表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦争狂奏曲  作者: 無暗道人
chapter4・勝利か、死か
67/105

ブランデンフェルト再奪回1

 ブライデンフェルト城を攻略し、蒼州(そうしゅう)公派連合軍は最初の戦略目標を達成した。

 勝てば兵も集まってくる。新たに二千数百の兵が参集した。未だ加わって来る兵は多くないが、良い流れに連合軍は勢いづいた。

 だが敵も、黙って引き下がりはしなかった。

 ブライデンフェルト城攻略から二十日後、城には守兵を残し、本隊は州都攻略戦の用意のため、一度インゴルシュタットに戻っている間に、ブライデンフェルト城を奪回されてしまった。

 敵の奪回に対して無警戒であった訳ではない。州都防衛の要である以上、敵も死に物狂いで奪回してくる事を予想して、警戒は厳にしていた。

 それでも、あっさりと城を奪回された。落ち延びてきた守兵の報告では、突如として敵軍が城内に侵入してきたという。

 どうやら敵は、ゲオルク軍が使ったのとはまた別の抜け道を、置き土産として残して行ったらしい。それを使って城内に侵入し、城を奪回した。そういう事だろうと推測された。

 ともあれ、再び敵が守りを固めてしまう前に、城を再奪回しなければならない。

 蒼州公家と旧ユウキ家の連合軍五千。加えてゲオルク軍で城を再奪回する。その他の兵は、前回の様に朱耶(しゅや)軍の攻撃を受けないよう、以前にもまして厳重な警戒態勢を敷いて、攻城部隊を掩護する。

 ゲオルク軍は歩兵一千二百とゲオルク旗下の騎兵八十騎をほぼ満たしているので、攻城部隊の総勢はおよそ六千三百に及ぶ。

 負傷兵などを本拠の砦に送り、そこで予備隊を育成して、欠員をすぐに補充できる態勢が出来上がっているのが効いた。

 構想自体は前々から在ったが、この大戦に合わせてどうにか形にする事が出来た。本拠砦周辺の村落の警護も、予備隊や軽度の負傷兵で十分果たせる。

 負傷兵、退役兵で産業を起こす計画もあるが、これは今は、手を付ける余裕も無い。そういう仕事は、テオがほとんど一人で動かしている。

 ゲオルク軍を使って、自分がやりたい事の実験をしている節もある。領主としては、テオは優れた才能の持ち主だろう。

 ブライデンフェルト城近郊に陣を敷いた。敵に利用される危険があるので、向かい城を破壊してしまった事が惜しまれるが、言っても仕方の無い事だ。

 城に拠る敵兵力は、およそ四千。以前とほぼ同じだけの兵力を再び入れる辺り、総督府派の底力は侮れないものがある。

 敵軍のうち、八百ほどが傭兵団レイヴンズであるという情報を得た。その勢力と名声は、総督府派のゲオルク軍と言って良い存在になっている。

 ただ、誰もが最も気にするのは、やはり昌国君(しょうこくくん)がどう動くか、という事だった。


「昌国君の居所は、まだ掴めんのか」

「これ程の厳戒態勢を敷いているのだ。網に引っ掛からない以上、気にする事も無いのでは?」

「しかし昌国君の速さなら、伝令がたどり着くよりも早く襲い掛かってくるという事も」

「まさか、いくらなんでもそこまでは」


 軍議は、険悪と弱気が入り混じった、例えようもない嫌な空気に包まれていた。誰もが目の前の城攻めよりも、昌国君の動きを気にしている。

 ゲオルクも同じ思いだった。昌国君が、どこにもいない。この近辺にいるという情報も無ければ、州都にもいないという。

 掻き消えた様に、足取りがつかめないのだ。一体いつ消えたのかすらも、掴めていない。気が付けば姿が無かった、という感じなのだ。

 完全に姿を消してしまえる。戦を知っている者にとって、それがどれほど恐ろしい事か。

 どこか遠く、この戦場とは無関係な所へ行った。それでも確かに姿は消える。しかし、そんな事はあり得ない。誰もがそう思っていたし、ゲオルクもそう思う。昌国君がこの場面で、戦場からいなくなるなどあり得ない。

