同じようなことを考えていたのか、と驚くと同時に嬉しくなった。


「ここでも良くないですか?」

「いいわけないだろ。見られるわけにはいかないからな」

「今でも見られている可能性ありますけど……」

「そういうことじゃないんだが……まあ、今はいい」


 結局最後までこの場所で花火を見てしまったし、僕は気に入ったんだけどなあ?


 あと、さすがにこの場所には目撃している華四季園の生徒はいないと思いたい!



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