あけましておめでとうございます2026
今日は元旦。
朝起きるとめずらしく雪が積もっていた。
雪遊びしたいなあと思いながらも、一人でこたつでのんびりしていたら、楓からメッセージが届いた。
テニス部は年末年始も任意で部活動があって、楓は今日も行っていたそうなのだが、雪が積もっているからまともに練習できず、遊んでいるらしい。
そこにおいでよ、と誘って貰ったので、せっかくだから行ってこようと思う。
兄もテニス部に差し入れをするために行っているようだし。
寒いのでマフラーも手袋もつけ、さらにはカイロも持って完全装備で学校に向かった。
華四季園に着くと、元旦なのに思ったよりも生徒がいた。
僕のように招集されて集まってきたのかもしれない。
人通りがある場所は雪がないが、植木の辺りや日陰のところは、まだ雪が20センチ以上積もっている。
「アキラ!」
テニス部の近くに行くと、雪が多く積もっている一帯に楓が一人でいた。
部活のジャージだが、分厚い上着とマフラーを巻いている。
もこもこしているのが似合うし可愛い。
メッセージでは済ましているけど、改めて「あけましておめでとう」と挨拶を交わしてから、楓がいた場所を改めて見る。
一人で何をしているのかと思ったら、30センチくらいの雪だるまを二つ作っていた。
目が緑の木の実のものと、赤い木の実の目のものだ。
「僕と楓みたいで可愛いじゃん」
「でしょ? 写真撮っておこうっと」
スマホを取り出して捜査しているが、素手で雪を触っていたから手が赤くなっている。
「手、痛くない? これあげる」
途中に自販機で買ってきたホットのカフェオレを渡してやると、楓は嬉しそうに受け取った。
「ありがとう! 手が凍りそうだったから助かる~」
楓がほっこりしている間に、僕も雪だるまを作ることにした。
手袋をつけたままだとびちょびちょになりそうだから取るか。
雪を手に取ると冷たくてふわふわしていた。
童心に返ってわくわくしながら、手が痛くなる前に雪だるまを完成させようと雪玉を作り始める。
これだけ積もっているから、大きな雪だるまを作りたいな。
顔は木の枝とか実で作れそうだ。
僕の身長と同じ……のは大変だったから、小学生くらいの雪だるまで妥協し、すぐに周囲に落ちていたものを使って顔を作っていると——。
「央、楽しそうだね」
「!」
誰かが近づいてきたと思ったら、私服姿の柊だった。
「え、柊さん!? あけましておめでとう……って、元旦から仕事?」
「あけましておめでとう。雪が積もっているから、花壇の様子を見にきたんだ。建物の中に入れておいた方がいい鉢植えもあるからね」
たしかに私服だけどおでかけするようなコートではなく、作業しやすそうなダウンを着ている。
何だか新鮮だ。
「用事が終わったらなら帰りなよ」
「この雪だるまは誰かなのか?」
敵意剥きだして追い払おうとする楓を無視した柊が、僕が作っている雪だるまを見て聞いてきた。
木の枝と実で作ったするどい目つきが気になったらしい。
「これは会長」
ニヤリ顔をしているときの会長の口にそっくりな曲がりかたをしている木の枝をみつけたので、拾って取りつけた。完璧すぎる。
「ここにいないのに……なんで会長なの? ボクを作ってよ」
「僕とお前はもういるじゃん。会長は華四季園のダンジョンマスターだから存在しておいて貰わないと」
「今から俺に変えてもいいんだよ?」
不満げな楓に続いて柊も主張してきたが、顔面国宝の柊は雪だるまって感じがしないんだよなあ。
「うーん……柊さんは氷の彫刻とかにしないといけない気がする。今の僕のスキルでは無理だよ」
「じゃあ、いつか作ってくれるのを楽しみにしてるよ」
「うん」
氷の彫刻なんて作ることができるのか分からないが、ゲームとかならできるかもしれない。
やるからにはクオリティが高いものを作りたいな。
「もう雪が積もることなんてないかもね」
「央、休みの間にスキーで行かないか?」
「あんたとなんて行くわけないだろ!」
僕を挟んで行われる楓と柊の小競り合いをBGMにしながら手を動かす。
細長い葉っぱが落ちていたから、チョーカー代わりに巻いたら完全に会長になって笑った。
完璧すぎる。チョーカーだけの裸みたいだけど!