 どこかに潜み、完全に姿を隠し、何かを待っている。根拠は無い。だがそれ以外に考えられない。

 見えない敵と、どう戦えばいいのか。ましてや相手は、昌国君なのだ。姿が見えなかったので、不意を突かれました、では済まされない事になる。


「一刻も早く、ブライデンフェルト城を奪い返さなければならない。それは分かりきっている事だ。ならば、ここはとにかく攻めるべきだと思う。昌国君が何を狙っているかは分からぬが、時間を与えなければ、悪い事にはなるまい」


 意見らしい事を言ったのは、これだけだ。言うまでも無く、皆思ってはいる事だ。

 言うまでもないが、言い出せず、行動に移す腹も決められない。言うまでも無い事を、あえて言葉にする事で、ようやく腹を据えられる。そういう空気になる事が、話し合いでは有る。それも、度々軍議に参加しているうちに知った。

 だが、誰も言い出せない事を言葉にしたところで、感謝などされない。出しゃばりだと嫌われるだけだ。馬鹿げていると思うが、そういうものだ。

 気にするだけ無駄だと思う事にしている。付き合って、空気を呼んで黙っていると、(はらわた)から腐って行きそうだ。

 いくつか細かい事をわめきあって、城攻めの作戦に議題が及んだ。

 と言っても、大した計画がある訳ではない。前回使った上下水道施設からの侵入は、内部が完全に封鎖されて使えない。

 攻城兵器の用意も無く、あまり時間を掛ける訳にもいかない。ひたすら正面から押しまくるしかなかった。

 城を攻めるのに十分な備えとはとても言えないが、一度落とされた城を奪回してまだ五日の敵軍は、こちら以上に碌な準備などないはずだ。兵糧や武器を運び込む余裕すら与えてはいない。

