夏緋の誕生日
6月24日は夏緋の誕生日なので突発的に書いてみました。
まだ6月なのに夏緋ルートを進んでいる感じで書いているので、時間軸は気にせずに雰囲気を楽しんで頂けたら……ということで!
スマホの画面を見る。
ただ今、6月23日の23時55分だ。
あと五分後……6月24日は夏緋先輩の誕生日である!
僕は電話をかけるため、現在スタンバイ中だ。
一分前になったのでスマホを手に取り、電話をかける画面を表示しておく。
誕生日になった瞬間に「ハッピーバースデー!」を言いたいから、十秒前にコールすることにした。
59分45秒……46秒……47秒……もういいやかけちゃえ!
ボタンを押すと――。
『通話中のため応答することができません』
「……はあ?」
せっかくナイスタイミングでかけたのに!
通話中とかどういうこと!?
「はあ……つまんない。……ゲームしよ」
おめでとうコールに失敗した僕は、昼間にかけ直すことにしてゲームを起動した。
「土曜日だし、朝までコースかな! …………ん?」
コントローラーを持ったところで、スマホが電話の着信を告げた。
画面に表示されているのは、先程おめでとうコールをしようとした人だった。
「夏緋先輩、お誕生日おめでとうございます! おやすみなさい」
『……おい。用件だけにしても、ほどがあるだろ』
だって、僕はこれからゲームをするのだ。
おめでとうコールに失敗したから拗ねているわけではない。
誕生日に一番に話すのは僕じゃないんだ? とか、拗ねているわけではないから。
「誰かからおめでとうコールがあったんですか?」
『ああ。留学していたときに世話になった人からな』
「おお……グローバル……」
そういう人からの電話なら、何も気にならない。
むしろ、いい関係を築けていたんだなとほっこりだ。
そして、お誕生日をすぐに祝ってくれる人がいるということが、ぼっちの会長とは違う……。
「それでは夏緋先輩、十七歳になった意気込みをどうぞ」
『特にない』
「打倒兄貴! とかどうですか?」
『兄貴と何で戦うんだよ……』
「お得意の暴力はどうですか? 弟チームとして僕はセコンドにつきますから! ……遠くで」
『遠くにいるんじゃセコンドの意味がないだろ……』
だって、青桐兄弟のバトルを近くで見るなんて恐ろしい。
僕は遠くから声援を送ります。
「夏緋先輩、誕生日プレゼントは何がいいですか?」
『……くれるのか?』
いらない、と言うと思ったのに……欲しいのか?
自分で聞いておいてなんだけど、ちょっとびっくりした。
とんでもないものを要求されたらどうしよう……。
「あげ、ますよ。気持ちだけ……」
『行きたい場所がある。今日付き合え』
「今日、ですか?」
一応、僕も誘ってみようかなと思っていたから、予定は空けてたけど……。
『……お前、ゲームしてるだろ』
どう返事するか考えていたら、冷たい声がした。
耳が凍る!
だって、スマホは耳と肩に挟んで、コントローラーを握っていたから、つい……。
「シテナイデスヨ」
カタコトで嘘をつくと、はあ……とため息をつく声が聞こえてきた。
やめますって!
「それで、今日はどこに行くんですか?」
『リベンジしたいところがあるんだよ』
「リベンジ? 一度行ったことがあるところですか?」
『……お前はな。とにかく、昼に迎えに行く。……早く寝ろよ』
「? はーい」
僕がいい子の返事をしたら、夏緋先輩はすぐに電話を切る感じになったが、せっかくなのでこのいい声をもう少し聞いていたい。
「夏緋先輩は今、何をしてたんですか?」
『もう寝ようと思っていた』
「早寝ですね! いい子ですね~!」
『……今日お前に会うのが楽しみだよ』
「ごめんなさい」
身の危険を感じたので、他の話をすることにする。
「会長は今、何してるんですか?」
『さあな。部屋にいるから分からない』
「あ、そうだ。夏緋先輩! 今、写真を自撮りして送ってくださいよ! お誕生日記念として!」
『どうしてそんなことをしなきゃ……いや、お前が送って来たら返してやるよ』
「なんだと……。自撮り写真を送り合うなんて、出会い系アプリでマッチングした人みたい……」
『お前が言い出したんだぞ?』
夏緋先輩が呆れている。
送りたくないから、先に送れと言ってきたんだと思うが……夏緋先輩の自撮り……見たい!
頭の中で響く「出会い系アプリか!」と突っ込む声は抑え、ピースした自撮り写真を送ってやった。
「僕は送りましたよ! 今度は夏緋先輩の番ですからね!」
『そんな約束したか?』
「……僕、祟りますよ?」
本気のトーンでそう告げると、少ししてから夏緋先輩から写真が送られてきた。
「わあ……って、会長じゃないですか!」
写真を見ると、高そうな椅子に座って本を読んでいる会長が写っていた。
わざわざ会長の部屋にいったようだ。
会長の部屋や寝る前の姿を見ることができて、これはこれでレアだけど……!
「発注と違うものが届いてますよ!」
そう抗議すると、舌打ちのあとにまた写真が送られてきた。
「おお……」
今度はちゃんと夏緋先輩だった。
会長の部屋から自分の部屋に戻ったようで、ベッドに腰かけている夏緋先輩が写っている。
いつも通りのクールフェイスだが、自室にいるからか少し雰囲気が違って見える。
『これで文句ないだろ』
「はい!」
いいものをゲットしてしまった……消してしまわないように保護をかけておこう。
満足した僕は、それからゲームをしながら、他愛のない会話を夏緋先輩に振り続けた。
夏緋先輩は切りたそうだったけど、『夏緋先輩と長電話』も貴重だから堪能したい。
「それで……って、夏緋先輩?」
あれ、返事がない……?
さっきから相槌は打ってくれていたのに、僕の独り言になってきたような……。
『…………』
耳を澄ませると、寝息が聞こえたような気がした。
「もしかして……寝てます?」
夏緋先輩が……寝ている!
カメラ通話にしておけばよかった!
そう思っていたら、とても眠そうな声が聞こえてきた。
『……お前、四時だぞ?』
あ、起きてた……というか、起きた?
確かに時計を見ると四時だ。
でも、ゲームをしていて頭が動いている僕は、まだそれほど眠くない。
「お肌に悪いですよね。夏緋先輩は寝てください」
『肌なんてどうでもいいだろ……』
夏緋先輩は脱力しているが、お肌は大事だぞ。
肌荒れしていたら、イケメン度が減るじゃないか!
……と思っていたら、夏緋先輩があくびしている声が聞こえた。
これもレア! 録音しておけばよかった!
『お前も寝ろ。……ちゃんと起きろよ? 迎えに行って寝ていたら、部屋まで行ってたたき起こすからな』
夏緋先輩が起こしてくれるなら、寝ていても大丈夫だな、と思ったけれど、口にすると怒られそうなので黙って頷いた。
「分かりました。おやすみなさい」
『ああ。おやすみ』
夏緋先輩のおやすみも聞けた!
そう思ったら眠気なんて吹っ飛ぶわけで……。
結局迎えに来て貰っても寝ていた僕は、やっぱり夏緋先輩にたたき起こされたのだった。