「似すぎだなあ。僕って天才かも」
「たしかに似てるかも……ふふっ」
あまりにも上手いからか、楓も笑っている。
「央は器用だな」
「でしょ? 夏緋先輩も作ってあげよう」
手が痛くなってきたから雪だるまじゃなくて、雪ウサギにするか。
葉っぱの前髪で片目を隠して——目つきが悪くて——。
「よし、どう見ても夏緋先輩」
「眼力がすごいウサギだなあ」
楓が笑っているが、そこが激似ポイントなのだ。
出来がいいので本人たちにも見て貰いたい。
さっそく写真を撮って二人に送信した。
「楓~! あ、央も来ていたのか」
誰かが駆け寄ってきたと思ったら、兄が楓を探しにきたようだ。
「残ってるテニス部員で雪合戦しようってことになって、楓を呼びにきたんだ。央もおいでよ」
テニス部に混じるのは気が引けるが、兄と楓がいるならいいか。
「あんたは帰りなよ」
「生徒が悪さをしないように見張ってないとね」
会長雪だるまと夏緋先輩雪ウサギはこのまま残し、みんなでテニス部の方に行くことにした。
※※※
テニス部のコートに行くと、6人くらいの部員が残っていた。
兄と一緒にきた僕を温かく迎えてくれたが、みんな柊にはちょっと驚いている。
「柊さんも参加するの?」
「俺は見ているだけだよ」
僕の質問に答えた柊の言葉に、部員たちはホッとしているようだ。
この綺麗な顔と何か一緒にするのは緊張するし、そもそも生徒じゃないから対応に困りそうだ。
正直、見てるだけでも気を使いそうだけど、帰れと言っても帰らないだろうなあ。
「兄ちゃん、雪合戦ってどんなルールだっけ?」
テレビで見た雪合戦は、障害物に隠れて雪玉をぶつけたり、サバイバルゲームみたいな本格的なものだった。
「正式なものじゃなくて、単準に『ボールをぶつけられた人が負け。生き残った人が勝ち』の雪合戦にすることにしたんだ。逃げてもいいフィールドは、このテニス部の敷地内だけ」
「雪玉ぶつけデスゲームってことか……」
僕のセリフが聞こえていた部員たちが「たしかにデスゲームだ」と笑っている。
「物騒な言い方だなあ。でも、真剣勝負だから案外適した表現かもね!」
気合十分にそういう兄に、部員たちはちょっと緊張した様子だ。
僕も『容赦しない、ってことか』と嫌な予感がしてきた。
本気の兄ちゃん、怖いんだよなあ。
そろそろ始めようか、という兄の掛け声で、みんな雪玉ひとつを持ってフィールド内に散った。
フィールドとされた場所には、テニスコートと倉庫があるだけだ。
壁がある倉庫の辺りに行きたいけど、全員同じことを考えるだろうし、どうしようかな。
おそらく兄が一番の脅威で、楓も……と思ったところで悪知恵が働いた。
「楓、一緒に兄ちゃんを倒そう」
楓を敵じゃなくて味方にすればいいじゃん!
「いいね。真先輩手強いし、連携して倒しちゃおう!」
楓も乗り気なので、僕らは一緒に『打倒天地真!』を目指すことにした。
「柊さん、開始の掛け声お願いします!」
みんなの体勢が整ったところで、兄が見守り役の柊に頼んだ。
「央、がんばってね。スタート」
「審判ポジが個人応援するな!」
問題のあるスタートの掛け声にツッコミをしてから、僕は周囲を警戒した。
数人こちらを狙ってきていたが、楓と付かず離れず行動しながら反撃をし、兄の様子を見る。
兄は楽しそうに恐ろしいスピードで次々と部員たちを仕留めていっていた。
「兄ちゃん怖い……」
「真先輩、こういうの容赦しないんだよね……」
たしかに、子どもの頃も『遊び』だったら勝たせてくれたりしたけど、『勝負』となったら本気だったもんなあ。
悔しかったらがんばれ! みたいなスパルタなところがあった。
そんなことを考えている間にも生き残っている人は減っていて、気づけば兄と僕たちしかいなくなっていた。
倉庫の方にいた兄が笑顔をこちらに向ける。
「徒党を組むのはよくないよ?」
そう言ったあと、どんどんと雪玉を作って投げてきた。
距離があるのに、兄が投げる球は早いし正確だ。
避けるのに必死で中々反撃できない。
僕は兄ほどうまく投げられないし、上手くいっても避けられてしまう。
楓と2対1なのに押されている気がする!
