銀色の牛
食事会の後半
深めの皿に肉が入った赤いスープと一緒に別の皿に切られたパンが入った皿が自分の前に置かれ、
ウェイターがメニュー名をいう。
「牛の赤ワイン煮で御座います」
スプーンを手に取りスープの中に入れ、中身を掬い口の中に持って行く。
(やはり毒、名前から赤ワインで煮たという事は分るけど・・・)
口の中に入れると、独特な酸味とワインの渋みを感じるがコクがある。
塩気やタマネギの溶け込んだ甘味まろやかな風味など複雑な味わいで、一番の特徴は肉が違う。
牛という事しかわからないが、先ほどのカツレツとは食感がまるで違う。
しかも歯ごたえ、舌触り、喉越し全てが違う部位が入っているとしか思えないが、
周りを見ると他のメンバーも無言でこの味を楽しんでいる。
食事会なのに会話は無く黙々と皿の中身を消費していく。
会話はなく純粋に欲求を満たしていく行為に没頭していく。
パンが添えられてあるのを思い出し、赤ワイン煮に浸して一緒に食べると、
たまらない美味、パンがスープを吸う事で単体では味わえないハーモニーを奏でる。
しかも赤ワインと相性がいい材料に同じ物を使っているのだから当然だ。
(危険だわ、これを作った料理人)
トンならこの料理人を自分の所に呼ぶため私財をどれほど費やすか分らない。
それによって商会を傾ける可能性すらある。
商人としては非常に優秀な彼の弱点は食い意地が人の10倍はある事だ。
この街だけじゃなく大陸中の食料の流通生産を行う「黄金の豚商会」代表の彼がそんな事をすれば、
大陸中に餓死者が出てもおかしくはない。
彼の事をそう評する自身もこの皿の出す誘惑に贖えないでいる。
食事が終わり満腹感とアルコールの酩酊感で幸せの余韻に浸っていたら、
食後の飲み物をウェイターが運んでくる。
「チャイです、熱いので気を付けてお飲み下さい」
茶色に白を加えた様な色をした飲み物だ。
カップを口に運び舌で味わう。
(紅茶の風味があるけどまろやかで甘い)
満腹気味の温かい飲み物が身体に染み渡る。
食後のほっとする感覚に、この料理を作った人に興味が出た。
旨い料理を立て続けに出し最後に温かい飲み物という不意打ちに自分も白旗を上げた。
扉をノックし誰かが入ってくる。
「失礼します、今日の料理を作りましたケイタです」
◇ ◇ ◇
入ると皆の視線が集まる。意外なものを見て驚いた顔だ。
ボードマンさんが呼んでいるのでそちらの方に行くと、
「ボードマンこの坊やが?」
すごく色気のある狐の獣人の方がこちらを見ています。胸もアニス母さんと同じくらい大きいです。
すると丸くて大きいオークの人が自分の手を握り、
「素晴らしい、美味しかったよ」
「ありがとうございます、昼過ぎにボードマンさんに頼まれた時不安だったんですが良かったです」
「この料理は何日も前から仕込んだのではなく、昼過ぎからでこの料理、君は何者かね!!」
興奮して握る手に力が入ってきて痛いです。
すると扉から緑色のつばが広い帽子を被った同じ色のワンピースを着た小さい女の子が入ってきて、
「すまん、遅れた私の分はまだあるかね?」
「はい、材料はまだありますから揚げればすぐに、あとワイン煮は多めに作ったので」
「私の分もあるかね!!カツは2枚でワイン煮は大盛りで!!」
握っている手を更に強く握りオークの人が目を血走らせお替り希望、
痛いし怖いです頷いたら放してくれました。
「では作ってくるので、少しお待ちを」
急いで作りましょう、子供を待たせるのは可哀想なので、
◇ ◇ ◇
グラスにワインを注ぎミニスが一息で飲み干す。
相変わらず見た目とのギャップがあるが、
「魔石ギルド」ギルド長のハーフエルフ、ミニス・シエン。
帽子を外して少しだけ尖った耳を出し、グラスにワインを注いでもらっている。
「遅れるなんて珍しいじゃない」
「悪い悪い、緊急で仕事が入ってそれでね、ボードマンこれ」
帽子の中に手を入れて中から何かを取り出しボードマンに投げて渡す。
ボードマンがすごく慌ててそれを大事そうにキャッチする。
ボードマンがそれを確認したら中身がただの石だったのですごい表情をしている。
それを見てケラケラ笑っている。
「魔石ギルドのトップが魔石を粗末に扱うわけないじゃん」
帽子の中から黒い箱を取り出しテーブルの上に置く。
「おーぷん!!」
中なら拳サイズ程ある黒く透明度が高い魔石が入っていた。
魔石は自分の専門外なのだが、コレがすごいのは見ていてわかる。
「すごいよコレ、バルさん達の持ってくる魔石以来の大物、久しぶりに興奮したね」
ミニスの説明では、保有魔力最高ランクで属性が複数有り、風と雷の属性。
雷は魔石の中でもかなり希少な属性で全体の5パーセント位でしかない。
