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『異世界転生してみたら、何もおかしくない世界のおかしい国名に俺だけが困惑している2』  作者: スコ平おじさん


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第26話 魔王の直垂(ひたたれ)と、神話の盾

「――おい佐藤、御剣! こないだの、あの戦国の侍が世界最強だったっていう証拠を自分でも色々調べてたらさ、この幕末の『生麦事件』のデータに、もの凄く生々しい物的証拠が遺されてるのを見つけたぞ!」


放課後のサークル室。先輩が、興奮して鼻息を荒くしながら、自分のスマホに表示された海外の医療記録の翻訳データをホワイトボードの画面へと映し出した。

前話で先祖たちの圧倒的な戦闘力と近接戦闘のファクトに脳髄を殴られた先輩は、今や完全に、自ら歴史の一級史料を掘り起こす戦闘員へと覚醒していた。


「見てくれよこれ、西暦1862年に島津久光の行列を横切ったイギリス人を薩摩武士が斬り捨てた、あの生麦事件の直後に、イギリスの軍医が本国へ送ったリアルな検死報告書だ!」


部員たちも一斉にホワイトボードの前に集まり、その生々しい記述を凝視する。


「『被害者の遺体は、肩から腹まで、肉も骨も、衣服ごと一太刀で完全に両断されていた。日本のサムライの白刃の切れ味と腕力は、明らかに人間の領域を越えている。彼らの剣術と至近距離で間合いを合わせることは、自殺行為だ』って、世界最強の英国軍が恐怖で震え上がってるんだよ! 16世紀のタイ・フサの強さが、幕末まで寸分の狂いもなく遺伝子レベルで地続きで繋がってた証拠じゃねえか!」


「最高のエビデンスですね、先輩。自ら一次史料の記述を掘り起こすなんて、本当に素晴らしい解像度です」


パイプ椅子に腰掛けていた俺――佐藤は、先輩の提示した検死データの画面を見つめながら、静かに言葉を返した。


「だが、白人列強はただ怯えて引き下がるような甘い連中じゃない。これに激怒したイギリスは、その翌年の西暦1863年、最新の近代大砲を大量に積んだ軍艦を率いて、薩摩の本拠地である鹿児島湾へと一斉に攻め込んできたんだ。これが『薩英戦争(さつえいせんそう)』さ。

圧倒的な近代兵器を誇るイギリス海軍に対し、薩摩武士たちは一歩も引かずに海岸の砲台から猛烈な迎撃を展開した。イギリスの最新軍艦を大破させ、高名な艦長や副長をその砲撃で戦死させて退却に追い込んだんだよ。世界最強の英国海軍を相手に、一地方の武士団が正面から互角に渡り合ってみせたのさ。


そして、この薩摩の凄まじい防衛戦を間近で見たからこそ、隣の長州藩(山口県)の志士たちも『俺たちも海外の侵略を絶対に許さないぞ』と烈火の如く奮起したんだ。その翌年の西暦1864年、今度はイギリス、フランス、アメリカ、オランダの『四カ国連合艦隊』の巨大な軍艦が長州の下関へ押し寄せ、激しい大戦争が起きたんだよ」


「一地方の藩が、今度は世界最強の四カ国をいっぺんに相手にしたのか……!」


先輩が、地図の下関の海を食い入るように見つめながら低く唸る。

そのタイミングを見計らうようにして、ホワイトボードの前へ歩み出た御剣が、マーカーを手にして年表にある『古事記・神話』の線を力強く結び、凛とした声で語り出した。


「さすがに四カ国の圧倒的な近代大砲の前に、長州の軍勢は圧倒的な兵力差によって壊滅的な打撃を受けたわ。でも先輩、国が切り刻まれる一歩手前の絶望的な講和交渉の席に、外務大臣として乗り込んだのは、わずか24歳の若さで奇兵隊を創設した革命児、高杉晋作(たかすぎしんさく)だったのよ。


この時、高杉の真横で『通訳』をさせられていたのは、イギリス留学から帰ってきたばかりの23歳の伊藤博文(いとうひろぶみ)と、井上馨(いのうえかおる)の二人。彼らは白人の圧倒的な科学力と、アヘン戦争で中国の領土が切り刻まれた国際ルールの罠の恐ろしさを、誰よりもリアルに理解して震えていたの。


白人列強の司令官は、かつて中国の清をアヘン戦争で制圧した時と全く同じ、お決まりの侵略プログラムを冷酷に突きつけてきたわ。


『戦争に負けた罰として、下関の港にあるあの島――“彦島(ひこしま)”を、イギリスに割譲、あるいは租借しなさい』とね。


横にいた伊藤博文たちは恐怖で血の気が引き、『これを受け入れたら長州は、日本は滅ぼされる……どうすればいいんだ!』と絶望のどん底に陥った。


だけど、全権大使である高杉晋作の取った行動は、正気の沙汰じゃなかったのよ。高杉はボロボロの烏帽子に魔王のような真っ赤な直垂(ひたたれ)を身にまとい、傲然たる態度で領土割譲の要求書類をハタと横へ押しのけると、白人の司令官たちの目の前で、あの古事記の『国産みの神話』を、大声で、切々と、延々と朗々と暗誦し始めたの」


「神話を……交渉の席で叫んだのか?」先輩が声を漏らす。


「そうよ。隣の伊藤博文はパニックになって『高杉さん! 何を言ってるんですか! 早く領土の交渉をしてください! このままじゃ全員殺されます!』って、高杉の袖を必死に引っ張って涙目で止めようとしたわ。だけど高杉はそれすら完璧に無視して、目を見開いたまま『この国は、開闢の時に神々が海をかき混ぜて産み落とした、神聖なる日の本の国である。我々人間の都合や、戦争の勝ち負けごときで他国に明け渡すことなど、この国の二千六百年の法秩序として絶対に不可能なのだ』と、呪文のように神話を叫び続けたの。


