第7話 レヴェリオン
≪ 登場人物 ≫
◇ノア・シュナイダー大佐
◇フォクスター小隊:ブラントリー・フォクスター隊長、エイジ・ミツギ少尉、ユイン・ユノス少尉
◇ピジョン・ブラッド隊:バング隊長、シルバーリング副隊長、カットマン、オールドスピア、ピース、ベン、モニカ、アレックス
月面施設内。
先頭はフォックス。その後ろにノアとユイン。最後尾をシルバーリング。
シャトルの待つ、PORT03を目指し走り続ける。
『その先、二つ目の交差路を右。今ならそこが一番薄い』
アレックスからのナビゲーション。
端末では、指示と共に送られる施設内のマップが、移動に合わせて更新される。
「了解」
フォックスが短く返す。
背後。閉じた隔壁のさらに向こうから、複数の足音が迫っていた。
「司令官。PORT03にたどり着くまで、随伴組の指揮は俺に預けて欲しい」
ノアがフォックスを見返す。
一拍。
「分かった、フォクスター大尉。PORT03へ到達するまで、君が指揮を執れ」
「了解」
フォックスの声から、僅かに軽さが消えた。
「シルバーリング。俺と前だ」
「了解」
「ユイン。司令官から離れるな。後方も見ろ」
「了解しました」
フォックスが拳銃の残弾を確認する。
「交戦は必要な分だけ。小さい連中を倒すことより、前へ進むことを優先する」
「ここで、命を堕としてもつまらん」
シルバーリングが言った。
「そういうことだ」
前方を睨みながら、フォックスが不敵に笑う。
「アレックス。G2との合流点と、PORT03までの使える道をくれ」
『もう出してる』
フォックスの端末へ新たなポイントが表示された。
《RENDEZVOUS POINT》
『G2もPORT03側からそっちに向かってる。通過した区画は、こっちで隔壁を閉める』
「前からの交戦、全部避けられそうか?」
『無理。邪魔なのだけ抜いて』
「くそっ、やるしかねぇか」
フォックスが吐き捨てる。
前方の交差路。
小柄な影が、一つ。また一つ。
ルナリアン・エコーが待ち受ける。
「行くぞ」
フォックスとシルバーリングが前へ出た。
ユインはノアの半歩後ろにつき、後方を警戒。
四人が再び走り出す。
*
別の通路。
G2。
『カットマン、次を左。合流ポイントまで三ブロック』
「了解」
カットマンが先行し、ベンが後ろを取る。
アレックスからの指示とルートを瞬時に判断し、合流ポイントへ突き進む。
『前方に敵四。迂回路は――ない』
「なら、突破だな」
二人が角の手前で速度を落とす。
その先。
四体のルナリアン・エコーが待ち受ける。
小柄な身体。
顔全体はゴーグルで覆われているため、表情までは読めない。
「……こいつらは?」
『月側の兵隊らしい』
「悪趣味な見た目だな」
ベンは何も言わない。
エコーが一斉にこちらを向く。
「来るぞ」
次の瞬間。
ベンが撃った。
正確な射撃で、先頭の一体が倒れる。
残る四体が左右へ散る。
「右、獲る」
カットマンが前へ。
二発。
ほぼ同時に二体を止めた。
左から距離を詰めた最後の一体へ、ベンが短く射撃。
対象への攻撃に一切の迷いはない。
「これが兵士、ね」
カットマンは倒れているエコーを一度だけ見る。
「行くぞ」
ベンは興味も示さず、先を促す。
「ああ」
『そのまま真っ直ぐ。随伴組の方がポイントには先行している』
アレックスからリアルタイムで進捗が入る。
「追いつくさ」
カットマンが速度を上げた。
*
月面施設外周。
電子戦仕様アイオーンのコクピット。
施設管理網へ直接接続したまま、アレックスは各ユニットの位置を一つの画面へ重ねていた。
脱出中の随伴組。
それに合流、回収するG2。
目指すPORT03。
その誘導を維持したまま、別の解析画面を開く。
《LUNAR FACILITY――STRUCTURAL DATA》
