柊の誕生日とクリスマス
クリスマスは柊の誕生日です。そして、柊ルート後の話です!
コミカライズ18話と、柊(CV笠間淳様)登場回となるボイスコミック4話が更新されています。どちらも最高なので休日のお供にぜひぜひ……!
12月になり、周囲ではクリスマスの話題が出始めた。
そこで僕も、警察のお世話にならないように気をつけないといけない、色々こじらせている恋人に聞いてみた。
「柊さん。クリスマスの予定ってどうですか?」
「うん? 俺の部屋に泊まるってこと?」
「?」
どうしてそういう質問が出てきたのか考察する。
任せてくれ、ゲームの考察と柊の考察は得意だ。
柊の中では、僕と過ごすことは確定事項だったから、僕の「どうする?」という質問はその先のことについて確認したと思った、かな。
「僕の質問を何ステップか飛び越えて答えるのはやめて貰えますか」
「?」
いや、頭にハテナが浮かんで当然なのは僕の方だから!
「25日は空いているのか、まず、一緒に過ごせるのか聞いたの!」
「ああ。仕事はないし、あっても優先することじゃないから大丈夫」
「優先することじゃないから、は問題あると思う」
社会人なんだから、働かないと生きていけないぞ。
「むしろ、央が俺以外と過ごすなんて……。真と二人、という場合じゃないと許せないけど」
「一人はいいでしょ」
「俺がいるのに一人でいる意味が分からない」
それは……確かに?
柊に納得させられるなんて不思議な気分だ。
「とにかく、予定は大丈夫なんですね?」
「もちろん」
クリスマスといえば、プレゼントだ。
何か欲しいものがあるか聞こうかと思ったけど、柊なら間違いなく「央」と答える。
自意識過剰じゃないぞ。
柊とはそういう人間なのだ。
僕は知っている。
だから、自分でなんとかまともなものを考えないといけない。
そして、クリスマスをどう過ごすかについてただが――。
その後、なんだかんだあった末、僕の家で過ごすことになった。
用務員である柊とは、人目を気にして一緒にうろうろできないので、柊の家で過ごそうかという話になっていたのだが、まさかの兄からNGが出たのだ。
「ちゃんと帰ってくるか心配だから」らしい。
……確かに!
翌日も休みだし、クリスマスとなったら帰して貰えない気がする。
……ということで、クリスマスは天地家で過ごすことになった。
兄は春兄とデートするらしいが、夜には帰ってくるという。
クリスマスという盛り上がる日に、家でせっせと励めなくなって申し訳ない……。
でも、僕の身の安全と「一緒に過ごす」ということを両立させるには、天地家を譲って貰うのが一番いい。
今年は他の場所で励んで頂くようお願いいたします。
柊は場所を変更することに反対するかなと思ったが、うちに来て欲しいと伝えると案外嬉しそうだった。
これで場所問題については解決したのだが、他にも問題がある。
クリスマスについて話していたときに、何気なく『クリスマスと誕生日が一緒の人』の話となったのだが、僕が「楽しそうだけれど、まとめられて損かもしれない」と言ったら、「俺の場合は煩わしいからまとめられてよかった」と言ったのだ。
まとめられてよかった? 経験談!?
……ということで、柊の誕生日がクリスマスであることが判明した。
そういうことは早く言ってくれよ!!
クリスマスプレゼントだけでも悩むのに、誕生日まで兼ねるとなると難易度が上がる……!
誕生日&クリスマスという特別な日だから、できれば喜んで貰いたいが……。
どうすればいいんだ?
誰か正解を教えてください!
※
そして、悩む日々を重ね、とうとう迎えたクリスマス当日——。
約束の時間通り、昼過ぎに柊がやって来た。
兄は先に出て……はおらず、にこにこの柊を玄関で迎えた。
「いらっしゃい、柊さん」
「やあ、真。今日はお邪魔するよ」
笑顔の兄に、笑顔の柊——。
同じ笑顔で圧を送る者同士が向かい合っている。
「オレはでかけますけど、央が未成年ってことを忘れないでくださいね」
「もちろん」
女子が見たらきゃーきゃー騒ぎそうな光景だけれど、僕は冷や汗しか出ない。
あわあわしていると、兄が僕を見てひと際にこりと笑った。
「じゃあ、オレは行ってくるよ。夜には戻るから。央も、色々気をつけるんだよ。色々とね」
「はい! いってらっしゃい……!」
「央のことは俺に任せて、真も楽しんできてくれ」
「…………」
あなたの存在が一番の懸念です、という心の声が聞こえてきそうな顔で兄は出て行った。
兄のあの笑顔に真っ向っから立ち向かえる柊はすごい。
ひとまず柊を家にあげ、リビングに通したのだが……。
「天地家は撮影禁止です。違反があった場合は出禁になります」
いつの間にか柊の手には、立派なレンズがついた高そうなカメラがあった。
もうすでに犯行済みだな?
