↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/68

馬車酔いと不思議なポーチ

 スレイプニルが牽引する馬車のスピードは通常の馬が引く馬車とは隔絶した速さだ。それには素直に感心するエイトだったが、それも最初だけにすぎなかった。

 何故なら現在のエイトは、顔色が土のような色になっており、文字通り陰々滅々としているのだから。理由は単純、馬車の揺れに酔った……それだけだ。


(気持ち悪いぃぃぃ)


 スレイプニルという珍しい馬に興奮していたのが不味かったのか、はたまた初めて乗った馬車に興奮していたのが理由か………いやいや、どちらにしても興奮していたのだから両方が悪かったのだろうか? そんな風に内心で後悔しながら反省しているエイトとは裏腹に、エイト以外の馬車に乗る面々は朗らかな雰囲気で会話を楽しんでいた。


(何故、俺だけが酔ってるんだ……もう帰りたい。そして、どうせ帰るならブラント村に行って温泉に浸かりたい………うぅうぅぅ)


 怨めしそうに一瞬だけ、笑顔を見せる面々を見た後、脳裏に浮かべるのはモーガン領にあるブラント村だった。

 極上の天然温泉ならば、今のエイトの疲弊した精神を確実に癒してくれるだろう。しかし、現在は未開地探索という依頼を受けている真っ最中なのだから、当然帰宅が許される筈もない。

 未だ未開地に入ってもいない現状で、一人だけ既に疲労困憊の様相を見せるエイト。出発してから三時間という短い間で、最早死に体となっていた。


 そんなエイトの異変に気が付かない面々………と言うよりも、エイトのことを深く知る訳ではない為、もともと口数が少ないのだろうと思われていたりするのだった。それ故に、エイトに気を使って話し掛けないようにしているらしい。とは言え、アルダは積極的に話し掛けようと試みているのだが、エイトに視線を向ける度にエイダが阻止していた。


(休憩とかないんですかね? もしかして、俺に対する嫌がらせ? あるいは、神が俺を苦しめたがっているのか?)


 酔って陰々滅々としているせいか被害妄想が強くなっているらしい。

 そんな風に一人鬱々とした雰囲気を漂わせつつ更に時間は過ぎていき、夕刻になった頃、漸くエイトが待ちに待った休憩が訪れた。


 頻繁に旅人が野宿をしているらしく、場が整えられており夜営をするのに申し分がない。

 エイトは、馬車から降りているのにも関わらず、未だに体が揺られているかのような不快感に襲われるものの、確かに存在する硬い大地を慈しむように腰をおろした。

 一方他の面々は、長時間座っていたことで凝り固まった体を解すように手足を動かし、騎士団から派遣されている御者は馬の世話を手早く済ませている。そして、暫くすると各々が食事を摂る為に準備をし始めた。


「ボスコ、食材や水筒の諸々を出してくれる?」


「あぁ、分かった」


 エイダの頼みを耳にしたボスコは、腰に提げていたポーチから食材、水筒、鍋、食器といった物を次々と出していく。それを馬車酔いから快方したエイトが何気なく眺めていたのだが、どんどん出てくる物資に目を点にして驚いている。

 ボスコの持つポーチの大きさは、日本で発売されているゲームソフトが数本入る程度の大きさに過ぎない。なのに、そんな小さなポーチから次々と物が出てくる。エイトはその事実が理解出来ず困惑しているようだ。

 その目を点にして口を開けて固まっているエイトを目にしたエヴァが、不思議に思ったらしくエイトの傍に行き尋ねる。


「どうかされましたか?」


「……あれ見て驚かないの?」


 スレイプニルの時と同様に、ボスコのポーチから次々に出てくるという不可思議な現象に驚いているのはエイトのみだった。その証拠として、エヴァが納得したように頷くと、ボスコの持つポーチについて説明を始めた。


「あぁ、マジックアイテムのことですね。私も小さい頃は父上のマジックアイテムであるポーチに、何度も大きな物を入れたり出したりして遊んでいたのを思い出しますよ。

 でも、何故エイト殿が驚かれるのです? 見たところ、大きな手荷物を持って居られませんし、エイト殿もマジックアイテムのポーチを持っておられるのでは?」


 最初こそエイトが驚く理由に納得していたエヴァだったが、エイトが手荷物を持っていなかったことを思い出し、不思議そうに首を傾げる。


「いや、俺は持ってないよ。空間倉庫のギフトがあるから。

 それにしても、凄いマジックアイテムがあるんだね」


 デズモンドほどではないにしろ、優れた魔法使いが存在しているのだろう。そんな風に内心で考えながら、自身のギフトのことを伝えるエイト。

 その言葉を耳にしたエヴァは、今度は自身が驚き目を点にする番になった。

 それも当然だ。空間倉庫というギフトは、ギフトの中でも最も希少なものの一つと言われているのだから。


「え、エイト殿はギフト持ちだったんですか!? しかも、空間倉庫のギフトを!?」


 ギフト持ちは別に珍しくはないのだが、エイトのように優れた魔法使いが都合よくギフトを持っていることに驚いたらしく、自身でも気が付かない内に少し大きな声を出してしまうエヴァ。