白人の司令官は激昂したわ。『おい通訳! この東洋の狂人は一体何を言っているんだ!? 早く訳せ!』ってね。青ざめた伊藤博文が『我が国の始まりである、神話の国産みの話をしています』と訳した瞬間、白人たちの背筋に冷たいものが走ったのよ。


前年の薩英戦争で、日本の武士の恐ろしさを身に染みて知っていたイギリス側は、高杉の放つその圧倒的な狂気と、私たちが学んだあの『出雲大社の国譲り』から地続きで繋がる、二千六百年の神話の盾のロジックの前に、完全に気圧されてしまったの。彼らは確信したわ。『この国の人々は、土地を奪われたら、相手が誰だろうが神の国の不屈の戦士になって全員で命を懸けて刺し違えにくる。これ以上の深追いは、我が軍が全滅する』ってね。結果、彼らは恐怖して、彦島を分捕る要求を完全に引っ込めて退却せざるを得なかった。高杉晋作は、神話を盾にして、我が国の国土を完璧に守り抜いたのよ」


ホワイトボードを見つめていた先輩が、深く大きく息を吐きながら、手元のノートをドンと長机に置いた。その顔は、本当の歴史の因果関係を解き明かした凄まじい鳥肌と、魂の底からの感動で紅潮している。


「――すげえ……。繋がった、全部繋がったわ。日本人は、長屋の平民から高杉みたいな若者にいたるまで、全員が自分たちのルーツ(神話)の尊さを知ってたんだ。そして、その誇りを命懸けで守り抜くという『使命』を全員が自覚していたからこそ、白人の侵略を内側から退けて、国を護ることができたんだな……!」


先輩が興奮を爆発させると、周りの部員たちも

「伊藤博文たちの講和交渉の裏に、そんな圧倒的なシステムの攻防があったのか!」

「高杉晋作の放った二千六百年の法秩序のロジック、格好よすぎるだろ!」

と声を弾ませ、自分たちの歴史のノートに下関のファクトを殴り書きしていく。


挿絵(By みてみん)


テレビや大河ドラマのプログラミングは、キリシタン大名を美化して日本を遅れた国だと洗脳し、高杉晋作をただの破天荒なテロリストとして教え、この「神話の誇りで国を護った本当の背骨」を徹底的にスルーさせていた。だが、目の前の若者たちは、自分たちが未来の子供たちのために何を語り、何を守るべきかという、本当の使命の重さに自らの頭で完全に気づき、確かな『問い』と新しい視点を持って、静かに覚醒し始めていた。


先輩は嬉しそうに笑うと、長机の端にあったサークルの活動日誌を開き、力強い筆跡で『幕末・生麦編、合流』と大きく書き込んだ。


部室全体が、先祖たちの紡いできた圧倒的な強さとプライドの余韻に湧き上がる中、部員たちは次の時代へと熱く声を弾ませ合っていた。


(第26話 終)

今回のお話のテーマとなった、高杉晋作が四カ国連合艦隊を相手に仕掛けた、古事記の「神話の盾」による領土割譲の拒絶交渉。


これまでNHKの大河ドラマなどでも、彼らの師である『吉田松陰』や、高杉・伊藤博文たちが集った『松下村塾』の歴史は何度も映像化されてきました。ですが、メディアの流す演出はいつも、彼らを『激動の時代を駆け抜けた、熱く爽やかな青春の若者たち』として無理に美化する綺麗な記号ばかりです。それを見るたびに、私は歴史の解像度の低さに強い違和感を抱いてきました。


実は、この松下村塾の若者たちの泥臭い戦いの裏には、のちの日本の富を白人列強から守り抜くための、凄まじい『近代経済の防衛システム』が地続きで繋がっています。その事実を最も鮮やかに教えてくれるのが、大河ドラマ『花燃ゆ』と『青天を衝け』の完璧な合流ファクトです。


『花燃ゆ』の主人公であり吉田松陰の妹である文(美和子)が、最初の夫である久坂玄瑞の死後に再婚したのが、初代群馬県令(知事)となった楫取素彦(かとりもとひこ)でした。そして、彼が知事として命懸けで守った現場こそが、まさに『青天を衝け』で渋沢栄一が予算を握り、その従兄である尾高惇忠(おだかあつただ)が初代場長として世界一の品質に育て上げた、世界遺産・「富岡製糸場」だったのです。


当時、海外の白人商人たちは日本の生糸を不当に安く買い叩き、国家の富を奪い取ろうと価格破壊を仕掛けてきました。それに対し、渋沢が金を引っ張り、尾高が現場で世界一の品質を作り、松下村塾の背骨を持つ楫取が『外国の不当な安値には絶対に屈しない』と行政の力で買い叩きを完璧に突っぱねて、適正価格を守り抜きました。


このように、一見バラバラに見えていた別々の歴史(大河ドラマ)が、富岡製糸場という一つの現場を通じてガチッと結合し、隠された防衛のシステムが白日の下に晒される瞬間。これこそが、大人の知的エンターテインメントの本当の醍醐味であり、最もエキサイティングな興奮の瞬間ではないでしょうか。


青春小説の綺麗なイメージのプログラミングを外し、先祖たちがどれほど強固な経済の防壁を持ってこの国を護ってくれたのか、自らの頭で気づく楽しさを、私たちは今、取り戻しているのです。


サークル室の先輩たちが自らイギリスの検死報告書を掘り起こしたように、皆様の頭の中でも、今、お仕着せの洗脳を内側から粉砕する本物の歴史の解像度がパチパチと繋がっていることを心から願っています。

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