青桐兄弟ルート⑧
お知らせが遅くなりましたがニコニコ&コミックウォーカーにてコミカライズ16話が公開されました。とっても見どころたくさんの回で大興奮です!
扉を閉めた後、玄関にそのまま倒れた。
「嘘だあああ」
天井を見ながら大きくため息をつく。
「夏緋先輩と会長の両方から告白されるなんて……」
さっきの二人の顔やセリフが脳裏に浮かぶ。
顔に残っていた熱がまた上がってきた。
会長に呼ばれて生徒会室に行ったときに、初めて二人とちゃんと話をした。
兄弟揃って圧の強いイケメンで、あまり関わらないようにしようと思っていたのに……。
いつの間にか三人でよく過ごすようになり、二人から好きだと言われている――。
二人がかりでからかっているのか? ……なんて一瞬思ったけれど、二人とも目が真剣だった。
……ということは、本気で二人は僕を好き、ということだ。
「あー……どうしてこうなった!」
楓と雛の言い争いを見てしまったことも衝撃だったが、青桐兄弟からのダメージが大き過ぎる。
二人のことで頭がいっぱいだ。
「三人でいるのが楽しかったんだけどなあ」
こんなことになったら、今まで通りにはいかないのかな。
……逃げたい。
二人に会うのが気まずい。
しばらく、生徒会室には近づかないようにしよう……。
※
翌朝も、頭の中はグルグルしたままだった。
ボーッとしていたので兄に心配されながら、登校するための身支度を済ませた。
みんながいる場所に行くのは気が重いが、休むわけにはいかない。
「はあ……。…………!?」
盛大なため息をつきながら扉を開けると、びっくりする色が目に飛び込んできた。
この赤い髪は……。
「ちょうど出てきたか。おはよう、央」
「会長?」
どうして会長がここに? と思っていると、横にもう一人いた。
「立ったまま寝ているのか? お前はそんなに器用だったのか?」
「夏緋先輩まで? いやいやいやいや……」
コレハオカシイ……と頭を横にふる。
さり気なく貶された気がしたけれど、今はそんなことより……!
昨日あんなことがあったのに、二人で現れるなんてどういうこと!?
僕の疑問は言わなくても分かったようで会長が答えてくれた。
「お前が逃げないように迎えに来てやった」
「!」
何から? なんて聞かなくても分かる。
昨日の告白から――そして、二人から逃げるな、ということだろう。
読まれている……!
生徒会室に近づかないようにしようとしていたことがバレている!
「お前の考えなんてお見通しなんだよ」
そう言葉を続けた夏緋先輩と、二人揃ってニヤリと笑っている。
変なところで結託するな!
ぐぬぬ、と反論できずにいると、二人がフッ……と穏やかな表情になった。
「返事は急がなくていい。普通にしていろ」
「お前が答えを出すまで待ってやるよ」
「…………!」
もしかして、こうしていつもの調子で絡んできてくれるのは、僕が気負わないように気づかってくれたのだろうか。
少し気は楽になった……かな。
それでも、まだ何も言えずにいたら、会長が僕の頭に手を伸ばして来た。
「何!?」
「お前、寝ぐせがあるぞ」
「え、ほんとですか?」
整えたつもりだったが……。
二人のことで頭がボーッとしていたからか、ちゃんとできていなかったようだ。
そんなことを考えていると、寝ぐせを直そうとしてくれている会長の手を、夏緋先輩がパシッと叩き落した。
な、夏緋先輩が会長に反抗している!?
弟同盟としてちょっと応援したくなったけれど……。
「「…………」」
こ、怖〜!!
無言で睨み合う二人が怖すぎて、自分で寝癖を直しつつ何も言わないことにした。
「アキラおは……え」
道路の方を見ると、びっくりした顔の楓がいた。
約束はしていなかったのだが、いつものように迎えに来てくれたようだ。
救いの天使……!
今は一旦青桐兄弟から離れたい!
楓の元に駆け寄ろうとしたのだが、会長と夏緋先輩が僕の進路を塞いだ。
そして、楓に目を向けると、会長が声をかけた。
「もうこいつの迎えは必要ない。先に行け」
「!」
僕を見る楓の目が「どういうこと!?」と怒っている。
僕だってどういうことか知りたいよ!
