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眼下を見下ろす。
二つの大きな球型の『結界』を覆うようにしながらぶつかっていく黒い霧。
このような状況下で二人が真っ先に取った行動は、とっさの判断にしては、まあ、条件付にしろ「良い」といえるだろう。しかし、そのあとが続かない。
一つの『結界』が無残にもあっけなく消滅した。
これは読みの甘さだ。自らの力の程を過大評価しすぎたせいだ。
黒い霧が縦横無尽に駆け巡る。
そして、また変化。
無防備な人間の登場。
これは自分たちの第一義と自分たちのいる場のことを忘れたせいだ。周りが全く見えていないという証拠だ。
霧に襲われる人々。
それを見て、思わず大きくため息なんかをついてしまう。
眼下の二人の弟子は、やっと状況を全て把握して、それぞれが肉弾戦に持ち込もうという考えに至ったらしい。
もう一つの『結界』も解かれ、二人の弟子と、黒い霧と、無防備な人間との追い駆けっこが始まった。
もう一つ、ため息。
「やあねぇ、大きなため息」
突然、真横から女のそんな声が聞こえてきた。
リオンは特に驚きもせず、その顔を一瞬だけ見る。
「ため息もつきたくなる。本当にあの二人は成長しない。なんて不器用なんだ……」
口にしながらも、視線だけは下を見ている。危なかっしくって、目が離せないというやつだ。
「まあ、たしかにやってることは不器用だけどねー。そこまで落ち込むほどではないんじゃないの? あんなものでしょ、最初って」
「……クァロなら器用にやるだろうな。愛理も潤も、何だかんだいって力があるし……瞳子がいるだけで、もっと見られるものになるような気もする……」
「……あのねぇ。他の奴らと比べてどーするの。自分が手塩にかけて育てた候補生たちでしょ? もっと自信持ちなさいよ。大体、今リオンがあげた四人だって、この間の仕事はかなり不器用だったらしいし、『司』って全員で一つの集団なんだから、均衡っていうの、必要なのよ。みんながみんな器用に全てこなしたら、均衡そこで狂っちゃうでしょ? それに、私はね、すごくいいと思うのよ、あの二人」
「気休めは止せ」
「どーしてそんなに悲観的になるのよ! 本当なんだからっ! だってあの二人の行動って、『司』なりたてのリオンにそっくりじゃないの!」
「…………。気のせいか、頭痛がする……」
「あんたねぇあんたねぇあんたねぇ!?」
可愛い弟子が師匠のように立派に育ってくれて嬉しくないの!? という怒鳴り声が真横から殴り込みをかけてきていたが、無視をすることにした。
彼女の相手をするよりも、眼下の状況に気をめぐらすことにしたのだ。
「本当にお前ら、頼むから……」
混乱の文字が似合う船上で、走り回る弟子、二人。
彼らに何かを言おうとして、つまった。考えた挙げ句口にした言葉は、隣の彼女の声を益々荒げさせるものになっていた。
「頼むから、……俺にだけはならないでくれ」