平和な登校のバトル
3月1日にコミカライズ3巻が発売されました。すでに全巻重版が決まっているそうです!(加奈先生おめでとうございます!)
そして、日付が変わって15日に、小説『BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました 2巻』が発売されます。2巻で完結となります。7年越しに書籍で最後まで書くことができて嬉しいです!
特典は4種類ありまして、2巻後――華四季園学園を卒業した央と各キャラの話になりますので、ぜひ特典付きをゲットして頂けると嬉しいです。詳細はビーズログ文庫様の公式サイト、Xからご確認いただけます。
コミカライズ3巻の表紙が素敵なので、央、楓、夏緋のSSです。告白直前くらいのイメージです。
同じ場面、3視点で書いてみました。
(長々と前書き失礼しました!)
(央)
僕は今、迎えに来てくれた楓と二人で登校中だ。
快晴で青空が綺麗だし、楓の綺麗な金髪が輝いている。
「アキラ、今日は空気が美味しいねー!」
「そうだなー」
BLゲームの世界は、本日も平和に僕を腐らせてくれそうだ。
「今日はお菓子作ってきたよ。おやつに食べよ」
そう言って見せてくれた綺麗な紙袋の中には、前も作ってくれたフィナンシェがある。
「おー。美味しいやつだ! でも……お前と一緒にいたら太りそうだな」
「体育で運動しているから大丈夫だよ。心配ならテニス部に入らない?」
歩きながらも、楓が横から顔を覗き込んできた。
可愛い! 優勝!
思わず「はい」と言ってしまいそうになったが……僕は屈しないぞ!
「断る。僕は帰宅部のエースだからな」
「……それ、誇らしげに言ってるけど、全然誇れないことだからね」
楓が呆れているが気にせず進んでいると、前方に見慣れた背中を見つけた。
「あ、兄ちゃんと春兄」
普通に並んで歩いているだけに見えるけれど……。
よく見ていると、春兄が兄の肩に手を置いたり、わき腹を突いたり、何かとスキンシップを取っている。
……というかイチャついている。
いいぞ、もっとやれ。
外でお互いを高めておいて、家に帰ったら思い切り発散してください。
もちろん、僕にも音声等、なんでもいいのでお裾分け頂けたら……と思います。
うん。やっぱり今日も兄達が仲良しだから世界が平和だ。
「まーた変な顔してる」
ハッ! 一瞬、楓がいることを忘れてしまっていた。
危ない、危ない……。
「世界平和を噛みしめていただけだから、気にするな。……うん?」
背後から冷たい視線を感じる……これは!
勢いよく振り向くと、思っていた通りの人がいた。
「夏緋先輩、おはようございます!」
「ああ」
……あれぇ?
以前にもちゃんと挨拶をして欲しいと頼んだのだが……?
「お は よ う ご ざ――!」
「おはよう」
面倒くさいと思ったのか、夏緋先輩は食い気味に挨拶を返してくれた。
ふふっ……勝った!
「おお、青桐のお気に入りの一年だ」
「はい?」
僕に向かってそう言ってきたのは、夏緋先輩の隣にいる二年生だ。
夏緋先輩の友達だろうか。
こんなことを言ってはとても失礼だが……とてもモブっぽい雰囲気で親近感が湧く! 友達になりたい!
……っていうか、『お気に入り』?
「僕、夏緋先輩のお気に入りだったんですか?」
「違……」
え、違うの?
それはそれで悲しい……と思っていたら、夏緋先輩が言い直した。
「いや……面白い生き物として気に入っている」
「生き物って……」
あまり嬉しくない言われ方だが、気に入っていないと言われるよりいいか。
そんなことを考えていたら、楓が腕を掴んできた。
何? と顔を向けたが、楓は夏緋先輩を見ていて――。
「「…………」」
なぜか楓と夏緋先輩が見つめ合っている……はっ!
もしかして、BのLが始まっている……?
「……アキラ、早く行くよ!」
「え? ちょ、引っ張るなって!」
もう見つめ合いは終わりでいいの?