でも、ここは穏便に済ませるしかないので、楓に救出して貰うことは諦めた……。
「そ、そういうことで……先に行っててよ」
「!」
そう伝えた瞬間、楓がむくれた顔をした。
絶対にあとで問い詰めるから! という楓の心の声が聞こえる……。
さすがの楓も青桐兄弟に歯向かうことはしないようで、大層不満気だったが先に行ってくれた。
ごめん……僕だって助けてほしかったよ……。
「よし、ひとつ処理できたな」
「処理!?」
満足気に立っている会長が言うと、不穏な言葉にしか聞こえない。
「一番処理しなければいけない奴が近くにいるんだがな」
「…………」
会長の不敵な視線を受けて、夏緋先輩が無言の圧力で抵抗している。
静かだけれど、背景に猛火と猛吹雪が見える……。
「朝から怪獣大戦争みたいなことしないでくれます!?」
わざわざ人を迎えに来て喧嘩を繰り広げるなんてどういうことだ!
結局僕は鬼から怪獣に進化した二人に挟まれて、居心地の悪い登校をすることになった。
校舎の前まで来て、ようやく解放されると思ったのだが……。
「央、一緒に昼も食いに行くぞ」
「逃げるなよ」
二人はそう言い残し、それぞれの教室へと去って行った。
「なんでそういうとこだけ仲良しなんだよ……」
青桐兄弟から宣言されたら、回避方法なんてないじゃないか!
※
「あら、今日も三人揃って。いらっしゃい」
「希里子さん、こんにちはー」
昼休憩。反抗するのを諦めた僕は、大人しく赤と青の怪獣に挟まれながらきこりにやって来た。
美味しいし、優しい希里子さんに癒される……。
「じゃあ、奥の座敷にどうぞ」
前にも使わせて貰った席に案内され、そちらに足を向けたが会長と夏緋先輩は反対の方を向いていた。
「あれ? どこに行くんですか?」
「央、お前は座っていろ。俺が持って行く。……そうだ、これをそっちに置いておいてくれ」
会長はそう言いながらジャケットを投げてきたので慌ててキャッチした。
「言い終わってから投げてくださいよ! ……って、夏緋先輩まで」
会長よりは投げ方が優しかったが、無言で投げるのはやめて!
「ちゃんとハンガーにかけておいてくれ」
……さすが夏緋先輩、注文付きだ。
「何だ? 央に預けるのは俺の真似か?」
「……こんなの真似なわけがないだろ。大体兄貴はいつも、ここに来たらふんぞり返っているだろ。今日もいつも通り――」
二人はそうやって、多少ピリピリした空気を放ちながら厨房に消えていった。
「あらあら。二人とも進んでお手伝いするなんて、央君にいいところを見せたいのかしら」
「えー?」
そんな可愛らしい発想をしているような人が放つピリピリではなかったと思うのだが……どうなのだろう?
夏緋先輩は元々お手伝いできるひいちゃんだったし、いつも一人で来ていた夏希ちゃんも、前回でお手伝いできる子に進化しただけだろう。
「あの子達、自分達は似てないと思っているけど、似た者兄弟なのよね。央君、気に入られちゃって大変ね」
「あはは……」
二人から告白されている今の状況では、愛想笑いしかできない……。
一人だけ社長のように待っているのは申し訳ないので、僕も手伝おうとしたのだが、希里子さんに「央君が手伝いに来たらあの二人、きっと怒るわよ」と言われて大人しく待つことにした。
とりあえず、言われた通りに会長のジャケットと夏緋先輩のパーカーをハンガーにかけておく。
「重たいなあ、どっちもでかいんだよ……」
いつもハンガーにかけている自分のジャケットとの違いに軽く凹んだ。
僕が成長したとしても、絶対に追いつけない。
どれほど違うのか、勝手にどちらか着てみてやろうかな……。
でも、着ているタイミングで二人が来る未来しかみえなかったのでやめよう。
そんなことになったら恥ずかし過ぎる――。
「お前、それに何もしてないだろうな」
「! びっくりした……」
料理を運んで来た夏緋先輩が、ジャケットとパーカーの前にいる僕を怪しんでいる。
「していませんよ。……まだ」
「まだ?」
「え、いや、でかいからちょっと着てみようかなって思っただけです!」
睨まれたのでまずいと思い、素直に白状すると、夏緋先輩はきょとんとした。
あれ? 勝手なことをするな、って怒られると思ったのに……。
「そんなことなら……。お前ならいいぞ」
「え、いいんですか?」
「ああ」
潔癖ぎみの夏緋先輩なら、人に服を着られるなんて嫌がりそうなのになあ。
びっくりしたが、そういえば今……「お前なら」と言っていたことに気がついた。
照れるというか……何というか……。
「やっぱりいいです……」
「おい、運んだらならべて行け……って、どうした?」
夏緋先輩に続いて料理を運んできた会長が、まだ立ったままの僕を見て不思議に思ったようだ。
「何でもないです!」
誤魔化してスタッと席につくが――。
「…………」
会長がジーッと不審な目で僕を見ている。
「「…………」」
この眼力に耐えられる人っている!?
