表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/101

テニス部練習試合

コミカライズ25話更新、楓ルートが始まりました!

楓の可愛いが詰まってます……!


※楓ルートのもう少しで付き合う頃のイメージです。

 金曜の夜、夜更かししてゲームをした。

 目が覚めて時計を見ると、もう十時——。

 空はすっかり明るくなっている。

 のんびりした土曜日の朝だ。


 家には僕ひとり。

 今日は学校がないけれど、テニス部は他校のテニス部と練習試合があるらしい。

 それで兄はすでに家を出ているのだ。

 同じテニス部員の楓も参加すると聞いている。


 楓には「たまには見にきてよ」と言われたけど、行くと大体「テニス部に入って!」と部の人から勧誘されて億劫なので断った。

 大会ならともかく練習試合だし、ゲームのイベントが始まっていたから、徹夜する覚悟だったしね。

 楓は「ゲームよりボクが大事でしょ!」なんて言っていたけど、「ボクとゲーム、どっちが大事なの!」じゃなくて、確定事項として詰めてくるのが楓らしくていい。


 ……なんてことを考えていたら、だんだん「行ってみようかな」という気になってきた。

 三年生は部活の時間も減るだろうし、兄が試合しているところを見られる機会ももうあまりないかもしれない。

 それに誘いを断ったときの楓は、怒っている風にして隠していたけど、寂しそうな顔してたんだよなあ。


「たしか……スポーツ公園のテニスコートでやるんだったよな」


 兄と楓から聞いた場所を思い出して、ネットで検索する。

 アクセス方法を調べると、バスで行くのが一番よさそうだった。

 でも、一人で行くのはちょっと寂しい……あ、春兄も行くかもしれない。

 思い立って電話をかけると、春兄はすぐに出てくれた。


「春兄! 兄ちゃんの練習試合、見に行く?」

『おう。今日はバスケ部休みだから、もちろん行くぞ』

「じゃあ、僕も一緒に行く!」


 ※


 兄たち昼食後に始まるというので、僕は朝食兼昼食を食べて身支度をしたあと、春兄と合流した。

 バスを降りてスポーツ公園を目指し、並んで歩きながら話す。


「今日、まさかお前と一緒に来られるとは思わなかったよ。昔はよく真の試合を見にきていたけど、最近はなかったからな。あのチビのおかげかな」


 チビというのはもちろん楓のことだろう。

 何かを探るような顔で聞いてくる春兄をスルーして進む。


「もうテニス部に勧誘されてもよくなったのか?」

「よくない。僕は帰宅部名誉部員だから、他の部には移籍できません」

「帰宅部に名誉なんてないだろ。家に帰るだけなんだから」

「正論ひどい」

「バスケ部はどうだ? 歓迎するぞ」

「春兄、卒業ですぐいなくなるじゃん」

「俺がいないと寂しいか? お前は可愛いなあ。あ、真の次にな」


 ヤキモチ妬きの兄がいないところでも配慮するのは素晴らしいが、わしゃわしゃ頭を撫でられると歩きにくいからやめて!


 騒ぎながらも公園の敷地に入り、案内看板に従ってテニスコートへ向かっていく。

 次第にジャージ姿の他校のテニス部員や、応援に来ている学生や家族らしき人たちの姿が見え始める。


 テニスコートが見えてくる頃には、もう歓声が聞こえていた。

 女の子たちが集まっているあたりに、兄や楓がいるのだろう。

 コートは四面あり、その周りをフェンスが囲んでいる。

 観客たちはフェンスの外から声援を送っていた。

 人が多くて、部員たちの姿はよく見えない。


「あ、春樹君だ」


 どこで見ようとキョロキョロしていたら、フェンスにくっついて見ていた女の子たちが春兄に気づき、場所を空けてくれた。

 遠慮したけれど「どうぞどうぞ!」と譲って貰い、お礼を伝えながら『兄ファンの中でも春兄は旦那として周知されているのだろうか』なんて考えていたら、「央君だ!」と誰かに名前を呼ばれた。


「ど、どうも……?」


 僕を見ていたのは、同年代の見知らぬ女の子だった。

 私服だから分からないが、華四季園の生徒だろうか。


「楓君の応援にきたの?」

「あ、うん」

「楓君、喜ぶね!」


 喜ぶとは思うけど、知らない人がどうして分かるんだ?

