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番外編 REINCARNATION

  

 二十数年前~カイスベクファ~



「ライラ様、赤はお好きですか?」

 休憩中。目の前に一輪の赤い花が差し出された。


「え? あら。カーネーションね。一体どうしたの? 今日って何か特別な日だったかしら」

 カーネーションは薄い花びらの重なる、華やかながら可愛らしい花だ。ミレル神聖国から世界に広まった、母親に日頃の感謝を込めてカーネーションを渡す記念日でもある。それ以外でも、花束によく使われる花だ。


「先日のタルトと同じ色だと思って、つい手に取ってしまったんです。僕が持っていても仕方ないですし、受け取ってくださると嬉しいのですが」


「とっても綺麗ね。確かに真っ赤な色がリプルとそっくり。ありがとうフレドリック、遠慮なく頂くわ」

 フレドリック・ハルベント。

 この少年がラザー様付きとして配属されて二カ月。その間に何度かリプルのタルトを焼いた。概ね職場では好評なのだけれど、特に彼の喜びようは(本人は隠しているつもりらしいが)分かりやすい。

 他のお裾分けにはあまり手を伸ばさないのに、いつも必ず食べてくれる。リプルのタルトは家庭で手作りする部類の菓子。若くして故郷を離れたフレドリックの里心を擽るのだろう。

 贔屓はいけないと思いつつ、私も彼には多目に切り分けてしまう。


 まるで弟が一人増えた気分だ。

 そんな彼がこんな形で気持ちを表してくれたことが嬉しくて、自然と頬が緩む。

 これは母親のように慕ってくれている、って解釈でいいのかな?

 少しだけ脱線した考察をしていると、フレドリックが私の手元にちらりと視線を落とした。


「いつもはその場で、お断りなさいますよね」

「ああ、そうね~。でもこれは、流石に逃げ方が難しくって」


 押しつけられた手元の見合いの釣り書きを、どう断ろうかと思案していたところだ。

 王城住みの有力貴族が用意したものだけに、厄介だ。恐らく私を早く引退させるためか、自陣に組み込む算段でもしているのか。どちらにしても受ける気はない。


「……ライラ様に、ご提案があるのですが」

「提案? 何かしら」

 彼は私が受け取ったカーネーションを指差した。


「花を贈って寄越す恋人がいます、とお断りするのは如何でしょう?」


 なるほど。

 言い訳としては悪くない。貴族間ではまだまだ政略結婚が多いものの、都市部の平民には自由恋愛も増えている。


「その案、使わせてもらおうかな。ふふっ、フレドリックは女性を守る騎士様のようね。それとも知恵者の賢者様かしら」


 真っ赤なカーネーション。

 同じくらい真っ赤な顔のフレドリックに笑いかけた。

 配属された当初は心の壁を作っていた少年が、ここまで気に掛けてくれるなんて。ちょっと泣きそう! 

 有難くフレドリックの提案に乗り、同期をスケープゴートに仕立て、私は上手く難局を乗り越えた。その後もフレドリックはちょっとした機会の度に、赤いカーネーションを贈ってくれた。


 私はその度に、じんわりと幸せな気分になった。



   ◆◆◆



 現在~カナン~



 妹のミヤと、念願叶って一緒にタルトを囲んだ。その次の日。

 フレドリックはカーネーションの花束を抱えて帰ってきた。

 沢山の赤に、白やピンクのカーネーションがほどよく配置されていて、かすみ草と合わさった花束は華やか。ふわふわと綿菓子のように甘い香りと可憐さだ。


「ありがとう! とっても嬉しい。素敵な花束ね」

「喜んで頂けて何よりです」


 受け取った花束を優しく抱きしめると、フレドリックは目を細めて幸せそうに微笑んだ。

 けれど、このカナンにおいてカーネーションはそれなりに貴重な種類の花になる。暑さにそんなに強くはない花だから。それなのに、フレドリックは折々の機会にいつもカーネーションを用意する。

 今回は私とミヤが、タルトを初めて一緒に作った記念、かな。

 思い返せばミレルに居た時も。ううん。それより前、私がラザー様付き女官長だった前世の頃から。


「ねえ、フレド。カーネーションって、私の知らない魔術的な効果でもあるの? それともこの花には、儀式的な意味合いが」

「…………はあ」

 最近は随分表情豊かに、感情表現がストレートになったフレドリックだけれど、それでも滅多にお目にかかれない、ぽかんとした表情。そのあと、明らかに気落ちした溜息を吐かれてしまった。


「え。ええ? 待って、ごめん。そんなにがっかりしないで」

 花束をテーブルに置いて、彼の頬に両手を伸ばす。抵抗せずされるがままのフレドリックは、背を丸めて私をすっぽりと覆う様に緩く腕を回してきた。


「違いますよ、ライラ。がっかりしてるんじゃなくて、きちんと伝えていなかった自分の迂闊さを反省しているところです。それと二十年以上ぶりに撃沈した時のことを思い出して、恥ずかしかったというか……」

 そう言って、フレドリックが苦笑いを浮かべた。


「私は何か、読み間違えてしまったかしら?」

「二十年前の俺が意気地なしだっただけです。カーネーションの花言葉って、ご存知ですか?」

「わからないわ。ただ、母親へ記念日に贈る花のイメージね。だから、前世でフレドが贈ってくれた時も、私を家族のように慕ってくれたのだと思って、嬉しかったわ。……もしかして、違った?」

「違ってなんていませんよ。あの頃の俺は、ライラを年上の家族のように慕っていましたから。けれど、赤いカーネーションの花言葉は、違う意味もあるんです。何せ記念日の方はミレルの女神発祥ですから。後付けなんです。だから、本来の意味もこっそりと込めて、あなたに贈りました」


 当時のことを思い出したのか、私の首元でくつくつと笑っている。

 くすぐったくて身を捩ったら、フレドリックはそのまま私を抱えあげてソファに腰掛けた。なんだか最近、膝上に抱えられる事が多い気がする。

 この体勢はちょっとまずい流れだ。そう思いながらも、質問を重ねた。


「赤いカーネーションの花言葉って何かしら。旦那様、教えてくださる?」

「もちろんですとも、俺の奥さん。花言葉は、敬愛と感嘆。そして『あなたに会いたくてたまらない』。ライラを尊敬し、ずっと傍にいたくてたまらないと思っていた、俺の心そのものです」


 胸がきゅうっと締めつけられる。前の人生で、私はフレドリックの願いを叶えることは出来なかった。

 力いっぱい、大切な人を抱きしめる。


「今もそう、思ってくれているってことよね?」

「あの頃よりも、ずっと強く想っています。カナン中のカーネーションを集めても足りないくらいだ」


 互いの瞳の中に、互いだけが映る。

 花束のように優しく抱きしめられた。私はそっと目を閉じ、夫の口づけを受け入れた。


 今度は私から、彼に花束を贈ろう。

 カーネーションは、私達だけの特別な想いの証。こうして過ごす毎日がどんなに奇跡的なものなのか。

 教えてくれる導きの花。




お付き合い頂きありがとうございます。


 第一話の投稿日2016/06/15の誕生日花はカーネーション。

CARNATIONといえばREINCARNATIONでは!とのアイディアを頂きまして、書いてみました。

 少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


 赤いカーネーションの花言葉は、西洋のものを参考にしました。

「My heart aches for you(あなたに会いたくてたまらない)」「deep love(深い愛)」「admiration(敬愛、感嘆)」


 REINCARNATION

 再び肉体を与えること、霊魂再来(説)、輪廻(りんね)(転生)、再生、生まれ変わり


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