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普通のおじさんの異世界鑑定譚  作者: あいら


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第14章 寄付の呼びかけ

エリクサーを「買う」という選択肢は、最初から現実的ではなかった。


 1000万リラ。

 それは個人が背負える金額ではないし、背負うべきでもない。


 アキラは資料室に籠もり、エリクサーに必要な調合素材を調べる。

 前世の癖で、数字と条件を一つずつ洗い出す。


 必要なのは、奇跡ではない。

 病の原因を断ち、身体を回復軌道に戻す薬だ。


 鑑定で品質を選別すれば、

 粗悪な素材を掴まされる心配はない。


 必要素材、流通量、相場。

 何度も計算し直して、導き出した数字は――。


「……400万」


エリクサーを買うと1000万だが、

素材だけならこの値段でいける。


 額としては決して小さくない。

 だが、1000万よりは遥かに現実的だった。


(問題は……集め方だ)


 アキラは一晩、ほとんど眠らなかった。

 そして、その足でギルド長のグラハムの元へ行った、ある許可を取る為に。





 翌日、商人ギルドの大広間。


 呼び出しを受けた職員たちは、ざわつきながら集まっていた。

 ギルド職員は全員で350人程いる、

 その全ての人数となると、大広間は人で埋め尽くされていた。


 鑑定の講習でも、業務連絡でもない。

中央に立つのは、アキラ一人。


「……少し、時間をください」


 自然と、視線が集まる。


「今日は、商売の話でも、鑑定の話でもありません」


 その前置きに、空気が引き締まった。


「一人の少女の命の話です」


 アキラは、簡潔に説明した。

 ミーナの妹・リーナの病。

 エリクサーが必要だが、手が届かない現実。


 誰も、茶化さなかった。


「正直に言います」


 アキラは、はっきりと言葉を切る。


「エリクサーは買えません」


 一瞬、落胆が走る。


「ですが――素材なら、集められます」


 顔を上げる者が増える。


「鑑定士として、私が品質を保証します。

 無駄は一切出しません」


 そして、静かに告げた。


「1人1万リラ。

 無理のない範囲で構いません」


 小さなどよめき。


「これは、特別な誰かのためだけの話じゃない」


 アキラは、職員一人ひとりを見渡した。


「今日、助けを必要としているのは彼女の家族です。

 でも明日、同じ立場になるのは……

 あなたかもしれない。

 あなたの大切な人かもしれない」


 沈黙が落ちる。


「商人ギルドは、利益を追う場所です。

 でも同時に、人が集まって生きる場所でもある」


 アキラは、深く頭を下げた。


「どうか、力を貸してください」


 最初に動いたのは、若い職員だった。


「……1万、出します」


 次に、別の声。


「俺も」


「私もです」


 次第に、金袋が置かれていく。


 その流れを止めたのは、ギルド長グラハムだった。


「……話は分かった」


 彼は、静かに前へ出る。


「私からは、30万出そう」


 ざわめきが大きくなる。


「個人としてだ。これは命に対する投資だ」


 ロイドが鼻を鳴らした。


「……数字的に見ても、悪くない賭けだ」


 彼もまた、まとまった金を出した。


 全員が寄付をした訳ではない、

 しかし、思っていた人数以上の人が寄付をしてくれた。


 役職がある人を中心に、1万以上の寄付をしてくれた人も多い。


 最終的に集まったお金は――。


「……400万、到達した」


 お金を数えていた、ロイドの声が震えた。


 広間に、安堵と達成感が広がる。


 アキラは、深く、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 胸が、熱くなる。


 グラハムは、穏やかに言った。


「君が積み上げてきた信頼が、今日の結果だ、アキラ」


 この日、アキラは理解する。


 鑑定とは、物の価値だけを見る力だけではない。

 人の想いを、繋ぐ力でもあるのだと。


 そして――

 彼はもう、一人で背負う必要はなかった。

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