第10章4
派手な銃声に、注意を引きつけられた死人どもは、廃車の陰に身を潜めたオレ達には気づかずに、トラック目指して一直線に向かって行く…。
それで、オレ達はゾンビ野郎にも、南の国の奴らにも見つからねぇように、放置車両の陰を利用しながら、トラックの近くに移動したのよ。
死人どもの呻き声に混じって、C国の言葉らしき悲鳴や怒号が聞こえて来る。
…可哀想に奴ら、一人食われ、二人食われで残りは幾らも居やしねぇ。
装甲トラックのユニッククレーンの陰には、あのエレベーターで、オレが足の骨をまっ二つにへし折ってやったスミスの姿が見えていた。
野郎は、しぶとく生き残って、ここまで来たらしいが、どうやらそろそろ年貢の納め時だ。
スミス先生は真っ青な顔で、弾の無くなった自動小銃を振り回していたが、自由の効かねぇ体じゃ分が悪いってモンよ。
…そのうちゾンビ軍団に、トラックの荷台から引き擦り降ろされて、蠢く死人どもの黒山に飲み込まれちまった。
次の瞬間、知った顔の日本人民国のキツネ目野郎が、荷台の端に顔を出し、スミスが落ちてゾンビの集中した辺りに向けて、容赦なく手榴弾を投げやがった。
激しい爆音と共に、吹き飛ばされた腐れ野郎の『ぶつ切り』破片が降り注ぐ…。
どうやら、南の国の回収部隊に残ったのは、トラックの運転席で引き攣った顔の腹黒伊東と、容赦なく自動小銃を振り回す南の国の指揮官に、ミサイルの向こう側で、派手に悲鳴を上げてる人民服の一等兵の三人だけよ。
とりあえず頭数じゃ、こっちの方が多くなったが、両軍合わせたって、そこらに集まったゾンビの数には敵わねぇ。
そんな状況に業を煮やしたのか、故障したトラックのエンジン始動を諦めた伊東のクソ野郎も、手持ちのピストルや手榴弾でゾンビどもを打ちのめし始めた。
爆音や乱射音が響くたび、ゾンビの数は減っていったが、向こうだって、無限に武器が続く訳じゃ無ぇ。
ゾンビ野郎に囲まれながら小銃弾を打ち尽くしちまって、狂ったらしい人民服の一等兵が、引きつった薄笑いを浮かべながら死人の海にダイブした。
奴らが手榴弾を使い尽くし、小銃の弾が切れた頃が、いよいよオレ達の出番だぜ。
人民服の兵隊が食われると、それでいよいよ伊東のクソ野郎も観念したらしい。
奴は、トラックの運転席を飛び出すと、荷台のキツネ目に向けてC国の言葉を叫びながら、ゾンビの少なそうな方向に逃げ出したのよ。
頃合いと見た桐山が、オレ達に指示しながら、リボルバー片手に廃車の陰を飛び出した。
伊東の野郎に飛び付こうとしていた、一匹のゾンビ野郎が桐山のマグナム弾食らって吹き飛んだ。
クソ野郎は、血走った目でオレ達を窺っていたが、走り寄ったオレ達に銃口を向けはしなかった。
…野郎も判っているんだ。この状況じゃ、敵も味方もねぇってことをよ…。
それでオレは、他のゾンビ野郎に食い付かれねぇように注意しながら、装甲トラックに近づいた。
荷台の上に居たはずの日本人民国の指揮官は、どうしたんだか姿が見えねぇ。
襲いかかってくる何匹かのゾンビ野郎を撃ち倒しながら、伊東の側に近づくと、トラックと廃車の隙間に懐かしいモンが転がってやがった。
そう、オレのお気に入り、トラックのフロントウインドウを横一文字に切り裂いた、玉鋼の日本刀よ…。
幾らか刃こぼれしているが、ゾンビ相手なら、まだまだ使えそうだ。
だからオレは、行く手を邪魔する一匹のゾンビ野郎を、左手のストレートパンチで吹き飛ばすと、日本刀を引っ掴んで思いっきり振り回したのよ。
刀の切れ味も、それほど鈍っちゃいねぇから、振り回した日本刀の切っ先で、何匹かの死人どものどす黒い体液を、そこら中に振り撒いてやった。
「逃げようとしやがったら、まっ二つにぶった切ってやる…」
オレは、ベレッタを構える腹黒伊東に向かって、怒鳴りつけながらそう言ったのよ。奴は、青い顔しながらも、肩を竦めて無抵抗の意志を示しやがった。
拳銃を構えた桐山と、怪我した足を引き摺る三上の野郎が二人して、そんな伊東のクソ野郎を押さえつけると、装甲トラックの荷台の上に這い上がった。
………!
奴らに続いてトラックの荷台に乗り込もうとしたオレは、響き渡る銃声に、焦って顔を上げたのよ。
ロン毛野郎の左の肩口から飛び散った鮮血が、オレの額に降りかかる。
…撃ったのは、伊東のクソ野郎じゃねぇ。…どこに隠れていやがったか、キツネ目をした南の国の指揮官よ。