「えっと、夏緋先輩……じゃあ、また!」
転びそうになりつつも、挨拶をして離れる。
夏緋先輩は不機嫌そうにこちらをじーっと見ていたが、目が合うと少し笑ってくれた。
わああぁ……気持ち悪いと言われ、舌打ちばかりされていた頃からすると、信じられないデレ……!
「アキラ、よそ見しないでくれる? 今の時間はボクだけしか相手にしちゃだめだから!」
「そんな契約した記憶ないですが!?」
※
(楓)
「アキラ、今日は空気が美味しいねー!」
「そうだなー」
アキラと二人きりの登校だから、今のボクは超ご機嫌だ。
幼馴染だからといって、大きな顔をしているあの子もいない!
誰にも邪魔されたくない、ボクとアキラ――二人だけの時間だ。
「今日はお菓子作ってきたよ。おやつに食べよ」
久しぶり作ったフィナンシェを見せると、アキラの表情がぱっと明るくなった。
この瞬間がすごく好き。嬉しい。
「おー。美味しいやつだ! でも……お前と一緒にいたら太りそうだな」
太るのはいいけど……アキラがボクのお菓子を食べなくなるのは嫌だな。
「体育で運動しているから大丈夫だよ。心配ならテニス部に入らない?」
そうすれば、一緒にいられる時間も増えるし、一石二鳥なんだけどなあ?
顔をのぞき込んでみたけれど、目を反らされてしまう。
アキラは押しに弱いところがあるから、お願いしたらいけるかも? と思ったけれど……駄目だったかあ。
「断る。僕は帰宅部のエースだからな」
「……それ、誇らしげに言ってるけど、全然誇れないことだからね」
いつものアキラらしいセリフに少し呆れながらも笑っていると――。
「あ、兄ちゃんと春兄」
「!」
アキラの視線を追うと、前の方に真先輩とあの人がいた。
二人は仲良くじゃれ合いながら歩いている。
以前なら悔しさと悲しみで見たくない! と思っていた光景だけれど、今はまったく気にならない。
むしろ、ボクもアキラとあんな風になりたいなあ、という羨ましさが湧く。
真先輩が幸せそうでよかった、とも思う。
あの人のことは、別に好きでも嫌いでもない。でも——。
「……兄妹揃って邪魔なんだよね」
今度は絶対に負けないけどね!
それにしても、『真先輩の弟』としか思っていなかったアキラのことを、こんなに好きなるなんて……。
最初は『真先輩と顔は似ているのに、中身は違う変な奴』だと思っていた。
本当に血のつながりあるの? なんて言っちゃったくらいだ。
でも、今は『目が離せなくなるキラキラしているところ』が似ている……と思っていたら——。
「まーた変な顔してる」
「世界平和を噛みしめていただけだから、気にするな」
全然キラキラしていない顔になっていて、「はあ」と少しため息をついた。
これがアキラのいいところなんだけどね!
でも、わけ分かんないことばかり言っていると思ったら、走るのは早かったり、勉強ができたり、頼りになったり……。
そういうのは本当にずるいと思う。
「……うん? あ、夏緋先輩」
「!」
アキラにつられて振り返ると、学園内で有名な人がいた。
生徒会長の弟で……最近アキラとよく一緒にいる人——。
アキラの嬉しそうな顔にムッとする。
なんでそんなに嬉しそうなんだよ。
「夏緋先輩、おはようございます!」
「ああ」
「お は よ う ご ざ――!」
「おはよう」
おはよう、を返して貰ったアキラがニコニコしている。
仲の良さが分かるやり取りが気に入らない。
ボクの機嫌がどんどん悪くなる。
「おお、青桐のお気に入りの一年だ」
「はい?」
……誰? 突然、知らない上級生が口を挟んできた。
『お気に入り』? どういう意味?
聞かなくても分かるけれど……。
ボクの機嫌はますます悪くなる一方だ。
「僕、夏緋先輩のお気に入りだったんですか?」
「違……」
「いや……面白い生き物として気に入っている」
「生き物って……」
一度、違うって否定しようとしたよね?
それに生き物として、だなんて……。
はっきり「好き!」と言えないなら、ボクの勝ちだから!