「ほ、本当に何でもないです。ただ、二人のジャケットとパーカーが大きかったから、どれくらい大きいのか勝手に着ようかな、って思っていただけで……」
そう白状すると、会長もきょとんした。
わー、リアクションが一緒!
「なるほど……。じゃあ、どちらを着るか、これで選ぼう」
「はい?」
ニヤリと笑った会長が、僕の前に二つの料理を置いた。
美味しそうな炊き込みご飯のおにぎりと天ぷらだが……これが何?
「央、お前はどっちが好きだ?」
「え?」
まさか、会長と夏緋先輩が作った? ……と思ったが、さすがにそれはないだろう。
この短時間でできる料理じゃないし、希里子さんが作ったものに見える。
「どっちも好きですけど……」
そう言うと、二人揃ってイラッとした顔をした。
「央、微妙な差でも順位をつけろ」
「はっきりしないなら食って確かめてみろ」
「もう、何なんです? 分かりましたよ……」
会長と夏緋先輩に圧迫されながら、おにぎりと天ぷらを口に運ぶ。
美味しい……もっと味わって食べたい……。
「…………。どっちも美味しいですけど……」
「だから、僅かでもどっちの方が好きかと聞いているんだ!」
「まったく一緒ってことはないだろ!」
会長に続いて、夏緋先輩にも詰められ……なんでこんなに言われなきゃいけないんだ!
「一緒ですぅ! まったく一緒だから!」
むかっとして言い返すと、あとからやって来た希里子さんが笑い始めた。
「あははっ! ごめんね、央君。二人はね、央君の好みを当てる勝負をしていたみたいよ」
「はいー?」
「厨房でね、こっちの方が好きだ! って子どもみたいに言い合っていたわよ」
「なんだそりゃ……」
僕の味覚当てゲームで揉めないでくれ。
好きな物なんて、言わないとそんなに分からな……あ、そう言えば……。
前回一緒に食べた時に、「二人はこれが好きなのかな?」と思った料理があることを思い出した。
「僕は会長と夏緋先輩の好きなメニュー分かるかも。会長はこれです。夏緋先輩はこれ」
会長は牛すじ煮込み、夏緋先輩は鮪の角煮だ。
すぐに手に取っていたし、美味しそうに食べていた。
今日はここにはないけれど、会長はステーキも美味しそうに食べていた。やっぱり肉食獣ですか?
夏緋先輩は、前回あった蒸し鶏のサラダも箸が進んでいた気がする。
肉食獣みたいなのに葉っぱを美味しそうに食べている……と、ちょっと可愛く見えた。
「「ふっ」」
僕の言葉を聞いて、二人は同時に鼻で笑った。
今度はリアクションがシンクロしていますけど!
……とうか、正解か不正解か、どっちなんだ!
そう思い、顔をじーっと見ていると……ちょっと嬉しそう?
「ふふっ、正解みたいね」
「やった! じゃあ、僕の一人勝ちですね!」
拳を掲げると、希里子さんが「優勝~!」と手を叩いてくれた。
わ~希里子さんのおかげで空気が平和~!
このハッピーな雰囲気のまま、ごはんを食べたい……と思っていたら、希里子さんが会長のジャケットに手を伸ばした。
「じゃあ、両方着てみたらいいじゃない」
「え?」
「うん? あ、勝手に聞いちゃってごめんなさいね。さっきそういう話をしていたでしょう?」
そういえば、どちらを着るかこれで決める、みたいな話をしていたような?
「まあ、いいじゃない。ほらほら」
希里子さんは会長のジャケットをハンガーから外すと、僕に着せようと後ろに待機した。
袖を通すのを手伝ってくれるようなので、待たせては悪いと慌てて自分のジャケットを抜いて着せて貰う。
でっ……か い!
「まあ! 可愛い! はあ……夏希ちゃんったら、こんなに大きかったのねえ」
希里子さん、正直、『可愛い』はちょっと複雑です……。
あと、夏希ちゃんは思っていたより大きいです。
「夏希ちゃんったら、何を照れているのよ」
「?」
希里子さんの言葉を聞いて会長を見ると、スッと顔を逸らされてしまった。
会長の横にいる夏緋先輩は舌打ちしているし、どんな顔していたんだ?