「出禁は困る。……仕方ない。目に焼き付けておくよ」
「こわっ」
今更だが、柊を家にあげてしまったことを少し後悔し始めた。
「ここが央の家か」
リビングを眺める柊を置いて、僕は飲み物を用意する。
「央、アルバムはどこ?」
「情報収集しようとするな」
怪しい行動を取らないよう、柊にはソファーに座って貰った。
自分はジュースを入れて、柊にはコーヒーを淹れた。
……というか、とても気になってことがある。
それは柊が持ってきた手荷物で、どう見てもプレゼントだが……一応聞いてみる。
「それ、何?」
「央へのプレゼント」
「どれが?」
大きな紙袋にまとめてはいるのだが、パッと見ただけでも三つはある。
「全部」
「多いって!」
「張り切って持ってきたんだ。早速渡そうかな」
そう言うと柊は嬉しそうに僕の前にプレゼントを並べ始めた。
やっぱり多いって……。
でも、受け取らなかったら悲しむから、ありがたく受けとろう!
「開けて」という笑顔の圧をうけて、一つずつ開けていく。
「えーっと……。コートにスニーカー。これは部屋着かな? あと、ヘッドホン……」
「コートは制服の上からでも着られるし、スニーカーは学校でも普段使いでもいいし、ヘッドホンはゲームをしているときにも使える、長時間使っても疲れないものにしたんだ。央の一日を俺が買ったもので埋め尽くそうと思って」
嬉しいけどどこか怖い、この柊クオリティーに――。
「震えるわ」
「寒い? 温めてあげようか」
「兄ちゃーん!!」
危機感に駆られる僕とは違い、にこにこの柊は嬉しそうに僕にコートを羽織らせ、ヘッドホンを装着させた。
「可愛い」
「…………」
そんなに満足そうに微笑まれると、文句は言えない。
「ありがとう。大事に使う」
「うん」
ヘッドホンは付け心地がいいし、音がいいと聞くメーカーのものだった。
コートも素材が良くて暖かいし、お洒落だし……全部高価なんだろうなあ。
「でも、来年は一つでいいから」
そう言うと柊は少し驚いていたが、また嬉しそうに微笑んだ。
「来年、ね。分かった。ひとつに全力を注ぐ」
僕の身の丈に合わないものはやめてくれ、と言ったのだが伝わったか不安だ。
多分伝わってない。
「あ、お礼に央の部屋がみたいな」
「はい?」
そんなことがお礼になるのか?
絶対にならないと思うけれど……僕からのプレゼントを自分の部屋に置いているから、ちょうどいいかも……?
「じゃあ、いいけど……特に何もないよ?」
そう言うと、柊は目をキラキラさせた。
そんなに期待されると怖いのだが……!
色んな意味でビクビクしながら、柊を自分の部屋に案内した。
一応部屋に来ることもあるかなと思って掃除しておいてよかった。
「ここが央の部屋か。…………」
「撮影禁止だからな」
いつの間にか柊の手にはスマホが握られていたので注意したのだが……笑顔でごまかされないぞ!