 友だちと一緒に離れていく女の子をちらりと見て首を傾げていると、春兄が「知り合い?」と聞いてきた。


「ううん。華四季園の人かな。楓と僕のこと知っているみたいだったけど……」

「そうだろうな。お前ら、いつも一緒にいるし、チビがくっついてるところでもよく見ているんじゃないか」


 知らない人にも『よくくっついてる』と思われているとしたら恥ずかしいな……。

 ちょっと帰りたくなってしまったが、気を取り直してテニス部員たちを見ていると、楓を発見した。

 目が合いそうになったので、僕は慌てて春兄という壁の後ろに隠れた。


「何してるんだ?」

「こっち見ちゃだめ! こっそり見たいから!」


 とくに深い意味はないのだが、なんとなく僕がいないときの楓を見たい。


「なんでだよ。顔見せて応援してやれよ」

「見せるほどの顔じゃないので」

「真とそっくりな顔で何言ってんだか」


 たしかに兄ちゃんは世界中に見て頂きたい神様の祝福を受けた顔面ですが、僕は似て非なるものなので潜んでいるくらいがちょうどいいのです。


 どうやら今から試合が始まるようで、集まっていた部員たちが移動し始めた。


「楓く〜ん! がんばって~!」


 離れたところから、楓を応援する声がした。

 さっきの女の子たちとはまた別の子たちが、楓に向かって手を振っていた。

 楓は知っている子たちだったのか、軽く手を振り返している。

 奥の方にいる兄にも歓声があがっていて、同じように声援に応えていた。

 二人ともやっぱりアイドルじゃん! と思っていたら、近くにいた同年代の男子三人組が文句を言い始めた。


「うるさいよな」

「キャーキャー言われているようなやつは、モテるためにやってるんだろ」

「遊びでテニスやるなよな」


 対戦相手側の友人か?

 歓声をあげる女の子たちや、応援されている兄や楓にごちゃごちゃ言っている。


 兄や楓が遊びでやってるわけないだろ……!

 思わず眉をひそめた僕の隣で、春兄も文句を聞いていたらしく、顔を険しくしていた。


「!」

「お、おい……」

「あっちの方で見るか……」


 春兄と僕から睨まれていることに気づいた三人は、怯えるように去って行った。


「春兄の顔が怖いから逃げちゃったよ」

「お前こそ」


 二人で顔を見合わせて笑っていると、近くにいた女の子たちがコソコソ話をしていた。


「相手のために怒っている姿尊い……」

「やばい、私のめちゃくちゃ好きなやつ……!」


 チラチラこちらを見ているから、睨んでいたのを見られていたのだろうか。

 君たちに怒っているわけじゃないからね!

 びっくりさせたならごめん!


「チビのところは始まるようだな」


 春兄の言葉で楓の方を見ると、楓はコートで対戦相手の生徒と向き合っていた。


「1セットマッチらしいぞ」

「何それ」

「6ゲーム先取だな。まあ、30分くらいで終わるだろ」

「なるほど?」


 ……さっぱり分からない!

 2点差以上あけての4ポイント取れば1ゲームだっけ?

 それを6つ先取すればいいのか?

 昔兄に教えて貰ったのだが、どうも記憶があやふやだ。


「テニスって得点方式むずかしくない?」

「お前がやっているゲームのルールより、シンプルなんじゃないか?」


 たしかに覚えることが多いものもあるけど、ゲームの系統で予想がつくから覚えやすい。

 やっていたら自然と覚えるし。

 まあ、興味があることはすぐに覚える、ということかな。


 試合が始まって楓がサーブしているが……球が速い!

 僕より腕力があるかも……?

 ケンカしたら、楓にはラケットとか武器を持たせないようにしよう。


 ラリーが続き、ラケットがボールを打つ心地よい音が響く。

 楓は軽やかにステップを踏んでいて、ボールを一直線にコーナーへと突き刺した。

 部活の仲間から「ナイスショット!」と歓声が上がる。


「楓君かっこいい~!」


 観客席の方からも黄色い声が上がっていて、他の試合よりも注目を浴びていた。

 人気者なのは分かっているが、楓が「かわいい」ではなく「かっこいい」と言われているのがなんだか新鮮だ。

 たしかに鋭いショットを打つ様子や真剣なまなざしが、凛々しくてかっこいい。

 そうだ、写真を撮っておこう。


 スマホを取り出してレンズを向けていると、僕と同じように楓を撮っている人たちがいることに気がついた。

 撮るなー! と前に出て邪魔したい衝動に駆られたが、ぐっと我慢した。

 学校が撮影禁止にしてくれたらなあ。

 あ、でも、そうなると僕も撮れないや、くそっ!


 それから、楓はリードして順調に点を重ねていたが……。

 相手も意地を見せ、粘り強いラリーで徐々に点差を詰めてきた。


 スコアを見ると、さっきまで開いていた点差がもうほとんどない。

 次を決めれば勝利なのに、このままだと並ばれそうだ。


 ハラハラしていると、さっきの男子三人組が嬉々として相手選手を応援しているのが見えた。

 粘り強いプレイを見せている相手選手は素晴らしいが、あいつらが喜ぶのは腹立つー!

 絶対負けられない!