「はいはい。次はひいちゃんのね」
会長のジャケットを回収してハンガーに戻した希里子さんが、パパッと夏緋先輩のパーカーをかけてきた。
「あらあら! これもまた可愛らしいわねえ。ひいちゃんは夏希ちゃんよりは華奢だと思っていたけれど、案外大きかったのねえ」
自然と萌え袖になる……萌え袖は楓の専売特許だぞ!
そう思いながら余った袖を睨む。
あと、ひいちゃんに『華奢』という要素は存在しません。
「夏緋、お前の方が緩い顔をしているぞ」
「?」
会長の言葉を聞いて、今度は夏緋先輩を見たが、今回も顔を逸らされて見えなかった。
二人とも反射神経いいなー! 知っていたけど!
「さ! 央君の素敵なファッションショーは、今日はこれくらいにして……。早く食べないと、休憩時間がなくなっちゃうでしょう?」
「あ、はい! いただきます!」
時計を見ると、思っていたよりも時間が過ぎていたので早く食べることにした。
くそっ、本当はパーカーを着た会長と、ジャケットを着た夏緋先輩を見たかったなー!
後片づけくらいは僕も手伝いたかったので、三人でパパッと済ませてきた。
やっぱり何もせずに待っているよりいい。
「ごちそうさまでした!」
「はーい、またね~!」
希里子さんにお礼を言って店を出ると、三人並んで学園に戻る。
「はあ……今日も美味しかったなあ」
またお腹いっぱい食べてしまった……。
歩いて帰るのがちょうどいい運動になりそうだ。
美味しかったし、楽しかったし、機嫌良く歩いていると会長が声をかけてきた。
「また来るぞ。今度こそ俺と二人でな」
「!」
前回も会長に「また来よう」と誘われて、僕は「三人で」と答えたっけ……。
あの時は何も考えずにそう言えたけど……今は言いづらい。
「……は? 兄貴には前に譲ってやっただろ?」
「抜け駆けした奴が何を言う」
会長と夏緋先輩が、僕を挟んで言い合いながら歩いている。
この真ん中ポジションも馴染んじゃったなあ。
釣りに行ったのも楽しかったし、今日のきこりでのごはんも楽しかった。
すごく楽しい気持ちでいたのに、急に現実に引き戻されてしまった。
告白に答えを出したら、この時間がなくなってしまうような――。
「……このままじゃだめですか」
「?」
思わず立ち止まってしまった僕を見て、会長と夏緋先輩も立ち止まった。
「央?」
「……僕、先に戻ります!」
「おい、天地!」
何だか一緒にいることが耐えられなくなり、走って逃げた。
とにかく校門が見えるまでダッシュだ。
無我夢中で走っていたから気がつかなかったが、校舎を目の前にして足を止めると息が切れていた。
「はあ、はあ……追ってこない?」
二人が本気で追いかけて来たらすぐに捕まるはずだが、振り返っても二人はいなかった。
何かを察して、そっとしておいてくれたのだろうか。
スマホに何かメッセージが入っているかもしれないけれど、今は見るのをやめよう。
二人のことが気になりながらも午後の授業を受け、スマホも確認しないまま放課後は帰宅。
家に帰っても、結局僕はメッセージを確認しないまま眠りについたのだった。
※
――翌朝。
起きてすぐに、昨日は確認しなかったメッセージを見てみた。
走って逃げたし、色々目を背けてしまっているけれど、やっぱり気になる……!
すると、予想した通りに会長と夏緋先輩から「どうした?」と心配しているような連絡が入っていた。
電話もかけてくれていたみたいだ。
これ以上迷惑をかけるのも申し訳ないので、それぞれに「何でもないです。大丈夫です」とだけ返しておいた。
「……今日も二人は迎えに来ちゃうかな」
嫌な予感がして、いつもより早く出ようとしたのだが……。
インターホンが鳴り、玄関に行った兄が少し困惑した顔ですぐ戻って来た。
それを見てもう察した。
「夏希と弟さんが来ているけど……」
……やっぱり!
「もう出発していない、って言って」
兄は一旦呼びに戻ったのだから、いることはバレバレだと思うけど、他に言い訳が思いつかない。
「いいけど……本当にそれでいいんだね?」
「うん」
俯く僕を不思議そうに見ていた兄だったが、二人に伝えるために再び玄関に向かってくれた。
「央はモテモテだねー」
「!」
変な独り言をしながら行くなー! あと僕の百倍モテてる奴が言うなー!