なんだか、柊のペースにのまれて調子がくるってしまったが、プレゼントを渡さないと……。
僕は机の中に隠していた箱を取り出すと柊に渡した。
柊は条件反射で受け取ったが、箱を不思議そうに見ている。
「これ、プレゼント」
「央からプレゼント……? 俺に?」
「他に誰がいるんだよ……」
呆れながらそう言ったのだが、柊の顔はぱあっと明るくなった。
こんな子供みたいな顔をするんだ! と、ちょっとびっくりした。
「開けていい?」
「う、うん……」
そんなに喜んで貰えると思っていなかったから、僕の中でハードルが上がってしまった。
「ネクタイ?」
僕が選んだのは柊が普段使っているような黒いネクタイだ。
でも、さりげなく金色の糸でバラの刺繍が入っているから、いいなと思ったのだ。
「今は仕事中でもスーツを着ているだろ? だから、ちょうどいいかなって……」
あまり高価なものは買えないが、すごく悩んで選んだぞ。
「…………!」
心の中で言い訳をしていたら、前から柊に抱きしめられた。
ぎゅうぎゅうとくっつきながら、犬のようにすりすりしてくる。
「学園内で俺は央のものだって自慢できるってことだな。最高だ……」
「そんな意味はない! って自然とベッドに行くな! 兄ちゃんに電話するからな!」
いつの間にかベッドに倒されていたので慌てて起き上がった。
流されなかったか、みたいな顔をしているが、当たり前だ!
※
それから結局僕の部屋でアルバムを見せたり、ゲームをしたりしていると夕方になってきた。
「真は夕ご飯を食べてくるのか?」
「うん。だから、僕が夕ご飯、作ろうと思うんだけど……食べていく?」
「央が?」
「大したものを作れないから、鍋だけど」
ネクタイだけじゃ寂しいし、誕生日だからごはんくらい作りたいと思ったのだが、まともに作れる自信がない。
兄に相談したら、鍋がいいんじゃないと言われて作ってみたら、それなりに美味しかったので今日も大丈夫だと思う。
「もちろん。俺も手伝うよ」
「そう?」
料理をするのは緊張するから一人でやりたかったのだが、一人暮らしで料理もしている柊がいてくれたら心強いか。
早速二人でキッチンに立ち、食材を切っていく。
鍋はスープさえ作れば、あとは具材を放り込めばいいので助かる。
……なんて思ったのだが、ただ切るだけでも普段料理していないのが表れた。
カットした野菜の幅がバラバラだ。
くそー……鍋くらい綺麗に作りたいのに!
「央、俺がやろうか?」
「僕がやるって。誕生日なんだから、座っててよ」
そう言って割と邪険にしてキッチンから追い出そうとしたのだが、なぜか柊が嬉しそうにし始めた。
「誕生日だから、夕飯をごちそうしてくれようとしたのか?」
「…………」
改めてそう言われると恥ずかしい。
「…………っ! もういいから、リビングで待ってて!」
「じゃあ、俺は食器の準備の方をしておこうかな」
ちょっと切れ気味に伝えたのだが、柊にこにこしながら他の手伝いを始めた。
そして、黙々と料理をする僕の後ろに立って呟いた。
「俺達、新婚みたいだね」
「…………」
平気で恥ずかしいことを言う柊に、思い切り嫌な顔を向けた。
「ね?」
それでも念を押してくる妙なメンタルの強さに恐れ入る。
「ソウデスネ……」
なんだか疲れたので、肯定しておこう。
そして、悪戦苦闘したが、なんとか鍋を完成させることができた。
柊が言った新婚という言葉が妙に頭に残って、気恥ずかしいまま食べた鍋の味は分からなかった……。
「はあ……食った……。絶対二人分の量じゃなかった……」
適切な分量が分からないというところからも、普段料理しないことがバレバレだ。
これからのことを考えると、僕も料理をしておかないとな……って、『これからのこと』ってなんだ!?
自然とこれからも柊にごはんを作ることを想定している自分にちょっとびっくりした。
「央? お腹が痛いのか?」
「え? あ、いや、大丈夫……あ」
挙動不審になってしまったところで、大事なことがあったのを思い出した。
あとひとつ、渡していないものがあるのだが……鍋でお腹がいっぱいになったので出しにくい……。
でも、一応見せるだけ見せておこうかな?
「あのさ」
「うん?」
「……ケーキ、作ったんだ。誕生日兼クリスマスって感じなんだけど」
きょとんとしている柊をリビングに置いて、冷蔵庫に入れていたケーキを持ってきた。
これも兄に教わりながら作った、普通の苺のデコレーションケーキだ。
……生クリームの上に苺をぽんと乗せているだけだから、デコレーションというほど飾ってないけど。
ちなみに、メッセージなどは恥ずかしくて入れてない。
一瞬書こうかと思ったけれど、にこにこしている兄の前では書けなかった……。
「お腹いっぱいかもしれないけど、一口食べ――」
「食べる」
食い気味に答えた柊を見ると、ジーッとケーキを凝視していた。
その様子がちょっと怖いんですけど!