「疲れてきた……ぐあああっ!」
気を抜いた瞬間に、盛大に当たってしまった。
そのショックで雪の上に倒れ込む。
「う……楓、ごめん……あとは頼む! 仇を討ってくれ!」
「が、がんばる!」
邪魔をしないように端に避けると、柊が近寄ってきた。
「央、大丈夫? いっぱい雪がついてるよ」
「大丈夫……はあ、怖かった……」
手伝って貰いながら雪を取っていると、通りがかった誰かがこちらに近寄ってきた。
「央? 来ていたのか。なんか楽しそうなことしてるな」
「春兄!」
春兄もバスケ部関連で学校にきていたのか、ジャージにダウンジャケット姿だ。
必死の楓とは対照的に、にこにこで雪玉を投げている兄を見て笑っている。
「雪玉ぶつけデスゲームやってるんだけど、兄ちゃんが強すぎて……! そうだ、春兄も参戦して!」
僕の言葉にきょとんとしていた春兄だったが、すぐに「任せろ!」とニカッと笑うと、フィールドに入っていった。
「俺も参加するぞ!」
突然現れた春兄の言葉に兄と楓はびっくりしていたが、すぐに把握したのか二人とも春兄を狙い始めた。
見守っていた部員たちは、スペシャルゲストの登場に興奮しているようで、ワイワイとにぎやかな声を上げている。
「ちょ……おい! 二人とも俺を狙うのかよ!」
慌てて避けた春兄が、すばやく雪玉を作って二人に反撃していく。
弾丸のような雪玉が激しく行き交い、僕も周囲も呆気にとられる……。
「すごい三つ巴だな……」
「早くに離脱していてよかったよ」
聞こえてきたテニス部員たちの会話に、僕も激しく頷いた。
「あ!」
とうとう春兄が投げた雪玉が楓に当たった。
春兄より前から投げ続けていたから、疲労が溜まってきていたのだろう。
少しすると、悔しそうな楓が隣に戻ってきた。
「くっそー腕が疲れちゃった……。アキラの仇取れなかった!」
「三年の二人相手に負けてなくてすごかったぞ」
「ほんと? やったー」
もたれ掛かってきて重いが、ちょっと休憩させてやるか。
柊が「それ、捨ててこようか?」と言っているが、今は許してやってくれ。
そんなことをしている間も、兄と春兄のサシ勝負が続いている
バスケでボールを投げる腕力がある春兄と、テニスで培った動体視力と体力がある兄の対決は互角だ。
「これ、無限に続くんじゃないかな……」
止めた方がいいのかな、と悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「これは何をしているんだ?」
「え、会長!?」
振り向くとぴしっとしたコート姿の会長がいた。
どこかに新年の挨拶にでも行っていたのか、フォーマルな装いだ。
どう考えても学校にいる格好じゃない。
「どうしてここに?」
「お前が呼んだんだろ」
そう言って見せてきたスマホの画面には、さきほど僕が送った会長雪だるまと夏緋先輩雪ウサギの写真が表示されている。
「呼んではないですけど……」
はあ、とため息が聞こえてきた方を見ると、夏緋先輩が立っていた。
お前も来い! と連れてこられたのだろう。
「えーと……ご愁傷さ……じゃなくて、あけましておめでとうございます」
「…………」
無言で抗議しないでください!
僕のせい……かもしれないけどさ!
「央。それで、真と正月早々はしゃいでいる阿呆は何をしているんだ?」
「あ、ただの雪合戦……みたいなものです。会長は雪合戦をしたことがありますか?」
「ないな。雪だるまも作ったことがない」
「えー!」
じゃあ、やってみます? と口が言いそうになったが、後ろにいる夏緋先輩が「やめろ」という目をしていたので飲み込んだ。セーフ!
