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愚者⑤

「どういう事だ!貴族共は何処へ行ったのだ!?」


 サジタリア王国軍本陣の軍勢の2倍近い軍勢の襲撃を受けたアバールは激怒して怒声を上げながら周囲に当たり散らしていた。彼にとってみれば突然の奇襲にも等しい状態であり頭の中では貴族を攻める罵詈雑言が渦巻いていた。


「貴族共はどうした!まさか自らの役目も果たさずに逃げたのか!」

「い、いえ。参加した貴族の大半は戦死しました……」

「そんな訳あるか!くそ!撤退するぞ!王都に戻ったら参加した貴族を粛清してやる……!」


 兵たちはアバールの理不尽な言葉に呆れつつ貴族たちに同情した。参加した貴族は劣勢になったとはいえ自らの役目を見事に全うしたのだ。にもにも拘わらずそれの対価が理不尽な責めである。兵たちは自分たちに降りかからないことを祈りながら撤退の命令に従い準備を始めた。


「……ああ、それとあの小娘には殿になるように言え。我らが無事に王都に戻るまでこの場に留まり敵を押さえつけるように伝えろ」

「お、王都までですか?」

「そうだ。そうでないと敵は諦めないだろうからな」


 こいつは軍事を理解しているのか?

 兵たちの頭にはこの疑問は浮かび上がったがさすがに口にはせずにある程度の時間を殿として耐えるようにと言う風に命令を変更しミュレイたちの下に向かっていった。


















 アバールの無茶ぶりにより始まった野戦はミュレイ率いる王国騎士団以外の軍の全滅若しくは壊走と言う形で終了した。後に『レサト野戦』と呼ばれるようになるこの戦いは「当時のサジタリア王国を体現したようなあまりにもお粗末で醜い戦いだった」と言われるようになるのだった。

 そして、アバールの命令により参加した貴族は全て打ち首。一族郎党までもが皆殺しにされ僅かに生き残った者も未だ奴隷制度が残るヴァーゴ王国などの西方諸国に奴隷として売られる事となった。

 この出来事がサジタリア王国への不信感を募らせ亡国への道を歩んでいくことになる。


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