 敵兵力は前回とほぼ同じだが、その防御力は比較にならない。そこに活路が、あると言えばある。

 早々に結論を出して、各隊は自らの陣地で、戦の支度に取り掛かった。


「我らは本格的な攻城戦は、初めてだな。前回も裏からの侵入であったし」

「矢玉に鉄砲の弾薬、盾に医薬品など、必要な物資は不足していません」


 そういう事は、テオに任せておけば抜かりなくやってくれる。甘えているのだろうかと、時々思うほどだ。


「常識的な攻城戦の用意だな」

「奇策を用意する余裕もありませんし、用意したとしても、使いこなせるか分かりませんので」

「もっともだ。兵も攻城戦に不慣れだ。各隊の将が手本を見せてやらなければならないだろうな。ハンナやワールブルク殿に関しては、要らぬ心配だろうが」


 城壁上から敵が攻撃してくるところに、縄や梯子を掛けて登るというのは、野戦で敵に斬り込むのとはまた別の度胸と要領が必要だ。その点ゲオルク軍は、経験不足が否めない。


「ゲオルク殿こそ、あまり不安そうなお顔をされていると、士気に関わります」

「そんな顔をしていたか?」

はい(ヤー)。もっとも、不安の理由は城攻めではないとお見受けいたしますが」

「まあ、な。どうにも不吉な予感がしてならないのだ」


 昌国君は何を狙っているのか。単に連合軍を壊滅させるだけなら、六千以上の軍勢が集まっているここに、今すぐ鴉軍(あぐん)を中核とした軍勢で襲撃すればいい。

 鴉軍がかきまわすのに合わせて、城からも全軍で打って出る。昌国君であれば、それでこの軍を壊滅させられるはずだ。

 だからこそ、こちらは厳戒態勢を敷いているのだが、このままろくな防戦の用意も無い城が攻撃されるのを、黙って見ているつもりか。

 それとも、ここに集った軍勢など、眼中に無いとでも言うのか。


「駄目だな、こんな事では。余計な事を考えずに、目の前の戦に集中できればよいのだが」

「ゲオルク殿がそういうお人であったら、私はここまで付き合ってはいませんよ」

「人の気も知らずに、気楽に言ってくれる」


 実際には、テオはゲオルクの苦悩をよく理解しているだろう。そして、気楽に言っている訳でもない。

 それでも、冗談として笑いあった。

 城攻めが始まった。前回の城攻めの時と、その後の占領期で、山肌の仕掛けは残らず破壊している。急ごしらえの柵などがあるだけで、ただ斜面を登るだけだ。

 一度に大軍が通れない様になっていた道も、広げてある。罠などを取り払ったので、道以外の所も、登る事ができる。

 一度におよそ、五千余りの兵が城壁に取りつく事が出来た。その中に、ゲオルク軍も参戦している。


「怯むな、私の後に続け!」


 ハンナが盾も構えずに城壁に突撃する。その後を、赤隊の兵達が慌てて追いかけている。

 一見無謀に見えるが、城壁からの矢は少ない。盾無しでもある所までは、走っていればまず矢は当たらない。そう見切った上での行動だ。

 そうとは知らぬ兵達は、隊長が盾も持たずに突っ込んでいるのに、盾を構えた部下が遅れを取っていては名折れとばかりに奮い立っている。

 それを見ていると、ゲオルクも声を上げ、飛び出したくなった。それを、ただでさえ生きた心地がしないテオに、止めてくれと懇願されて思いとどまる。


「しかし、やはり城というものは、そう簡単には落ちんな」


 ゲオルク軍が攻撃を担当している箇所を守る敵兵は、おそらく三百人いるかいないかだろう。

 こちらの方が四倍か、あるいはそれ以上の兵力を有しているにもかかわらず、突破できそうな気配はなかった。

 各隊の隊長が身を以て兵を鼓舞しているが、逆に言えば、そうしないと腰砕けになるという事だ。

 野戦だったら強大な敵に挑むのに、一時の覚悟と勢いがあればいい。思考を止め、ただ脚を動かして斬り込み、当たる敵を手当たりしだいに斬りまくればいい。

 だが攻城戦では、城壁に取りつき、城壁をよじ登り、その間常に敵の攻撃に、一方的に晒され続ける。

 敵と直接当たるまでに時間がある事で、一時的な熱狂は冷める。

 複数の行動が必要とするので、その間に考えてしまう。そして考えると、ふと自分の置かれている情況に気付き、恐怖が生じる。

 緑隊などは、明らかに及び腰だった。昌国君相手に根性を見せたが、あれは火事場の馬鹿力の様なものか。


「やはり、騎士の方がこういう戦は強いか」


 恐怖を抑え込む精神力を鍛え上げている騎士は、こういう苦しい戦に強い。機動力を必要としないので、重装備である事も生きる。

 単に堅い鎧を着ているというだけではなく、重く堅牢な鎧を着て戦う事に慣れているという事が大きい。普段軽装な兵に鎧を着せ、盾を持たせると、どうしても動きが悪い。

 鎧に身を固めて、縄一本を頼りに城壁を登る。それは力だけでなく、技術が必要だ。

 数は少なくても、騎士が多く参加している箇所の方が、敵を押し込んでいる。そういう事が、城壁から打ち込まれる矢の数などから分かる。

 それでも、城壁を越える事は出来なかった。一時的に城壁の上に小隊が上った事はあっても、ほどなくして叩き落とされてしまう。

 日没前にこれ以上の攻撃を諦め、退却せざるを得なかった。

 退却後、再び軍議が招集された。痩せても枯れても敵の守りの要である城だ、そう易々と落とす事はできそうにない。

 しかし、矢の備えなどは、この調子ではそう何日分も持たないはずだ。石などは城内構造物を破壊すれば確保できるが、それにも限度がある。

 煮え湯を浴びせる。汚物を浴びせるといった、守る側の定番戦術も見られなかった。敵の抵抗は、長くは持たない。

 急いで落としたいところだが、焦った無理攻めは避け、敵が力尽きるのを待とう、という事になった。

 この調子ではどのみち、十日と持たないはずだ。それで城を落とせるのなら、十分早い。

 それ以上焦っても、焦るだけ無駄でしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