「あ、春樹! タイム! 夏希~!」
春兄と戦っていた兄だったが、会長がいることに気がついたようで声をかけてきた。
「オレ、疲れてきちゃったから、こっちに助っ人で入ってよ!」
え! 会長も参戦!? しかも『春兄 VS 兄と会長』!?
「よし! 行ってやる!」
驚いている間に、会長は意気揚々と向かっていった。
「青桐! お前、無駄に真に近づくなよ! 央! お前も来いよ!」
「ええええ!?」
春兄に呼ばれて、思わず大きな声を出してしまった。
ここに入っていくなんて無理過ぎる!
大きく首を振って断ったが、春兄は笑顔で手招きをするばかりだ。
……拒否権はなさそうだ。
「う……じゃあ、僕は夏緋先輩も連れて行きます!」
「どうしてオレが!」
「僕一人で会長に釣り合うわけがないでしょ!」
弟同士、一蓮托生だからな!
全身で拒否のオーラを出す夏緋先輩の腕を掴んで、再びフィールドに戻る。
高そうなコートを着ているが、僕は知らん!!
「もっと仲間を増やしても構わんぞ?」
「夏希がいたら、オレは楽できそうだなあ」
腕組みして自信満々の会長とニコニコしている兄が、魔王と参謀に見えてきた。
僕が魔王軍に一撃食らわせることができるとは思わない。
一弾限りの肉壁になるしかない……。
そんなことを考えていたら、春兄が僕と夏緋先輩にこっそり話しかけてきた。
「基本、俺は青桐しか狙わないし、青桐も俺しか狙わないだろう。真はそれを分かって俺以外を潰して行くだろうから、お前たちは真を警戒しろ」
たしかに会長と春兄はお互いを真っ先に潰しにかかりそうだ。
僕はこくこくと頷いたが、夏緋先輩はまだ乗り気じゃないのか微妙な顔をしている。
「お前も兄貴に一泡吹かせてやろうぜ」
さわやかな春兄の呼びかけにも複雑そうだ。
「夏緋先輩、あの魔王と参謀を倒しましょう!」
「魔王と参謀って何だ……」
夏緋先輩はまだまだ嫌そうだが、ここまできたら腹を括って参加してください。
「お前たちだけで俺に立ち向かうということでいいんだな?」
「こっちには勇者がいるんだぞ! 滅びろ魔王!」
春兄の後ろに隠れながら抗議すると、会長は雪だるまにそっくりなニヤリ顔を見せた。
「悪いな、央。勇者は魔王に敗北することになる」
「悪は滅びる運命なんだよ。お前を潰して、俺は参謀を取り返すからな」
なんだか知らぬ間に参謀をめぐるラブストーリー(?)が生まれていて食いつきそうになったが、そんな場合じゃなかった。
それぞれ配置について雪玉を作ろうとしたのだが……。
「…………」
夏緋先輩は雪玉を作るのも嫌そうだ。
積もった雪は綺麗に見えて雑菌が多いからですね……。
これまた高そうな手袋をつけているが、それも外すつもりはなさそうだ。
「はい」
作った雪玉を渡すと渋々受け取ってくれたが、毎回渡すのは嫌だからね!?
「じゃあ、柊さん! 再開の合図お願いします」
再び兄が柊に合図を頼む。
「央に怪我させないように! スタート」
「だから審判ポジが個人名をだすな!」
同じ流れに、なぜか僕が恥ずかしくなってしまったじゃないか!
無駄に精神ダメージを負いながら雪玉ぶつけデスゲームが始まった。
すぐに弾丸のような雪玉が飛んでくるようになり、僕はあたふたすることしかできない。
「弾丸っていうか、もはやマシンガンじゃん!」
春兄は応戦しているが、夏緋先輩は回避しているくらいだし、向こうから飛んでくる数が圧倒的に多い。
逃げるのに精いっぱいで雪玉をつくる暇がないと思っていたら——。
「はい。央」
柊が雪玉を渡してきた。
大きな手と強い力で作られた雪玉は、中々攻撃力が高そうだ。
「え、ありがとう!」
「あ、賄賂だ」
「構わん!」
僕と柊のやり取りを兄と会長が見ていたが、温情で許された。
やった! どんどんください!
