第2章 スキル選択
「これから、君が向かう世界について説明しよう」
神様が、淡々と語り始める。
「私の世界――アルセリオンでは、人は皆、生まれながらに一つの“スキル”を持つ」
「全員、ですか?」
「例外はない」
陣内は、腕を組んだ。
(……能力が前提の社会、か)
それは便利であると同時に、危うい世界でもある。
「スキルは、生き方そのものだ。
戦う者、癒す者、作る者、導く者――
それぞれが役割を持ち、世界は回っている」
「役割を、最初から与えられる……」
日本で生きてきた陣内には、少し重い概念だった。
だが、理解はできる。
人は結局、社会の中で役割を担って生きる。
「君には、特別に“選択権”を与える」
その言葉とともに、空間に光が走った。
次の瞬間、陣内の前に、無数の光の板が現れる。
そこには、文字が浮かび上がっていた。
――【剣術】
――【斧術】
――【弓術】
――【盾術】
――【探索】
――【火魔法】
――【水魔法】
――【風魔法】
――【土魔法】
――【雷魔法】
――【治癒】
――【生産】
――【修復】
――【調合】
――【鑑定】
――【調理】
他にもいろんなスキルがずらりと並ぶ。
どれも、強力そうな響きだ。
陣内は、思わず苦笑した。
「……随分、物騒ですね」
「生きるとは、そういうことだ」
神は否定しない。
陣内は、一つ一つを眺めながら、頭の中で整理していく。
スキルを得る前に、いくつか確認しておきたい事があった。
「質問してもいいですか」
「構わない」
陣内は、慎重に言葉を選んだ。
「俺は、異世界に行っても――
言葉が通じない、火や水に困る、
そういう生活から始まるんでしょうか」
神は、即答した。
「その心配は不要だ」
「言語は?」
「問題なく理解できるようにする、読み書きに苦労はしない」
「生活環境は?」
「火と水に困らない街中へ転移させよう」
「……お金は?」
少し、現実的すぎる質問だったかもしれない。
だが、陣内にとっては重要だった。
神は、少しだけ間を置いて答えた。
「君が前世で蓄えていた額と、同等の資金を用意する、
多くを持っていると危険だろう、
その鞄の財布に入っている分はそのまま、
銀行にあるお金は商人ギルドに預けておくのでそこで受け取るといい」
その言葉に、陣内は内心で息を吐いた。
(……最低限の土台は、用意してくれるわけだ)
英雄扱いはされない。
だが、放り出されるわけでもない。
妙に現実的な配慮だった。
陣内は、再びスキル一覧へ視線を戻す。
(戦う力を選べば、確実に危険な目に遭う)
それは、想像に難くない。
剣を持てば、剣を向けられる。
魔法を使えば、狙われる。
戦闘職以外のスキルにしようと心に決める。
そうなると・・・
生産は農業とかかな・・・老後の楽しみとかにはいいかもしれないけど、
向いていないかもしれないスキルはリスクが高すぎる。
調合も面白そうだけど、かなり知識が求めらそうだ、
薬剤師とか調合師とかのイメージかな、
専門すぎて、これも自分に合っているか自信がない。
視線が、ある一つの文字で止まった。
――【鑑定】
「……これについて、教えてください」
「物や存在の情報を読み取るスキルだ。
価値、状態、性質――
見えないものを、見える形にする」
陣内は、小さく頷いた。
(数字を見る。価値を判断する。状況を整理する)
それは、日本で仕事としてやってきたことと、ほとんど同じだった。
これならいけるかも!
直感でそう思う。
陣内は、ゆっくりと顔を上げた。
「鑑定を選びます」
その瞬間、空間が静かに揺れた。
「後悔はしないか?」
「はい」
神は、しばらく陣内を見つめていたが、
やがて、ゆっくりと頷いた。
「良い選択だ、陣内玲」
光が、彼の胸に溶け込んでいく。
不思議と、重さはなかった。
ただ、静かに“馴染んでいく”感覚だけがあった。
「では行け」
神の声が、遠ざかる。
「鑑定士として生きる君の人生は――
ここから始まる」
陣内玲は、深く息を吸った。
(……さて)
(どんな世界か楽しみだ)
そう思える自分に、
少しだけ安心しながら。
彼は、新しい世界へと送り出された。




