エピローグ
黄金色のイチョウの葉が、ひらり、ひらりと舞う様子を、ジルは眺めてピタリと手を止めた。
もうすぐ季節は冬へと突入する。急速に落葉した木は雪化粧を纏い、ハイリガークリスタル学園のシンボルである巨大水晶と共に銀世界へと溶け込む事だろう。
「ジル先生、どうしたんですか? 突然ボーっとしちゃって」
生徒の一人が不思議そうに言い、ジルはハッとして頭を掻いた。
「ああ、悪い。えーと、どこまでいったっけか……」
授業時間終了の鐘が鳴り響き、ジルは気まずそうに笑った。
「ごめんな? まだ本採用になって一か月も経ってねぇから時間配分が下手で」
「ジル先生の授業、楽しいですよ」
「次の授業も楽しみにしていますね!」
「学園長自ら授業してくれるなんて、嬉しいです」
「何でも知ってて凄いです」
生徒達はジルをそう言って励ますと、皆手に弁当を持って教室を出た。
——そうか、もう昼飯か。
ジルは教科書を丁寧に片づけると、園舎から出た。
吐く息は白く、凍晴の空は深い青が広がり雲一つない。
はらり、はらりと黄金色のイチョウの葉が舞い散る大イチョウの木へと辿り着くと、サファイアブルーの瞳をした女性が振り返って声を掛けた。
「ジル! お腹空いちゃった!!」
「……お前さん、来るの早すぎやしねぇか? フライングしてきたんじゃ?」
「そんなことないわ。ちょっと走っただけ……」
「酷いやヒルデ! 置いて行くなんて」
「ヒルデさん、走るの早すぎです」
アルフレートとアマリアが息を切らせながら大イチョウの元へと訪れて、拗ねた様に言った。
「ごめんなさい。先に準備しておこうと思って……」
すまなそうに言ったヒルデは、既に大きなピクニックブランケットを綺麗に敷き、その上にちょこんと座っている。傍らにはどうやって運んだのか、巨大な弁当箱が置かれていた。
「張り切り過ぎかしら?」
恥ずかしそうに頬を染めたヒルデに、アマリアはくすくすと笑いながら言った。
「大丈夫ですよ、ヒルデさん。私も準備をお手伝いしますね」
ヒルデが持ってきた巨大弁当箱は重箱のようなもので、重ねた箱を次々と並べていく。
アルフレートが感心した様に呟いた。
「これ、本当にヒルデが作ったのかい? どれも見た事ない料理ばかりだね」
「ええ! そうよ!!」
得意気に言いながらも、ヒルデは少し気まずく思った。
——何度も失敗して、失敗作を食べさせまくったから厨房の皆には悪い事したけれど。
「おお! 握り飯じゃねぇか!」
嬉しそうにジルが瞳を輝かせた。ヒルデが作って来たのは日本の定番弁当だったのだ。
「うまっ!!」
「……ジル、まだ食べていないじゃない」
「すまぬ、待たせてしまったようだな」
レオンハーレンがベルーノを引き連れて歩いてくると、広げてある弁当を見てほぅと唸った。
「ヒルデ、今日はそなたの手料理が食べられると聞いて浮かれて来たのだが、これは想像以上に食欲をそそるな」
「殿下、早く我々も座りましょう」
ベルーノが待ちきれないといった様子で急かし、レオンハーレンが座った後に自分はいそいそとお茶の準備をした。
おかんのようである。
「じゃあ、皆揃ったし、せーの!」
『いただきます!!』
ひらり、ひらりと舞い散る大イチョウの木の下で、「美味しい!」と声を上げながら皆は食事を楽しんだ。
「……うん」
ジルはじっくりと味わう様に噛みしめて頷いた。
「俺様、めちゃくちゃ幸せだ」
黄金の葉が舞い落ちる中、ジルは満面の笑みを浮かべて言った。