「楓! がんばれ~!!!!」


 思わず前に出て、フェンスにしがみついて声を張り上げると――。


「!」


 楓がこちらを見た。

 そして僕に気づくと花が咲いたようにぱあっと顔をほころばせた。

 か、可愛い——!


「可愛いいいいっ!!!!」


 僕の心の声と重なるように、女の子たちの叫び声がした。

 周囲からもどよめきが起き、観客が一気にざわついている。

『凛々しい』から『可愛い』に急変の破壊力は凄まじく、被弾してしまった多くの人が動揺している。


「うん?」


 楓が口をパクパクさせて何か言っている……?

 任せろ、僕は忍者になるゲームで読唇術を習得している男だ。


 何々……口を尖らせて、からの……歯を見せるように、イーと言っているような……『すぅーきぃー』?


「…………」


 もしかして、『好き』って言ってる?

 あれほど人前で恥ずかしいことを言うなと伝えているのに、こんなところでまで……!

 照れと焦りでわたわたしていると、春兄と目が合った。


「な、何!?」

「別に。いいな、あれ。真にもやって欲しいよ」


 しっかり理解しちゃってるし! ……って、兄が春兄にするのはいいな。

 想像したらきゅんとした。


「兄ちゃんに頼んでみてよ」

「無理だろ……でも、まあ……一応言ってみるか……」


 照れが兄カプの供給で中和されたよ、ありがとう。


 楓は小さく手を振ると、気合を入れ直して再び試合に集中した。

 次の一点を取れれば、追いつかれることなく勝利を手にできる。


 相手のサーブが一直線に飛んでくる。

 この試合で最速のスピードボールだが、楓は一歩も引かない。

 軽く膝を曲げ、タイミングを見計らって踏み込む。

 ラケットが風を切る音と同時に、ボールが相手コートのラインぎりぎりに突き刺さった。

 アウト……?

 審判の手が一瞬迷ったが——。


「イン! ゲームセット!」


 高々と上がったのを見て、観客から歓声があがった。


「やったっ! 楓の勝利!!」


 楓もこちらを見て嬉しそうに笑っている。

 なんて笑顔がまぶしいんだ。

 天使の微笑みに浄化されて忘れてしまっていたが、例の三人組も悔しそうだ。

 ふはは、正義は勝つ!

『可愛い』という正義も持っている楓は強いのだ!




 興奮が残るコートで、次の練習試合が始まった。

 華四季園側に立っているのは兄だ。


「真〜! がんばれよ!」

「兄ちゃんファイトー!」


 二人で応援の声を飛ばすと、兄がにこっとほほ笑んで手を振ってくれた。


「お前の方にほほ笑んでいたような……気のせいか?」


 春兄は悔しそうに聞いてきたけれど、弟と対抗しなくても……。


「僕に応援された方が嬉しいからじゃない?」

「ふん……お前がいるのはレアだからな」


 そう言って自分を納得させているようだ。

 旦那の些細な嫉妬はいくらあってもいいので、どんどんどうぞ。

 兄の試合が始まったのだが——。


「兄ちゃん強っ」


 相手を完全に圧倒し、力の差は誰の目にも明らかだった。

 楓は強いけどまだ一年なので序盤のボス、兄は終盤の大ボスクラスという印象だ。

 もしかしたらラスボスかもしれない。

 そう感じる迫力はある。

 テニスは趣味で続けると言っていたけど、なんだかもったいない気もする。

 圧倒されている間に試合は終わり、兄は快勝した。


 その後、他の部員たちの試合が続き、予定通り午後四時ごろに練習試合は終了。

 部員たちは集まってコーチの話を聞いていたが、現地解散とのことで、それぞれ帰路につき始めた。

 兄はコーチや他の部員たちと話しており、春兄はそちらに駆け寄っていった。


 僕は人ごみを避け、少し離れたところのベンチに座っていた。

 残っている部員や観客たちの話し声や片づけをしている音を聞いてボーッとしていると、楓が勢いよく駆け寄ってきた。


「いたっ! アキラ、来てくれたんだ! やっぱりゲームよりボクの方が大事だったね」


 隣にぴったりとくっついて座り、得意げに笑う。


「案外早く起きて気が向いたからな」


 何となく素直に答えるのが照れくさくてごまかしたが、楓は見透かしているのか笑みが深くなる。


「ねえねえ。試合のとき、何て言ったか分かった?」


 イタズラの成果を確認するようなニヤリ顔を向けられた。


「人前でああいうのはやめろって言ってるだろ」

「声に出してないからセーフでしょ?」


 まったく、この小悪魔は……と思っていたら視線を感じた。


「あ」


 周囲を探ると、僕に話しかけてきた女の子がいるグループがこちらを見ていることに気づいた。

 みつかったことに気づいた女の子たちは、バイバイと手を振ると去って行った。

 こういう風に見られているんですね! よく分かりました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