「……さて」
シャトルからのドローンでは、どうしても内部が見えなかった領域。
周囲の管理網から物理的に切り離された区画。
だが機体から直接繋いだ今なら、周辺設備の情報は拾える。
電力。
空調。
構造支持。
搬入経路。
「……これか」
アレックスが画面を拡大する。
通常区画とは明らかにスケールの規格が違う。
巨大な内部空間。
さらに、その一方から施設外殻へ伸びる大型開口部。
「外部ハッチ……サイロ」
『何か見えたか?』
ピース。
「でかい空間が一つ。外へ直接出せるハッチもある」
『HF用じゃねぇよな』
「ああ、サイズが違う」
『大型機動兵器の格納場所でしょうか』
エイジが回線へ入る。
「確証はない。でも、今見えてる中じゃ一番怪しいね」
「CMD、こちらG1」
アレックスはシャトルのバングへ回線を開いた。
『G1、CMDだ』
「物理遮断区画の一部構造が取れた。内部に巨大な格納空間。外部へ抜ける大型ハッチ付き」
一拍。
「標的がいるなら、ここだと思う」
『確度は』
「断定はできない。でも他に該当なし」
『分かった。座標を出せ』
「了解」
侵入候補地点から巨大空間までの最短経路を計算する。
《G1 TARGET ROUTE――CALCULATING》
『アレックス』
「はいよ」
『お前はそこから動くな。直接接続を維持しろ』
アレックスが画面を見る。
随伴組とG2。
PORT03。
全員が今、このアイオーンをハブとして連携している。
『接続が切れれば、救出側が目を失う。支援優先だ』
「了解」
『エイジ、ピース。標的の座標には二人で行け』
『『了解』』
バングからの通信が切れる。
「座標送るよ」
エイジのアルトリウスと、ピースのアイオーンに侵入ポイントが表示される。
「外殻から入れば、格納区画の手前まで行ける」
『分かった。外殻からの侵入口はこちらで確保する』
ピースのアイオーンが機体の向きを翻す。
『アレックス。随伴組の誘導、お願いします』
エイジも続く。
「任せて~」
二機のHFが月面施設外殻に沿って加速した。
*
『次の分岐を左。正面に二、右に三』
「左だ」
フォックスの判断に全員が続く。
最後尾のユインが通過。
『抜けた。閉めるよ』
ユインの背後で降りる隔壁。
アレックスがマップを確認し、すかさず後背を封鎖した。
正面。
四体のエコー。
「前方、敵だ」
フォックスとシルバーリングが左右へ分かれる。
銃声。
進路上の二体が倒れる。
「止まるな!」
残る二体が身を翻すより早く、フォックスが前へ出る。
ノアとユインがその間を抜ける。
シルバーリングが後退しながら牽制し、最後に通路へ飛び込んだ。
背後。
残った二体のエコーが迫る。
「振り切るぞ、走れ!」
四人が速度を上げた。
*
近付きつつある随伴組とG2の距離。
『次は右から。正面四体は避けられる』
「了解」
G2側も足を止めない。
枝通路へ入り、さらに一つ角を曲がる。
前方へ現れた一体だけをベンが撃つ。
エコーが倒れるのを確認するより先に、カットマンはその横を通過する。
『あと一ブロック』
「随伴組は?」
『間もなく合流ポイントに到着だね』
「急ぐぞ、ベン」
「ああ」
*
『そこ、合流ポイント』
フォックスたちが、少し広い連絡区画に飛び込むと同時に、アレックスからの通信。
フォックスが端末を見る。
合流ポイントに向かって、G2は確実に近づいている。
同時に。
別方向から複数の足音。
「来たな」
シルバーリングが前方を見る。
交差路の奥。
エコーの姿、さらに増える。
PORT03へ向かえば、距離は稼げる。
だが、ここを離れればG2と行き違う可能性がある。
「大尉」
シルバーリングが発言した。
「ここで待とう。G2は来る。今動けば、かえって合流が遅れる」
