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Melancholy tape  作者: Nuo
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3.shopping

電車が止まり、私たちは改札を目指した。


大きな駅だけあって、喧騒という言葉がよく似合っている。


「もう行く場所は決まってるよね?」


瑠璃は、得意げな顔でこちらを見た。


「澪奈ちゃん、お腹空いた?」


「今はあんまり……。」


「じゃあ、少し散歩でもするか。」


私がさりげなく提案する。

少し理解を深めるきっかけになるかもしれない。


「人と散歩なんて何年ぶりだろ……。」


ボソッと誰に言うでもなく口遊む。


「そんな悲しいこと言わないで。

 もっとテンション上がること言っていこうよ。」


さすがムードメーカー瑠璃だ。

私には真似できそうにない応答。


「例えば?」


「例えばかぁ……。難しいなぁ。」


「ねぇ、例えばだって。」


瑠璃が唐突にこっちを見る。


「どういう仕組みで私に回ってきたんだよ。

 澪奈ちゃん。例えばだって。」


「私に回ってきたら永久機関になりますよ?」


「そうだよね。だから瑠璃。ほら。」


私は、うまいこと爆弾を瑠璃に返却した。


「例えば……。」


「あっ!

 今日のご飯おごりだなぁ。とか。」


「今日'も'だろ。」


「そんな……。

 私が乞食みたいじゃん!」


「強ち間違いではないだろ。」


「ひどっ……。」

「澪奈ちゃん!

 この人、こんなこと言う人だから遠慮なく食べなね!」


「おかしいだろ。

 澪奈ちゃんには、何もしてないだろ。」


「わ、分かりました……。」


「分かるなよ。」


私が突っ込む。


「ってか、どこ散歩する? 澪奈ちゃん、行きたい所ある?」


瑠璃が聞く。


「んー...。特にないです。」


「そっか。じゃあ百均と、電化製品でも見てみる?

 いつも通りで。」


「それ……いつも通りなんですか……?」


少し驚いたように、澪奈が聞く。


「そうだよ!

 あと本屋は外せないかな。この人の定石。」


「定石……?」


「だいたい、この順番。」


「いつも二人一緒なんですか?」


「まぁね。」


そう言って笑う瑠璃の横で、

澪奈は一瞬だけ、私のほうを見た。


もう、さっきまでの棘はない。

あの排他的な距離感が、嘘みたいに消えている。


私は口を挟まなかった。

というより、今は挟まない方が良い方向に行く気がした。


「その前に雑貨見よ!

 服もある!」


瑠璃は澪奈の手を取り、全く関係無いお菓子売り場へ。


「このお菓子、美味しいよね。

 知ってる?」


棚から一つ、当然のようにカゴへ。


「いや、知らないです。」


「え、そうなの?美味しいんだよ、これ。」


そう言いながら、別の棚へ移動、視線を移す。


「このペンいいなぁ。

 あ。私、万年筆欲しいんだよね。あとで見よ?」


「……いつ使うんですか。」


「お洒落だよ。お洒落。

 あと、なんか気分いいし。」


「……そんなものですか。」


「そんなもの。」


次は、どうやら洋服らしい。


「ほら見て! これ、澪奈絶対似合うよ!」


「無地ですからね。

 誰にでも似合うんじゃないですか。」


淡々とした返しだった。


「え、無地って誰にでも似合うの?」


瑠璃の無知が露呈した。


「……え。違うんですか。」


「見て! これも!」


「それも無地ですからね。」


「無地、嫌いなの?」


「いえ。好きですよ。

 着る服、考えなくていいし。」


「え、ジョブズリスペクト?」


「いや、普通に面倒くさがりなだけです。」


「まぁ、分からなくもないけどさ。

 でもファッションって、女の子の楽しみじゃない?」


そう言って、瑠璃は私のほうを見る。


「ねぇ、男子。」


数秒遅れて、

その“男子”が自分を指していると気づいた。


「あ、私か。確かに化粧もしないし、

 服もほとんどバリエーションないな。」


「ほら!」


勝ち誇ったように言う瑠璃に対して、

澪奈はまだ納得がいかないみたいだ。


「アウトレットとか行くとさ、

 私も女の子だったら良かったなぁって思うよ。」


「それはキモい。」


瑠璃は、はっきり不快そうに私を見る。


「いや、私の勝手だろ。」


そう言うと、


澪奈は、くすっと小さく笑った。


「おっ。乳液のテスターだ。」


瑠璃が、何の躊躇もなく手に取って、

そのまま手の甲に伸ばす。


「乳液とか、付けてる?」


「まぁ……一応。」


「おぉ。偉いね。」


当然の様に上から目線。


「何か、欲しいものないの?」


「今のところは、特に……。」


「そっか。じゃあ、お会計しますか。」


瑠璃はやけに丁寧に頭を下げて、

私にカゴを差し出す。


「お願いしますー!」


「出たよ。」


中身はお菓子がひとつだけ。


絶対、カゴいらなかっただろ。


私はそのまま会計に向かった。





セルフレジで会計を終え、二人と合流する。


「次は百均!」


瑠璃が当然のように先陣を切った。


「買うもの、あるの?」


私が聞く。


「買うものは、見てるうちに決まってくんだよ!」


理屈になっていない理屈。

怖いくらいの散財理論だ。


「澪奈ちゃんは、普段家で何してるの?」


瑠璃は歩きながら、振り返って聞く。


「昨日は……。」


少し考える素振りを見せたあと、少し下を向いた。


「……なにしてたんですかね……。」


「思い出せないの?」


瑠璃は、責めるでもなく聞く。


「起きて、学校行って、帰ってきて……。」


そこで、言葉が止まる。


「気づいたら、夜で……。」


間が空いた。


「スマホは触ってたと思います。

でも、何を見てたかは覚えてなくて。」


「ご飯は?」


「……食べた、はず……。」


瑠璃は、一瞬だけ黙る。


それから、いつも通りの声で言った。


「そっか。」


よくよく考えれば、記憶が曖昧なのも当たり前だった。


何気なく聞いたそれは彼女にとって――

前夜の話だったのだから。

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