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深遠に在る呟き  作者: 望月あさら
■ 4 ■
34/42

4-7

 ――もっと強くなろうぜ! 今までの『司』以上に、強くなってやろうぜ! なあ、真士っ――!



「……言われずとも……っ」

 強くなる。強くなってやる。

 もとからそのつもりだ。

 改めて哲平に言われることもない。

 思いを新たにする必要もない。

 自分はいつでも強くなりたいと思っている。

 今までの『司』なんかより強くなりたいと思っている。

 誰よりも強くなりたいと思っている。

 誰よりも、何よりも。

 終着地がどこにあるのかなんて知らない。

 どこまで強くなればいいのかなんて分からない。

 だけど、今の自分がそれに程遠いことだけは分かっている。

 嫌というほど、それは見せ付けられている。

「……言われず、とも……!」

 立ち上がる。

 体の節々が痛むがそんなことに負けてはいられない。

 痛みは我慢すればいい。問題は自分の体が痛がっていることじゃない。

 問題はどこに糸口を見付ければいいのか、そしてその糸口に自分の体が飛び付いていくことが出来るのか、だ。

 顔を上げ、目の前の『魔』を見据えた。

 じっと蹲り力を喰っていたが、真士が再び動きだしたことを知って、女も顔を上げる。

 牙を剥出しにする。

 青く光る牙。

 怖くなどない。

 怖くなど。

「――――」

 笑ってみせた。

 目の前にいる『魔』に「笑う」ということが理解できるとは到底思えなかったが、真士は笑った。口元に不敵な笑みを浮かべてやりたかったのだ。

 背筋をのばし左手を右肩から退かす。足を肩幅より広く開き、地面をしっかりと掴む。

 腕には力がこもっていた。右腕に感覚はない。だが、左腕が今から起こることに対処しようと構えていた。

 視線を彼女の全身に走らせる。

 足元に、銀の剣。

 真士の手から離れはしたが、その姿を『石』にかえる事無くそこに横たわっている。真士の手に再び納まるのを待っているかのように、剣はその輝きを失わない。

「…………」

 あの、剣だ。

 あれさえ手にすることが出来たなら。

 剣を……。

「わが名はマコト。我が名を刻印す『水の精霊』よ、わが声を聞け。その力を以て、俺の身を守れ!」

 真士の全身を分厚い水の層が覆いつくした。

 真士は足を開く。前かがみになり地を蹴る。『魔』に向かって飛び出していく。両足で地面の土を蹴り上げていく。

 『魔』は火柱を放ってきた。渦を巻き、真士に迫る。

 それがぶつかる直前に、真士は天に向かって高く飛び上がった。

 上から『魔』を見下ろす。『魔』の狂気に満ちた目が遅れる事無く真士を追ってくる。

 青白く光る両眼。それが煌めくと同時に頭上に向かって『魔』は再び火を放った。

 真士を守る水に火がぶつかる。火は水をも覆い隠していく。

 しかし、火は真士を焼く前に途切れた。水も四散し、真士の身体を守るものは何一つなかった。なのに真士は再び『精霊』を呼びはしない。そんな暇はなかった。彼は途切れる直前の火を蹴り、『魔』の頭上をも飛び越したのだ。

 『魔』の背後の地に左手をついて着地する。

 背中合わせ。

 『魔』も真士も相手に遅れまいと身体を捻る。『魔』は背後にまわった『浄化者』を排除しようと、真士は『魔』の足元にある剣を再びその手にしようと。

 動く。

 相手より早く、事を起こそうとする。

「――!」

 真士が振り返り見上げるとそこには『魔』の目があった。牙があった。爪があった。

 真士の左手はまだ剣に触れてはいない。

 『魔』の眼球が光を帯びる。

 目の前に突き出された両手の平が熱を帯びる。

「!?」

 火が放たれようとした一瞬前だった。

 ごおうっという唸り声と共に、地面の土が舞い上がったのだ。

 風だ。

 その風が『魔』のバランスを奪った。火を放つ機会を逸させた。

 逆に真士はその機会を逃しはしない。

 風が、巻き上がる土が全身を打ち付けていく中、それでも左手を伸ばし剣を手にするのだ。

 掴むと共に再び真士は飛び上がった。

 風はすでに止み、『魔』は真士の姿をとらえられない。

 真士は『魔』の頭上で身体を捻る。彼女の頭を踏み台にして、再び背後を取り、そして背の心臓の位置に剣の腹を強く押しつけ、

「『浄化』ぁっ!」

 『魔』が天に向かって顎を突き上げた。天に向かって両腕を突き上げた。

 だがそれも一瞬の事。

 次の瞬間には、彼女の体から全身を覆っていた光と共に力が失われていく。

 無残にも地に崩れ落ちていく。

 見届け、真士も地面に両膝から崩れていった。それでも手をつき、横たわることだけはまぬがれる。

 荒い呼吸と共に血なのか汗なのか分からない水滴が滴り落ちていく。土に吸い込まれていく。

「……今の、風は……」

 呟くと、額を地につけた。

 辺りに呼吸音だけが響いた。

 真士は、動けない。


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