フォックスが端末へ目を落とす。
迫るエコー。
G2を待つか。
「……だな」
意を決し、拳銃を構えるフォックス。
「ここで合流する」
シルバーリングがその隣へ付ける。
「司令官、下がってください」
ユインはノアの前へ半歩出る。
「全員、撃ち過ぎるなよ。抜ける道だけ残す」
「「「了解」」」
接近するエコー。
銃声。
一体が倒れる。
だが、数が増える。
後方から来た一体を撃つユイン。
「左からも来てるぞ」
シルバーリング。
「見えてる!」
フォックスが応射。
一歩。
また一歩。
前へ出る隙を奪われる。
「ったく、G2はまだかよ」
フォックスの表情に若干の焦りが見えた。
その瞬間。
前方のエコーが背後から撃たれ、崩れる。
一体。
続いて二体目。
携行端末へ新たな回線。
『こちらG2、カットマンだ』
通路の向こう。
カットマン。その後ろにベン。
『挟撃する。一気に前進してくれ』
フォックスが笑う。
「待たせるじゃないか、色男」
『救出も男相手じゃ、これが限界だ』
「言うねぇ」
「シルバーリング。押すぞ!」
フォックスが銃口を上げる。
「ああ!」
随伴組側からフォックスとシルバーリング。
反対側からカットマンとベン。
エコーが両側へ意識を割いた、その瞬間。
射撃が重なる。
「前、開いたぞ!」
「進め!」
ノアとユインが一気に距離を詰める。
最後の一体が倒れ、双方が合流した。
「PORT03へ戻るぞ」
間髪入れず、フォックスは発する。
「「「「了解」」」」
先頭を走るカットマン。
ノアの傍にユイン。
後方をシルバーリングとベン。
『合流確認。PORT03までルート更新する』
《EVACUATION ROUTE――UPDATED》
七人は、そのまま走り出した。
*
PORT03。
強襲揚陸したシャトルの周囲を、モニカとオールドスピアが警戒している。
施設側通路。
大型隔壁。
シャトル後部ハッチ。
ここが全員の帰還路だ。
『G3。G2が随伴組と合流したよ』
アレックスからの通信。
「こっちに戻るのは?」
『相手の抵抗次第だけど、10分以内』
「了解」
オールドスピアが通路奥へ視線を向ける。
「素直に帰してくれればよいのですが」
《INTERNAL MOVEMENT――DETECTED》
「来たよ」
別通路にエコーと思われる反応が増える。
『敵二十。そっちへ向かってる』
「私が押さえましょう」
オールドスピアが携行火器を構える。
通路の奥からエコーが現れた。
PORT03へは侵入させない。
オールドスピアが撃つ。
先頭が倒れ、残るエコーが散開する。
『モニカ。やつらドック隔壁を閉じようとしてる』
「まさか」
《PORT 03 INNER BULKHEAD――CLOSING COMMAND》
大型隔壁が僅かに動く。
「アレックス、止めてよ」
『――駄目。向こうのコントロール。優先権が上』
「オールドスピア!」
「分かりました。こちらを」
携行火器をモニカに渡すと、オールドスピアは非常操作盤へ走った。
保護カバーを開き、手動制御を試みる。
「アレックス。閉鎖機構は?」
『右下、二番パネルの奥』
「確認しました」
さらに閉じようとする隔壁。
「まだ?」
モニカは接近するエコーへ射撃を続ける。
「もう少しです」
数秒。
隔壁の動きが止まった。
《BULKHEAD DRIVE――FAULT》
『確認。PORT03、開放状態維持』
「やるじゃないの」
モニカも最後の一体を退かせる。
G2と合流した随伴組。七つの反応が、確実にこちらへ近づく。
オールドスピアは火器のグリップを持ち直した。
シャトルのハッチは開いたまま。
PORT03までのルートを確保。
二人は、七人が帰ってくるであろう通路へ、再び銃口を向けた。
*
月面施設外周。
