第2章1
オレ達が乗せられた七百トンの貨物船は、たっぷり一日半掛かって、翌々日の朝早く横須賀沖に到着した。
「南の国が、オレ達の上陸を阻止するために、何か仕掛けてくるかも知れねぇ」って言われてたから、陸地を見たときにゃホッとしたぜ。
それに、スモッグの吹き払われた春空に、くっきり浮かんだ富士山を見た時にゃ、何とも言えず胸が締めつけられる思いがしたモンだ…。
そんなオレ達が乗ってきた貨物船は、北海道でフェリー代わりに使われてたヤツだったが、航続距離が目一杯だから帰りの燃料が足らなくって、あっちこっちに重油のドラム缶が山積みされてた。
乗ってるオレ達は、油の臭いが鼻に付いて参っちまったけど、久里浜の港に近づくに従って、重油じゃ無ぇ更に嫌な臭いが漂ってきやがった。
遠目には、昔と変わらねぇ街並みが広がってるが、たぶん街全体が腐ってるんだろう。
上陸のため、貨物船は船のケツを陸地に向けて、後退しながら埠頭の桟橋に近づいて行った。
今にも建物の影から、ゾンビ野郎の大群が現れるんじゃねぇかと思って、そりゃぁヒヤヒヤしたぜ。
ほとんどの奴は、船尾ランプの扉の前に陣取って、陸地に自動小銃を向けてたが、オレと、もう一人、六輪駆動の運転手だけは、キーを捻って車内待機よ。
フェリーの乗降扉がコンクリートの桟橋に接岸する寸前、伊東の合図で自衛隊上がりの護衛要員が、左右に散開しながら、桟橋に飛び出して行ったんだ。
暫く周囲の様子を覗ってた伊東が、オレに手まねで車両を出すように合図を送ってきやがった。
護衛の奴等に守られながらトラックに乗った俺は、埠頭からフェリー乗り場の駐車場に移動したぜ。
吹きさらされた駐車場にゃ、赤さびの浮き出した乗用車が、寂しそうにぽつんと一台止まってたっけ。
貨物船は、オレ達を降ろすと、慌ただしく出航して行っちまったが、事前の予定じゃ沖合で待機してて、帰りも乗っけてくれるらしいから、運が良ければ、またお目に掛かれるんだろ。
それからオレ達は、四方を警戒しながら駐車場の一角で、今後の進行ルートや緊急時の対応を確認してたんだ。
そしたら、…突然、ドーンという衝撃音が海上に響き渡ったのよ。
咄嗟に振り向いたオレの目に、貨物船が黒煙を上げながら傾いていくのが映ったから、こっちも焦っちまった。
護衛班の奴等は、条件反射で素早くトラックの影に潜り込ませたから、オレもアスファルトの路面に伏せながら、五百メートルほど先の貨物船に目を向けたのよ。
…右舷から煙を吐きながら沈没していく貨物船は、ひっくり返りそうに傾いてる。そんな貨物船の更に沖合の海面に、黒いモンが浮いて来るじゃねぇか。
「潜水艦だ!」って誰かが呻きやがる。それでオレも体を起こして、どんな具合か確認したのよ。
真っ黒い潜水艦の甲板に、数人の人影がチョコチョコと現れて、何やら筒らしい長細い物を、こっちに向け始めやがった。
言われなくったって、それが何だか判ったぜ。ロケット弾ってヤツに違いねぇ。
…オレがロングボディトラックの運転席に這い上がるのと、自衛隊崩れの巨漢野郎が、ミニミマシンガンを潜水艦に向けて、ぶっ放すのが殆ど同時だったな。
他の奴らも、マシンガン野郎に倣って小銃を撃ち始めたが、五.五六ミリの有効射程ギリギリみてぇで、なかなか当たりゃしねぇのよ。
そのうち細長いモンがケツから火を噴いて、こっちに向かって飛んで来るじゃねぇか…。
アクセルを思いっきり踏み込んだオレは、冷や汗垂らしながら、建物の影にトラックのハンドルを向けたのよ。
六輪駆動の野郎も、慌ててトラックを発車させたが、周りの護衛要員が邪魔になってフル加速出来ねぇらしい。
白く尾を引く不気味な影が、バックミラー越しに、こっちを追いかけて来やがる…。
ヤベェ!。と思った瞬間、後ろで、もの凄い爆発音がしやがった。
振り返ったオレの目に、反転しながら宙に舞い上がる六輪トラックが映ったのよ。
…背中にべっとりと嫌な汗を感じながらも、何とか倉庫の影に逃げ込むことが出来たオレは、一息つく間もなく散弾銃をひっ掴んで、トラックのドアを飛び降りた。
フェリー乗り場の駐車場は、えらい状況になっちまった。
六輪駆動は、ひっくり返って火を噴いてるし、何人かの奴は、コンクリートの路面に、のたうち廻っていやがる。
倉庫の影から、海の方に目をやると、丁度、潜水艦が潜行していくところで、貨物船の方は黒い煙を吐く煙突の先っぽだけ、波間に見え隠れしてた。
オレは、ぶっ倒れた仲間のところに駆けつけようと、そっちに走りかけたのよ。
そしたら、…聞こえてきたぜ。…二度と聞きたくなかった、あの呻き声がよぅ…。