兄の背中に叫びたかったが、声が聞こえるとまずいので我慢した。
少し兄にイラッとしてしまったけど、無理のある頼みを聞いてくれのだから感謝しないと……。
上手く二人を説得してくれるだろうか。
気になって窓からこっそり覗いてみると、二人は何やら兄と話し込んでいた。
「…………!」
二人がこちらを見たので慌てて隠れる。
もう兄が戻ってくるまで、大人しくしていよう。
しばらく身を潜めていると、兄が戻って来た。
「伝えてきたよ」
「ありがとう。……何か言ってた?」
「ううん? 特になにも聞いてないよ。分かった、って言って登校して行ったよ」
あの二人のことだから、嘘だと分かっていたら、逃がしてくれないと思ったのだが……。
「じゃあ、オレはもう行くけど、央ももう少ししたら出るんだよ?」
「うん、いってらっしゃい」
兄を見送ってから少しして僕も家を出たが、誰にも遭遇することなく教室までたどり着いた。
どこかで待ち伏せされていたりするのかな? なんて思っていたが、自意識過剰だったらしい。
授業が始まり、昼休憩になっても連絡はなかった。
放課後になっても連絡はないし、姿も見えない。
「どうしちゃったんだろう?」
いつもなら学園にいる間に一度は必ず連絡はあるのに……。
特に用もないし、今はそっとしておいて欲しいから、都合がいいはずなのに気になってしまう。
そんな日が二日続き、三日続き――。
気づけば週末の休みになってしまった。
土曜日なっても連絡はなく、どんよりとした気持ちで迎えた日曜日――。
特に用事もない僕は、朝からモヤモヤ考えながらだらしなく時間を過ごしていた。
ずっとリビングのソファから動かず、お昼ご飯もここでピザを食べ、延々と会長と夏緋先輩のことばかり考えている。
いくら考えても煮え切らず、もうダメ人間を極めようかな、なんて投げやりになっていた。
「はあ……全然っ連絡も来ないし……」
無駄にスマホを確認してしまう自分がいる。
以前は休日でも、会長と夏緋先輩からメッセージくらいは来ていたはずなのに、何も音沙汰がない。
二人は学園を休んでいるのかと気になったが、何度か遠くから姿を見かけた。
兄に聞いても、会長は一日も休んでいないと言うし……。
「もしかして……僕に興味がなくなった?」
そんな考えが頭をよぎってはいたが、口にしてしまった瞬間、ショックで固まってしまった。
でも……心当たりがあり過ぎる!
あんなにまっすぐ告白してくれたのに、はっきりしない態度をとった上に逃亡したら……「もう知らね」ってなるかも!?
「ただいま。……って、央? びっくりさせちゃった?」
「あ、兄ちゃん……おかえりー。ううん、大丈夫……」
急にリビングの扉が開いてびっくりしたが、兄が帰って来たようだ。
え、もうそんな時間!?
気づけば窓の外の景色が暗くなってきていて驚いた。
いつの間に夕方になっていたんだ?
「元気がない気がするけど、どうしたの?」
「え? 別に何もないけど……」
何もないことが気になるというか……。
そういえば、ひとつ引っかかっていることがある。
兄が迎えに来てくれた二人に対応してくれた時のことだ。
「兄ちゃん。会長と夏緋先輩が朝に来てくれた時……何か言った?」
そう聞くと、兄は少しびっくりしていたが、「んー……」と少し考えてから答えてくれた。
「央をあまり追い詰めないでやって、ってお願いしただけだよ」
「! そうだったんだ……」
それであれから二人が接触して来なくなったのか……!