エイジのアルトリウスとピースのアイオーンが、指定された侵入地点へ接近していた。
黒い空の下。
二機は姿勢制御スラスターを細かく噴かし、施設外殻に沿って進む。
『あと200だ』
アレックスから送信されたマーカーの位置を確認するピース。
「もう、近いですね」
『その先。外装の内側に大型搬入路がある。中は無加圧だ』
侵入ポイントを前に、減速する二機。
『侵入口を開ける』
「お願いします」
コクピットのモニター上で侵入地点が強調される。
『ここだな』
ピースのアイオーンが兵装を構えた。
一撃。
月面施設の外装材が砕け、破片が音もなく散ってゆく。
その跡から、HFが通過できるだけの開口部が覗く。
『開いた。行くぞ』
「了解」
アルトリウスが短くスラスターを噴かし、施設内部へ滑り込む。
ピースが続く。
内側は巨大な搬入路だった。
壁面に大型設備用のレールとガイドが伸び、二機が並んでも余裕がある。
『……想像以上に、広いな』
「ですね」
前方。
巨大な気密隔壁。
『手前の中継区画へ入って。背後を閉める』
二機が空間に進入する。
《OUTER BULKHEAD――CLOSED》
遮断。
続いて圧力調整。
《PRESSURE――STABLE》
『開くぞ』
前方の隔壁が動いた。
中央から、ゆっくりと左右へ開いていく。
隙間の向こう。
白い照明。
さらに奥へ広がる、これまでとは比較にならない空間。
「……」
『行くぞ、エイジ』
「はい」
高い天井。
左右へ伸びる大型クレーン。
整備用ガントリー。
床面には複数の作業レール。
HF用とは規模そのものが違う。
『当たりっぽいな』
静かに呟くピース。
「……?」
エイジがアルトリウスを止めた。
前方の暗がりに、巨大な構造物。
最初に見えたのは脚部だった。
エイジが視線を上げる。
脚。
腰。
胴体。
肩。
そして頭部。
ガントリーの間から、巨大な人型の全貌が現れた。
「……これは」
地球で。
GEV02-CAYAMBEで。
電波妨害で映像が乱れ、まともにその姿を捉えることはできなかった。
だが、今は鮮明に見える。
見た事もないロボット。
骨格も、装甲配置も、関節構造も全てが異様。
エイジの知るロボットとは、設計の起点から別物だった。
『……スゲェな』
ピースの声。
エイジも目が離せない。
一部の装甲が外され、内部フレームが露出している。
周囲には整備用ガントリーと作業アーム。
「……整備中か」
エイジはアルトリウスを、さらに前へ進める。
巨大機の足元。
見上げる。
「CMD、こちらG1。ミツギ少尉」
『聞こえてる。CMDだ』
「標的を発見。映像を送る」
通信の向こう。
バングの短い沈黙。
『確認した』
月で。
レフトムーン・ロゥが短く口にした、その名。
大型機動兵器と呼ばれた、その実体。
――レヴェリオン。
≪ 用語・設定 ≫
■レヴェリオン
月で建造された全高20メートル、大型機動兵器の名称。
ライトルナ・ソードが駆るこの物語の主役ロボット。
突如、地球に出現し、OMCの軌道エレベーター軍事施設と無人HF統合管制施設を壊滅させた。
≪ あとがき ≫
第3章、1話追加でこれにて終わりました。
いつもと同じで恐縮ですが、更新のたびに読んでいただいている皆様、本当にありがとうございます。
ちょっと、読んでみた方、嬉しい限りです。
ここでやっと、作品タイトルになっている主役ロボット”レヴェリオン”の登場です。(実際は、第1章から出てましたが)
第4章はドッカンドッカン、やりたいです。
投稿を初めて約2カ月が過ぎます。
更新頻度や内容が、どのように思われているのか気にはなりますが、引き続き自分のペースで物語を続けますね。
応援いただければ、励みになります。
今週もお疲れ様でした。
よい週末をお過ごしください。