とにかく、ケーキナイフでカットしようとしたら、柊に止められた。
「写真撮りたい」
「え、あー……まあ、これくらいならいいけど……」
あまりにも真剣に言われたので、つい頷いてしまった。
柊はちゃんとしたカメラの方で真剣に写真を撮っている……。
僕にしては綺麗にできた方だが、素人感にあふれているからそんなに撮られると恥ずかしいのだが……。
そんなに撮る? という言葉を飲み込んで待っていたら、ようやくカットしてもいい許可が出たので、切り分けて柊に渡した。
……って、それも撮るのか!
「もういい加減食べてくれない?」
「ごめん、つい……。そうだな、いただきます」
柊がケーキを口に運ぶのを、緊張しながら見守った。
僕も今一口食べたけど……うん。
めちゃくちゃ普通だった!
兄が作ったものは、シンプルだけれど美味しいと思ったのになあ。
「今まで食べたケーキの中で一番美味い」
「!」
絶対そんなことはない! と思ったけれど……。
柊が幸せそうに食べてくれているから……いいか。
お世辞でも、美味しいと言ってもらえると結構嬉しいかもしれない。
そんなことを思っていると、柊が顔に手を伸ばしてきた。
「央、クリームついてるよ」
「どこ?」
「ここ……」
そう言うと、顔が近づいてきて――。
あれ、クリームを手で取るんじゃなくて……!?
「ただいま」
「!! 兄ちゃん!」
リビングの扉の方から声がして振り向くと、兄が立っていた。
思わず柊から離れたが、柊は真顔で兄を見ている……。
「ねえ、央」
兄に呼ばれたので顔を見ると、とても笑顔だった。
「クリームはついてないよ」
「!?」
じゃあ、どうして顔が近寄ってきていたんだ!? と柊を見ると、今日一番の笑顔を見せてくれた。
おい! なんでも笑顔でごまかせると思うなよ!
「クリスマスにお巡りさんを働かせるのはよくないよね」
兄がぽつりとつぶやく。
柊よ、兄はちょっぴり怒っているぞ!
逃げないとお巡りさんを呼ばれるぞ!
「真も帰って来たし、名残惜しいけど……俺はそろそろ帰るよ。あ、ケーキは貰っていくよ?」
「あ、うん!」
持って帰る可能性も考えて、ケーキを入れる箱を買っておいてよかった!
急いで箱に入れ、柊に渡す。
「僕、玄関まで送っていくから……!」
柊の背中を押しながら、兄から逃げるように急いでリビングを出た。
玄関のドアを開けると、外はすっかり暗くなっていた。
兄に追いやられた感があったが、思っていたよりも長い時間一緒にいたようだ。
そんなことを考えていると、柊がこちらを見ていた。
「子供の頃は、あまり好きな日じゃなかったけど……今日は最高だった。央、人生で一番楽しいクリスマスと誕生日をありがとう」
そう真剣に話す柊はとても嬉しそうだったけれど、子供の頃は好きじゃなかったことが気になった。
……事情があって楽しめない日だったのかな。
そういうのも、これから聞いていけたらいいな。
それに、楽しいことはこれからも更新していきたい。
「うん。来年はもっと楽しい日にしような。あ、ちゃんと言えてなかったけど、誕生日おめでとう! あと、メリークリスマス!」
笑顔でそう言うと、柊は僕に抱きしめた。
「ありがとう。メリークリスマス」
そう言うと、僕のおでこにキスをして離れていった。
「…………っ」
びっくりしておでこを押さえる僕に微笑むと――。
「真に怒られるからこれくらいにしておくよ。おやすみ」
綺麗な笑顔を見せて去って行った。
大人な後ろ姿がかっこいい――。
「お、おやすみ……」
最後が心臓に悪かったけれど、柊にしたらこれで済んだことがびっくりかも?
こういうのも来年はどうなるか……なんて考えるとヤバい方向に思考がいきそうなので止めた。
今日は聖なる日、ということで……メリークリスマス!