納得したと同時に少しホッとした。
……よかった、嫌われたわけじゃなかった。
「二人が離れて寂しい?」
ソファの隣に座った兄が、妙に優しく聞いて来る。
僕から今の事情を詳しく話したりはしていないけれど、色々察しているんだろうな。
「寂しいけど……分かんない」
「ゆっくり考える時間はあったでしょ? 今度は央の方から歩み寄って見たら?」
「そう、だね」
僕から歩み寄らないといけないのは分かってはいる。
でも……どっちも大事なんだ。
だから、どっちかを選んだら、どっちかと会えなくなるのは嫌だ。
どっちも傷つけたくないし……。
けれど、はっきりしない僕の態度が、一番二人を傷つけているかもしれない。
……いい加減、僕も向き合わないといけない。
※
月曜になり、今日も一人で登校。
ずっと同じことを悶々と考えている内に放課後になった。
「歩みよるって言ったってなあ……」
まず、どちらに声をかけたらいいのか分からないし、なんて言ったらいいのか分からないし……。
生徒会室に行ってみようか、とも思ったが、勇気がでない。
……明日にする? なんて小心者の僕が声をかけてくる。
「とりあえず、ジュースでも買いに行こうかな」
学園内にいたら、偶然会ったりするかも……なんて偶然に賭けてみようとする気持ちを少し持ちつつ、自販機がある食堂のホールへと向かった。
「ここにも三人で買いに来たな……」
会長のお手伝いをした報酬のジュースを買って貰うため、ここに向かっていたら春兄と遭遇して大変だったなあ。
つい思い出し笑いしそうになっていると、隣の自販機に人が来たので慌てて顔を引き締めた。
「…………。……あれ、夏緋先輩?」
「久しぶりだな」
隣に見慣れたパーカーが見えたからびっくりした。
夏緋先輩の方はしれっと、取り出し口から買ったジュースを取っているけれど、僕は驚きすぎてジュースを買ったことも忘れそうになってしまった。
「どうした?」
「ちょっとびっくりしただけです。……久しぶり、ですね。でも一週間くらいですよ」
「オレには長かったがな」
「!」
……それは、会えなかったから長く感じた、的な!?
またびっくりしてしまったが、そういえば……夏緋先輩がこういう系の話を人前でするなんて! と周囲を見回したら誰もいなかった。
ひとまずホッとしたが、こうして会えて嬉しいような、心の準備がまだできていないような……!
「オレ達から離れて、気は楽になったか?」
そう聞かれて、やっぱり兄に言われたから遠慮してくれていたのだと再確認した。
兄に注意するようなことを言われて怒ってないかな、と少し不安になったが、夏緋先輩の表情を見ると怒りはない。
いつも通りというか、ちょっと雰囲気が優しいくらい……。
だからか、前よりも素直に話しやすいような……。
「楽……にはなってないかな。分からないです」
「そうか」
夏緋先輩は少し笑いながら頷くと、こちらを見た。
「寂しかったか?」
視線を向けられてそんなことを言われると焦ってしまう。
でも、今日はまだ落ち着いて話せそうだ。
「……そうですね」
少し照れながら頷くと、夏緋先輩が微笑んだ。
「オレはお前の望むようにする。……どうしたい?」
「…………」
素直に話せるようになっても、最終的な答えはまだ出せずにいた。
黙っていると、夏緋先輩は「急かしてない」と言ってホールの出口へと行った。
「夏緋先輩?」
せっかく久しぶりに話ができたのに、もう行ってしまうなんて……。
でも、答えを出せない僕に引き留める権利なんてあるのだろうか。
そんなことを思っていたら、夏緋先輩は出口で足を止めた。
「オレに会いたくなったら、放課後にここに来い。オレは大体ここで時間を潰してるから」
そう言うと夏緋先輩は去っていった。
話せたのは、本当に数分だった。
もっと話したかったけれど……話せてよかった。
夏緋先輩と話せたから、会長と話せたらいいな……。
そう思いながらホールを出たところで、廊下の壁に背を凭れ、立っている人がいた。
今は放課後でたまたま人がいないが、これが朝なら遠巻きに眺めて目を輝かせている女子がいっぱいいただろうな。
「会長……」
「また夏緋に先を越されたようだな」
どうやら、さっき出て行った夏緋先輩とすれ違ったようだ。
口では夏緋先輩に文句を言っているが、表情は全然悔しそうじゃない。
こういう余裕のある表情は、「お兄ちゃん」だなあ。
僕の兄もよくこういう顔をしていて、勝てないなあと思う。
「どうだ? そろそろお前の考えはまとまったか?」
「えっと……」
少し焦ったが……今日は会長にも素直に話せそうだ。
「正直、頭の中がまだぐちゃぐちゃです」
そう答えると、会長が笑った。
「ははっ! そうか。まあ、まだゆっくり考えろ」
会長も夏緋先輩と同じようなこと言うと、生徒会室に行く階段の方へと動き出したが、その前に僕の頭に手を置いた。
「……お前の中に、俺がいるといいが」
「!」
「お前が知っている通り、俺は大体生徒会室にいる。会いたくなったら来てくれ」
そう言うと、会長も階段を上がって去って行った。