値段はオークションに掛ければ金貨で、一千万枚は最低付く程の物だと。
「正直うちじゃ買い取れないよ値段が高くて、でも欲しいボードマンまけてコレ」
「コレの元の持ち主はバルさん達の物で、私は鑑定と買取の依頼を受けたんだが困ったな」
バルさん達か、久しぶりに名前を聞いた街の恩人で英雄達その方々ならこの魔石も納得できる。
あと元という事は今の持ち主がいるという事だ。
「ボードマン今の持ち主って誰なの?」
「彼らの子供だよ、といっても養子だけどね」
「バルサンノ養子ダト!!」
今日初めて口を開いたな「水鱗商会」代表、ハイ・グー。
青い鱗の2メートル以上あるリザードマンで、凄腕の商人で戦士だ
ハイはバルさんアニスさん夫婦に恩義を感じているからな。
「ソイツハ誰ダ、挨拶シタイ!!」
「それならさっき会ったよ、挨拶する前に調理場に行ったし」
「「「えっ!!」」」
あの坊やが、でもこれだけの魔石を売って何に使うんだ。
ボードマンが売った金の使い道を教えてくれた、飲食店ね。
確かにこの腕なら店を出して成功するのは簡単だろう。それでも大金過ぎるが、
「お待たせしました」
◇ ◇ ◇
持っていった皿を女の子とオークの人に渡して、
先ほど途中だった自己紹介をして、ボードマンさんに周りの人たちの紹介をされて、
今日の料理の事を聞かれたので説明した。
カツは塩で味付けして小麦粉をまぶして卵液に付け、パン粉と粉チーズを混ぜた物で衣を付け、
大豆を絞った油で揚げたという事と、
トマトを茹でて皮を剥いて、ショウガやタマネギと一緒に煮てソースを作った事。
ワイン煮は、牛の頭から頬の肉と舌、足からスネと尻尾を取り。
下茹でして皮を剥いだり、煮込む前にタマネギと一緒にこんがり焼いてから沸騰した赤ワインの中に入れじっくり煮込み、トマトを加え塩で味を整え。手作りバターでコクを出します。
あとは肉が柔らかくなるまでひたすら煮込んだ事。
バターはナムさんに密閉した容器に入れた牛乳を、
ひたすら振ってもらうという地味できつい作業をお願いして作った。
ナムさん印のバター見た目は白っぽいですが味は濃い目ですね。
成分未調整な牛の乳はすごいです。
チャイは、少しの水で紅茶を煮出してから牛乳と砂糖を加えて煮る飲み物と、
説明を終えると皆さんの反応は様々で、
ほとんどの人がこちらを見たまま固まり。
トンさんは感涙しながらお替りした物を食い。
ミニムさんは説明を聞きながら観察しながら料理を食べ。
リザードマンのハイさんは自分の脇を持ち子供のように持ち上げられたり。
クズハさんが硬直が解けて、
「じゃあ、ワイン煮の中には牛の舌や頬、スジに尻尾が入っていたというし、しかもあの偽紅玉がソースにも」
「はい、ひょっとして不味かったですか?」
「美味しかったけど、驚きがでかいというか」
皆さんみんな今日口に入れた物の是非を考えているようです。
するとボードマンさんが、
「そうだ、ケイタくん君が魔石を売ったらどうするか説明いいかね」
「はい、自分の店を持つのと材料を探したいです、なければ作りたいですね」
「料理だけではなく材料を?」
「はい、あと見つかっても生産が少ない場合は生産を安定させて大量生産できるようにしたいです」
「君は何のためにそんな事を」
「この世界のどこでもカレーが食べれるように」
「カレー?つまり君が作った料理を世界中で」
「はい世界中で!!」
「君の魔石をこの料理を食べた我々不動の七席で共同で購入したい」
トンさんが大声で提案する。
「私は200出す」
クズハさんが、
「私も200」
シンさんが、
「オレモ200」
ミニスさんが、
「あちしも200」
金貨800枚かすごい大金だな。と思っていたら。
トンさんが他のメンバーは保留として商会やギルドに戻ってから相談するという事でまとめた。
するとトンさんが懐から銀色のカードを出して手渡した。
カードには林檎をかじる豚の紋章がありお礼を言うと、
クズハさん、シンさん、ミニスさんもカードを渡してくる。
稲穂を咥える二つの尾を持つ狐の紋章、槍を持つリザードマンの紋章、魔石を抱いた竜の紋章。
これは信頼する相手と商売をする証だそうだ。
周りを見るとみんな驚いた顔をしていたが、かっこいいからいいか。
この4人から自分の店に必ず近いうちに顔を出せと言われて頷く。
自分の店に出資してくれる株主みたいな人達だと思うし、
とりあえず魔石はミニスさんが、ひとまず預かる事になり食事会はお開きに。
金貨800枚かどう使おう。
後日その金額が勘違いであり大騒ぎになるのは別の話である。
トンさんかっこいい、
次回ヒロイン登場!!(予定)




