第21章 食事への誘い
「……やっぱり、プロに任せて正解だな」
今日はリリアーナがアキラの部屋へ来ている。
大きな家具を修復して欲しくて依頼した所、
配送の手間を考えると、行った方がいいという事だったからだ。
アキラの部屋は、本来ベッド1つ、机1つ、収納棚1が備えつけてあるだけだった。
しかし、今では棚が5つ程増え、
12畳程の広さがあり、十分な広さなはずの部屋が、小さく思える程だ。
そして、合計5個の棚のうち、元々あった1つの棚は洋服、それ以外の5つの棚には、壊れた小物がずらりと並んでいた。
だが、それらはすべてアキラが自分の《鑑定》で見極め、「修復すれば本来の価値を取り戻す」と判断した品だった。
一応物を置ける耐久があると思って買った棚だが、いかんせん古い。
万が一壊れて、コレクションが散らばったら大変なので、
早めに棚を修復する事にしたのだ。
部屋の中央に立ち、アキラは感慨深げに”修復”を見ていた。
実は、5つ買い足した棚、
それらも古く、傷ついている物で、一見価値がないように見える。
しかし、”鑑定”では、とても価値のある棚なのだ。
そんな棚がリリアーナの手によって修復されていく。
ジャンルも時代も統一されていない。
普通ならちぐはぐになりそうな組み合わせだ。
しかし、《修復》を終えた家具たちは、不思議な調和を生んでいた。
「……すごい」
彼女は素直にそう言い、ゆっくりと室内を見渡した。
「それにしても、凄い数の小物ですね」
「市場でついつい買ってしまってね」
そこには、アキラがこれまで集めてきた小物――指輪、首飾り、杯、古い魔道具の残骸などが所狭しと並べられていた。
「これ、全部……?」
「うん。修復前提で集めてたやつ」
リリアーナの目が、きらきらと輝く。
「すごい……これ、全部“見える”んですね」
「まあ……鑑定士だから」
控えめに答えるアキラに、彼女はくすっと笑った。
「鑑定士、って一言で片付けるには、ずいぶん凄すぎですけど」
棚の前にしゃがみ込み、一つ一つを丁寧に見ていくリリアーナの横顔は、職人そのものだった。
《修復》というスキルを持つ者が、価値を見抜く者のコレクションを見る――それは、互いにとって刺激的な時間だった。
「この指輪……」
「それは、修復したら貴族の式典用になる」
「でしょうね。欠けてるの、表面だけですし」
二人の会話は、自然と専門的なものになっていく。
気づけば、かなりの時間が経っていた。
「……あ」
ふと我に返ったように、リリアーナが立ち上がる。
「すみません、つい夢中になって」
「いや、全然」
アキラは首を振った。
「それに……今日は修復をお願いしてるし」
そう言って、少し間を置いてから続ける。
「修復の代金はもちろん払うけど……その、家まで来てもらったお礼もしたい」
リリアーナが、きょとんとした顔でアキラを見る。
「お礼、ですか?」
「……食事でもどうかな」
一瞬、沈黙。
アキラは内心で少し緊張していた。
仕事相手としては、これまで何度も会っている。だが、これは一歩踏み込んだ誘いだ。
リリアーナは少し考えるように視線を落とし、そして微笑んだ。
「……それ、嬉しいです」
「本当?」
「はい。修復士としてじゃなく、リリアーナとして招いてもらえるなら」
その言葉に、アキラの胸がわずかに温かくなる。
「じゃあ……簡単なものだけど」
「楽しみにしてます」
こうして、アキラの家には――
鑑定士と修復士、そして一人の男と一人の女性としての、静かな食卓が用意されることになった。
価値を見抜く力と、価値を蘇らせる奇跡。
その二つが交わる場所で、新しい関係が、ゆっくりと芽生え始めていた。




