第10章3
…両翼が吹き飛んで、キャビンだけが辛うじて原型を留めているセスナは、燃料がゼロに近かったからだろう、炎上もせずに青い機体を制止させた。
オレは、ゾンビの足に刺さったまんまの、杉の若木を引き抜きながら、ボロボロになっちまったセスナの機体に走り寄った。
…中から、呻き声が聞こえてくる。
泣くような悲鳴を上げてやがるのは、中島のアホだ。
パイロット席のドアからヨロヨロと、額から血を流しながら転がり出たのは桐山だぜ。
セスナのフロントガラス越しにゃ、首を振る三上の姿も見えている。
どうやら全員無事らしいから、オレもひとまずホッとしたぜ…。
それでオレは、ロン毛の額に出来た傷の様子を見てやりながら、奴に声をかけたのよ。
「かすり傷だ。…大したことは無ぇ。…それより、急がねぇと奴らのトラックが、走り出しちまうぜ」
桐山の肩に手を貸しながら、オレは雑木林の斜面を、急ぎ足で登っていった。
三上や中島メガネ猿も、機体からどうにか脱出すると、呻き声を上げながら、オレ達の後に続いてきた。
軽い脳震盪でも起こしたのか、覚束ねぇ足取りの桐山だが、野郎はオレに「すまねぇ…」って言いながらも、腰のベルトから、リボルバーを引き抜くのだけは忘れなかった。
それでオレも、てめぇの九ミリピストルを抜き出すと、安全装置を外したのよ。
中島のM16や三上のサブマシンガンも、タマ切れだろうから、手持ちの武器は四丁の銀玉鉄砲しか無ぇンだよ。
ゾンビの大群に囲まれたら一溜まりも有りゃしねぇが、こうなったら『生きて帰ろう』なんて、これっぽっちも思っちゃいねぇ。
せめて、腹黒伊東や南の国の兵隊を『イヤ』と言うほどぶん殴ってやりゃあ、気も晴れるってモンだぜ。
それでオレたちは、薙ぎ倒された杉の木に、軽飛行機の部品が散らばる雑木林の斜面を這い上がって、アスファルトの側道に走り出た。
高さ三メートルほどの防音壁に遮られた高速道路の内側じゃ、C国の言葉で怒鳴り合う声が響いてる。
そのうち、何発かの小銃音も聞こえてきたが、そいつはどうやらオレたちに向けられたものじゃなく、高速道路を迫り来る死人を狙ったものらしい。
銃声が響き渡る高速道路の内側は、防音のために設置されたコンクリートの壁に遮られて、詳しい状況は判らねぇ。
何とかして、高さ三メートル程の壁を越えなきゃならねぇが、あっちこっち傷だらけのオレ達じゃ、どうやったって無理な話よ…。
でもよ…。周りを見回したら、五十メートルほど先に、防音壁を突き破って大破した、大型トラックの残骸が見えてるじゃねぇか。
あそこからなら、どうやら中に入れそうよ。
それでオレ達は、痛む体にムチ打ってトラックの残骸に走り寄った。
ボロボロのゾンビ野郎が一匹、こっちの臭いを嗅ぎ付けたのか、赤錆トラックの陰からフラフラと現れやがったが、ロン毛野郎のリボルバーから放たれた、357のマグナム弾がすぐに始末をつけてくれた。
さすが、情報機関の工作員。…怪我しちゃいても、射撃の腕は鈍らねぇ。
雑草の生い茂った土手の斜面に足を取られながら這い登って行くと、更にもう一匹、ゾンビ野郎が現れやがった。
泥やホコリで薄汚れたボロボロゾンビは、焼け爛れたトラックのホイールと、破壊されたコンクリートの防音壁の隙間を、獣みてぇに四つん這いで、這い出して来ようとしやがった。
そんな死人の行動に、もう慣れっこになっちまったオレは、ベレッタのピストルで、ゾンビの額を打ち抜こうとした三上の野郎を制して、てめぇのワークブーツの爪先で、そいつを思いっきり蹴り上げてやったのよ。
ゾンビパワーを秘めた、オレの右足のキックは、腐れ野郎の喉仏に吸い込まれ、首の骨をへし折られたゾンビ野郎の頭が、サッカーボールみてぇに宙を舞って、コンクリートの壁の向こうに消えていった。
それからオレは、首から下のゾンビの死体を壁の隙間から引っ張り出すと、向こう側の状況を確認した。
幸い他に、近くに動く死体の姿は見えねぇ。
オレ達は、ロン毛野郎を先頭に、素早くその隙間をくぐり抜けると、鉄屑に変わりかけてる廃車の群れに身を潜めながら、銃声が響く辺りを窺った…。
ゾンビ軍団に取り囲まれた、南の国の装甲トラックの荷台から、人民服着た兵隊が小銃を乱射してやがる。
運転席の吹き飛ばされたフロントウインドウの向こう側じゃ、血走った目を見開いて、トラックのセルモーターを操作する、伊東のクソ野郎の顔も見えてたが、どこかが故障したらしくセルの音は聞こえちゃこねぇ。




