(5)A 2018年6月4日月曜日 伝言ゲーム、翻弄される俺
今日は放課後陽子ちゃんから約束を取り付けられていたので昼休みと同時に北校舎2階の2年生の教室に行って加美を探した。
3年生が2年生の教室に行くというのは目立つ。だから昼休みのチャイムと同時にあいつの教室に向かってダッシュして機先を制したつもりだった。
加美の教室に着くと引き戸の所から教室を覗き込んで探したがいない。代わりに麻野と視線が合った。昨年の選挙戦では吉良陣営を支えていて、今はインターアクトクラブで松平桜子の右腕だ。三年生引退後は彼が部長になるんだろうな。当然吉良小夜子とも仲は良い。彼は俺に気付くと引き戸の方へ来てくれた。
「日向先輩、どうかしましたか?」
「麻野、加美はどこ行った?」
「あいつならチャイムと同時に飛び出して行きましたよ。その時にもし日向先輩が来るような事があったら」
「あったら?」
「私は私のしたいようにしますけど?って疑問形で言っておいてと頼まれたのでお伝えします。意味は僕も分かんないです。ただあいつニヤってしてましたねえ」
「なるほどね。分かった。ありがとう」
加美の伝言の意味が全く分からないのが一つ。あと俺の行動が読まれすぎているのは同中出身だからか。それなら逆に俺があいつの手を読めて当然だろうにそうはなっていない訳でなんともいやはや。
俺は諦めると昼食を摂りに学食へ向かった。何をどう対策されてるか分からないが物理的な接触は徹底的に避けられている事はわかった。あいつは一体何を企んでいるのか?
放課後。SHRが終わると1階下駄箱へと急いだ。約束があったから。階段を降りるともう陽子ちゃんは靴を履き替えて待っていた。
「遅いよ。肇くん」
そう言って陽子ちゃんはニッコリ笑ってきた。この負けず嫌いめ。またもや負けた。
「例によって約束よりは早いんだが」
「早い者勝ち。肇くんの負けは負け。さ、早く上履きを履き替えてね」
陽子ちゃんに急かされる俺。大慌てで上履きを靴に履き替えて陽子ちゃんの後を追って校門へ向かった。
陽子ちゃんの家に招待される事が増えた。正確には、是非来て勉強してついでに夕食して行きなさいという陽子ママのご招待というか強制力のあるお達しによるものだった。
学校最寄りの駅から普通電車で10分ほどで陽子ちゃんの家の最寄駅に着く。道すがら陽子ちゃんとはたわいのない話に興じているうちに陽子ちゃんから今日の問題二つの核心部について触れてきた。
「昼休み、北校舎行ったんだ。で、あの子に手の内を読まれていたと」
「そう。麻野に伝言していくぐらいだから読まれていたな」
「あの子、友達多いから肇くんの姿をみたらメッセしてってお願いしてたりして」
「そこまでやるかな?」
「加美さんってそういう事好きじゃない?」
「まあ、嫌いじゃないとは思う」
「でしょ」
俺が浮かない顔をしていると陽子ちゃんはもう一つの方へ話を振ってきた。
「うちのママの事、ごめんね」
「嫌いじゃないよ。良い人だと思ってるから」
昨年のクリスマスの翌日、遅かったので陽子ちゃんを自宅まで送り届けたところで陽子ちゃんをつけてきた不審者かと陽子ママに疑われたのだ。幸い誤解は解けたけどその後も大変だった。
陽子ちゃんはフフッと笑うと俺の顔を覗き込んできた。
「うちのママはもっと肇くんを連れて来いってうるさいから。あの人は肇くんの事を気に入っているみたいだし」
陽子ママは俺をからかう事について面白く思っていて、それ故に陽子ちゃんと一緒にいる事を大目に見てくれている。そのいう事なんだろうと思っている。
もう一度加美の話に戻した。
「陽子ちゃんは加美がどうするつもりだと思う?」
陽子ちゃんは少し空を仰ぎ見て考え込んだ。
「会長選?あの子が何を考えてるなんて想像は付かないけど。中学校時代に自分の勧誘から逃げた人に聞かれたくないんじゃない?」
と笑顔で言われてしまった。古城と陽子ちゃんは中2の俺が中1の加美洋子からの立候補の打診を断った話を知っているんだけど、それなのか?だとしたら今日の伝言は意味は少し分かる気がする。納得はしないが。