 そんなエヴァの声に反応して全員の視線がエイトに集まる。


「そう言えば、魔法のことについて質問されるばかりで、ギフトのことは説明してなかったね」


 言葉で説明するより見せた方が早いと判断したエイトは、ギフトの空間倉庫を発動させる。すると、突如としてエイトの前面の空間が歪み出した。

 エイトはその歪み出した空間に右手を突っ込み、中から未だに湯気が立つ串焼きを数本取り出した。

 その一連の流れを見ていたエヴァを含む全員が驚きにより更に目を点にする。

 その反応を気にした素振りを見せず、エイトは取り出した串焼きを口に含む。


「ん……ん……旨い。エヴァさんも食べる?」


「へ? あ…はい。い、頂きます」


 困惑しているエヴァは、困惑したその表情そのままに、手渡された串焼きを口に運ぶ。


「美味しい、です?」


 何故か知らないが、困惑したままの表情を浮かべるエヴァは、串焼きの感想を疑問げに口にする。空間倉庫のギフトを初めて目にした為、まだ混乱した状態から復帰出来てないらしい。

 そんなエヴァとは違い、空間倉庫のギフトを目にしたことがあったらしい静寂の剣のメンバー三人は、驚いてはいるが余裕はあるようで、笑顔を見せつつエイトに近寄る。


「お前、なかなか良いギフトを持ってるな」


「そうね。エイトが空間倉庫を持ってるなら、ワタシたちも出来立ての料理を買ってエイトに持っていて貰えば良かったわね」


「ふむ、それも一理あるな。勿論、エイトにはその分の料金を支払った上での話しだがな。

 それにしても、エイトには驚かされるばかりだ。そのギフトに……そして、何よりも驚くのは素晴らしい鎧兜のゴーレムだ」


 三人が口々にする感想に、騎士団の男性二人であるクーパーとガルシアも同意するように頷く。二人はエイトのゴーレムをまだ実際に目にした訳ではないが、事前にアーロンやエヴァから聞いていたのだろう。


「何で? マジックアイテムのポーチに入れれば良いんじゃないの?」


 エイトは三人の話しを聞いて、マジックアイテムのポーチに出来立ての料理を入れないことを不思議に思ったらしく、小首を傾げてエイダに尋ねる。

 しかし、質問された側のエイダも、何故常識でもあるマジックアイテムのポーチの欠点を知らないのかと、不思議そうに首を傾げた。


「もしかして、知らないの?」


「……何が?」


 エルダが知らないのかと尋ねるが、無論エイトが知るはずもなく、何がなにやら分からず困ったように眉根を寄せるエイト。

 その表情がツボに入ったのか、エルダはニヤニヤしつつエイトの頬を両手でガシッと掴む。そして、若干乱暴に撫で回しながら口を開いた。


「その困った顔が可愛いわ。ワタシの弟にしたいぐらい」


「……はにゃして…」


「ポーチのことを教えてあげるから、少し我慢しててねぇ」


 エイトにとっては羞恥プレイもいいところなのだが、マジックアイテムであるポーチの説明の為に我慢しろと言われれば逆らえないようで、自分の頬を蹂躙されることを諦めたらしく、目を瞑って大人しくされるがままになっている。

 そんなエイトを苦笑して眺める面々の中、エイダが説明を始めた。


「よろしい。それでは、良く聞くように。

 エイトが持つ空間倉庫のギフトは、エイトの魔力量に比例して収納出来る物量が決まるでしょ? で・も、マジックアイテムのポーチは、あらかじめ入る量が決まってるの。だいたいベッド一台に乗せられる程度ってところね。

 そして、空間倉庫内には時間という概念が存在しないから、中に入れておけば食料は何時までも腐ることがない。入れた時のまま出てくる訳ね。………けれど、ポーチの方は中に入れてあっても時間という概念が存在するから、当然時間が経過すれば腐っちゃうのよ。

 分かったかしら?」


「……はかった。らから、はにