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普通のおじさんの異世界鑑定譚  作者: あいら


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第19章 リリアーナとの出会い

男爵叙任から数日が過ぎても、アキラの生活は大きく変わっていなかった。

いや、正確に言えば――変えないようにしていた。


 肩書きが人を変えることを、彼は前世で嫌というほど見てきた。

 役職が上がった途端、部下を「数字」としか見なくなる上司。

 権限を得た瞬間に、責任から逃げ始める人間。


(……そうはなりたくない)


 だから今日も、いつも通りの服装で、いつも通りの歩幅で、商人ギルドを出る。


 違うのは、隣を歩く存在だけだった。


「……ナイト、目立つなぁ」


 生まれた従魔にはナイトという名前を付けた。

 騎士のように守ってくれる存在という意味だ。


 しかし、それ以上にかわいくて、ついつい撫でて可愛がってしまう。

 もちろん、躾けもしっかりしていて、とても賢い、

 とは言っても、あくまで可愛い犬といった気分が多く、

 そんな凄い神獣のようには思えない。


 白く長い毛並み。

 背中に生えた翼は畳んでいるものの、それでも隠しきれない異質さ。

 すれ違う人々の視線が、自然と集まってくる。


 だが、ナイト本人――いや、本犬は気にした様子もなく、軽やかな足取りで歩いていた。


「くぅ」


「いや、褒めてないからな?」


 喉を鳴らすナイトに苦笑しながら、アキラは今日の目的を思い返す。


 ――貴族の不要品の買い付け。


 グラハムが言った通り、それは“不要”という名の宝の山だった。


 貴族というのは、不思議な存在だ。

 価値が分からないものは、調べるよりも先に遠ざける。

 自分が理解できないものを「不要」と切り捨てることで、プライドを守る。


 だがアキラにとって、それは好都合だった。


(鑑定の本領発揮、だな)


 今日訪れるのは、古い家系の子爵家。

 代々受け継がれてきた蔵を整理するにあたり、「価値が分からない物」をまとめて処分したいらしい。


 屋敷が立ち並ぶ通りに足を踏み入れた、その時だった。


「……ん?」


 ナイトの歩調が、わずかに乱れた。


 鼻をひくひくと動かし、耳がぴんと立つ。

 何かを感じ取った時の、明確な反応。


「どうした?」


 問いかける間もなかった。


 ナイトは突然、進行方向を変え――

 まるで引き寄せられるように、通りの反対側へ駆け出した。


「ナイト!?」


 慌てて制止しようとした、その瞬間。


 ――ぶつかる。


 否。


 ぶつかる直前で、ナイトは器用に速度を落とし、

 一人の女性の前でぴたりと止まった。


「え……?」


 女性が、小さく声を漏らす。


 次の瞬間、ナイトは――


 尻尾を全力で振りながら、女性の足元にすり寄った。


「……は?」


 アキラの口から、間の抜けた声が漏れた。


 信じられなかった。

 ナイトは基本的に、他人に懐かない。

 敵意を向けることはないが、距離はきっちり保つ。


 それが今はどうだ。


 腹を見せ、翼をぱたぱたと動かし、完全に甘えモードに入っている。


「……あの……」


 女性は困惑しながらも、しゃがみ込んだ。


「大丈夫、ですか?」


「い、いえ! こちらこそ申し訳ありません!」


アキラは深く頭を下げた。


「普段は絶対に、こんなことしないんです! 本当に!」


「そ、そうなんですね……」


 女性は戸惑いながらも、ナイトの頭をそっと撫でる。


 その瞬間。


「……くぅぅ」


 ナイトの喉から、完全にリラックスした音が漏れた。


(……お前、そんな声出せたのか)


 驚きと困惑を隠しきれないアキラの前で、女性は小さく笑った。


「可愛い子ですね」


 年は二十代後半。

 整った顔立ちで、美人の部類だろう。

 派手さはないが、落ち着いた雰囲気。

 いかにも仕事ができるといった服装で、働く人間特有の疲労が滲んでいる。


「……従魔、ですよね?」


「はい。護衛用の」


「なるほど……」


 彼女はナイトの様子を観察し、首を傾げた。


「不思議ですね。私、動物に好かれた記憶、ほとんどないんですけど」


 ――その言葉で、アキラの中に小さな警鐘が鳴った。


(……違和感がある)


 理由は分からない。

 だが、ナイトの反応は偶然ではない。


「……失礼ですが」


 慎重に言葉を選ぶ。


「スキルをお伺いしても?」


 女性は一瞬、目を見開いた。


 次いで、諦めたように小さく息を吐く。


「“修復”のスキルを持っています」


 その瞬間、アキラの脳裏に、神に見せられたスキル一覧が蘇る。


 ――失われた価値を、あるべき姿へ戻す力。


(ナイトが懐く理由も、これか……)


 天犬は、魔力の歪みや欠損に敏感だ。

 修復の力を持つ者に、強く惹かれるのは理にかなっている。


「……あの」


 アキラは、再び頭を下げた。


「先ほどの件、本当に失礼しました。そのお詫びも兼ねて……お願いがあります」


「お願い?」


「私が集めている品の中に、“修復”を前提にした物がありまして。もし可能でしたら、見ていただけないでしょうか」


 女性は、少し考え込んだ後、頷いた。


「構いません。私も、それが仕事ですから」


 ほっと、胸の奥が緩む。


「ありがとうございます。私はアキラと申します。商人ギルド所属の鑑定士です」


 安心させる為、ギルドカードを見せる。

 シルバーだったギルドガードは、男爵になった事もあり金色になっている。

 従魔だけでなく、ギルドカードが金という事は、それだけで身分を証明してくれる。


「……リリアーナ・フェリオです」


 彼女はギルドカードを見て安心したらしく、そう名乗り、静かに微笑んだ。


「今は修復工房で働いています。場所をお伝えしますね」


 工房の名を聞いた瞬間、アキラは内心で息をのんだ。


(……評判のいいところだ)


 価値を失った物を、確実に蘇らせる。

 職人たちの間で、密かに信頼されている工房。


 今までいくつか”修復”の工房を訪れたが、

 どうしても”修復”不可の物もあり、

 ここに持ち込むよう勧められていたのだ。


 いつか行こうを思っていた店の人。

 おそらくこのリリアーナさんも、相当な腕なのだろう。


「改めて、伺います」


「はい」


 ナイトは最後まで、名残惜しそうに彼女の足元を離れなかった。


(……これは偶然じゃない)


 鑑定と修復。

 価値を見抜く者と、価値を取り戻す者。


 静かだが、確かな歯車が、今――噛み合った。

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