なんとか僕も柊に助けて貰ったり、自分で反撃をしていると、夏緋先輩のところに雪玉がたくさん飛んでくるようになった。
兄が投げているのかと思ったら……会長だった。
「夏緋! お前が一番情けねえな! 突っ立ってるだけなら央の壁にでもなってろ!」
「!」
会長に煽られて、夏緋先輩がイラッとしている。
僕が巻き込んじゃったし、ちょっと申し訳ない。
あ、でも、向こう側の攻撃が怖いので壁は募集してます。
そんなことを考えていたら、僕が持っていた雪玉が手からなくなっていた。
夏緋先輩が僕から奪うと、力いっぱい会長にめがけて投げていたのだ。
怒りのパワーを発揮したのか剛速球で、今までで一番会長が焦った様子で回避した。
「おお! 青桐弟、やるじゃん! どんどん行け!」
これには春兄もテンションが上がっている。
そんな春兄も無視して、夏緋先輩はすぐに雪玉を作って会長めがけて投げ始めた。
「天地! お前が投げても当たらない! 作ったらどんどんオレに渡せ!」
「はいっ!」
僕が投げても当たらないという現実を突きつけられてガーン! とショックを受けたが、その通りなので僕は雪玉を作る係に徹しよう。
それにしても、夏緋先輩……コントロールいいな!?
ずっと会長の顔面を狙っている気がする。
ヘッドショット職人怖すぎでは!?
夏緋先輩が本格参戦して、かなりいい試合になってきた。
さっきまで余裕を持ってやっていた兄も、真剣に夢中になって戦っている。
試合としては素晴らしいのだが……長期戦になると、一番体力がない人間からバテていくわけで……まあ、僕なんですけど……。
雪玉を作っているだけなのに手が痛いし……もう離脱していいですか?
一番キレのある動きをしている会長を見たら、まだまだ元気というか、開始から様子が変わっていない。
「はあ……さすがゴリラ……掴んで投げるの得意ですね」
「はっ! ……お前っ、笑わせるな!」
「あ」
僕のつぶやきが聞こえていた夏緋先輩の気が緩んだのか、投げ損ねたところを狙われ——。
兄が投げた雪玉が、夏緋先輩の頭に当たった。はわわ……!
「…………」
ゆっくりとこちらを見た夏緋先輩が、めちゃくちゃ怒っていることが伝わってくる。
「ご、ごごめんなさい! ぐあっ」
謝っている間に、僕も兄にぶつけられてしまった。
これで魔王軍との戦いに残っているのは、勇者春兄だけになってしまった。
「あとは雑魚勇者だけだな。俺は民主的な魔王だ。安心して故郷に敗走するがいい」
「言ってろ。敗走するのはお前だ」
まだバチバチに争っている勇者と魔王をしり目に、敗者となった夏緋先輩と僕は横にはける。
「あの、正月早々に何かとすみません」
「ほんとにな」
夏緋先輩は雪でびちょびちょになってしまった手袋を外しながらため息をついているが、顔を見ると少し微笑んでいた。
あまり怒っていないようでよかった。
手が冷たいのかコートのポケットに手を入れたので、そこに僕が使っていたカイロを突っ込んであげた。
「!」
「これで許してください」
「……ぬるいな」
「文句を言わないでください」
それにしても疲れましたね、とぐったりしていると——。
「カイロいいな。オレの分もない?」
「兄ちゃん!? いつの間に当てられたの?」
兄がひょっこりと現れたので驚いた。
「疲れちゃったから抜けてきた。たぶんあの二人、延々とやってるから……」
魔王と勇者を見ると、たしかにさっきまでと変わらぬ様子で雪玉を投げ合っていた。
両方とも体力おばけじゃん……。
「付き合いきれないな」
そう零した夏緋先輩の言葉に、兄と僕は苦笑いを浮かべた。
「オレが見届けるから、休憩してきなよ」という兄の言葉に甘えて、僕と夏緋先輩、柊木と楓たちもしばらく食堂で休んだのだが……。
勇者と魔王は、結局兄が止めるまでやっていたらしい。
ある意味、犬猿の仲の二人が仲良く? して始まった年なので縁起がいいかもしれない。
何はともあれ、あけましておめでとうございます。