もうアキラは返して貰う! と、腕を掴んで敵を睨んだ。
「「…………」」
睨み返されたから、また睨む。
上級生だし、あの生徒会長の弟だから迫力があるけど、アキラのことなら負けない。
「……アキラ、早く行くよ!」
「え? ちょ、引っ張るなって! えっと、夏緋先輩……じゃあ、また!」
「挨拶はいいから!」
あの変態用務員にも「さよなら」って手を振っていたし、無駄に律儀なんだから!
「アキラ、よそ見しないでくれる? 今の時間はボクだけしか相手にしちゃだめだから!」
「そんな契約した記憶ないですが!?」
アキラは無防備だから……これからもボクがちゃんと捕まえておかないとね!
※
(夏緋)
家を出て、一人で学園に向かう。
兄貴と一緒に行くこともあるが、一年の頃とは違い、今は自然と時間が合ったときだけだ。
今日はいつもより少し遅い時間になってしまったが……。
この時間帯では、時折天地を見かける。
今日もいるような予感がして、気にかけながら歩いていると……いた。
前方にいつもの金髪と歩いている天地を見つけた。
べたべたしながら、ちんたら歩いている。
……思わず眉間に皺が寄る。
そのさらに前には、天地の兄達もいた。
兄貴の事情を知ったときは正気じゃない、どうしてしまったのだと思ったが……。
今は自分の方が「どうかしてしまったのか」と思う。
初めて天地を認識したとき、あの金髪を壁に追いつめていた。
あのときは「気持ち悪いふざけ方をする奴らだ」と思ったものだ。
その片方と、これだけ関わるようになるとは……。
関わるどことか、ああやってくっついて歩いているのを見ると、金髪の方を消したく——。
「青桐、おはよ」
「!」
話し掛けられて少し驚く。
横を見ると、クラスの中でもよく話しかけてくる奴がいた。
「…………」
「無言はやめてくれよ。不機嫌そうな顔をしていたけど、兄弟喧嘩でもしたのか?」
「していない。別に不機嫌じゃないが」
「そう? でも、目が合ったら凍らされそうだったぞ」
「気のせいだ」
そんな会話をしている間に、だんだんと天地に追いついてきた。
後頭部を見ていると小突いてやりたくなる、と思っていたら、天地が振り向いた。
「夏緋先輩、おはようございます!」
どうしてオレがいると気づいたんだ?
こいつは妙に鋭いところがあるなと、今までのことを振り返りつつ……少しオレの機嫌もよくなった。
「ああ」
返事をした瞬間、不満な顔をした天地を見て思い出した。
そういえばちゃんと挨拶しろ、と言われたことがあった。
「お は よ う ご ざ ——!」
「おはよう」
うるさいのを黙らせるため、食い気味に挨拶をすると満足げに笑った。
面倒くさい奴だが……少し可愛いと思ってしまうあたり、オレも本当にどうかしてしまったようだ。
「おお、青桐のお気に入りの一年だ」
隣の奴が、急に余計なことを言い始めて焦る。
オレからこいつに天地の話をしたことはないのだが……?
「はい? 僕、夏緋先輩のお気に入りだったんですか?」
「違……」
つい否定すると、一瞬天地の顔が曇ったように見えた。
「いや……面白い生き物として気に入っている」
人前で天地のことを話すつもりはなかったのだが、少しでも悲しませたくはない。
「生き物って……」
脱力したように笑っているが、曇っていたものが晴れてほっとする。
こんなにこいつの表情にオレが左右されるとは……たしかにお前はオレの『お気に入り』だ。
「…………」
金髪が天地の腕を掴み、何か言いたげにオレを見ている。
喧嘩なら買うが、お前がオレに勝てるとでも……?
「……アキラ、早く行くよ!」
「え? ちょ、引っ張るなって!」
金髪は天地を引っ張り、先に行く。
オレに見せつけるようにくっつくのが癪に障る。
……天地はお前のものじゃないからな。
「えっと、夏緋先輩……じゃあ、また!」
まだ眉間に皺が入っていたが――。
へらへらとこちらを見て笑う天地を見ていると和んでしまった。
「教室に着いたら、放課後は必ず生徒会室に来いとメッセージを送っておくか」




