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木の上で自分は見守っているだけのはずだった。
だが結局手を出してしまったのは危機を感じ取ったからだ。長年の感だ。確かにそこにはれっきとした根拠というものがないかもしれないが、間違えたとは思っていない。
大体、これは約束の範囲内のはずである。
「一回はいいっていう話でしょ?」
たった今、良いタイミングで自分が腰掛ける木の真下にやってきた人物に開口一番そう言ってやった。
それは彼が自分が手出ししたことを不愉快に思っていると悟ったからだ。
この判断も長年の付き合いがものをいっている。
「確かにな。――しかし、極力手出ししない、が鉄則だろ?」
「鉄則ってねぇ……。でもほっといたらやられちゃう所だったじゃないのっ」
「やられたらやられた時だろう?」
「死んじゃったら意味ないでしょっ!?」
「死ん――!?」
「もうっ。リオン、ちゃんと見えてるの!? 真士の出血! あんだけ血を流してね、意識はっきりしているほうがおかしいのよ。って分かってる!?」
「分かっている!」
「予想以上の展開っていう見解は、きのう話したときに一致してるでしょ? だから当然の処置よ」
「…………」
そこまで言ってやったらさすがに閉口してしまった。
木々に囲まれ月の光さえ届かない暗闇の中、それでも自分には彼が一体何を考え、何を望んでいるのかが手に取るように分かっていた。
相変わらず不器用な男だ。
今更ながら改めてしみじみと思ってしまう。
「……彼らのためを思って用意してあげた逆風もね、強すぎたら窒息させてしまうのよ」
「……限度か?」
「過剰な期待は死を早めるだけだわ」
「それだけのものに耐えられると思っている」
「優秀であることは認めるわ。けど、まだ今は成長途中であることも事実なのよ」
「…………」
「私たちが急がなくても、期待に応えてくれる時はちゃんと来るわよ」
時は、来る。
思い込みじゃない。希望的観測でもない。
間違いなく、時は来る。
そう自分に、自分たちに言いきらせるほどの力と可能性を彼らは手にしている。
だから、こんなところで終わらせるわけにはいかないのだ。
「あの子たちにはね、私たち以上になってもらわなきゃ、困るのよ」
「――フィル」
真下から、落ち着いた声。
彼の両眼は彼の二人の弟子に注がれているはずだ。
「何?」
「落ちるなよ」
どこから?
「……まさか、木の上から?」
ふざけている。
自分を誰だと思っているのか。
「故意であっても、落ちるな」
故意?
「あとは俺がやる」
「…………」
どうしてこの男はこんなにも不器用なのだろう。
女性に対してだけかと思っていたが、どうやら自らの弟子に対しても、また幼なじみの自分に対しても不器用なことには変わりないらしい。
馬鹿らしいという思いと情けないという思いを同時に抱えてしまって、フィルは木の上で思わず溜め息などをついてしまう。
もうすでに足をすすめているリオン。
彼の背に向かって、フィルは小さく呟くのだ。
「もう少し、素直になりなさいよ、ホントに」




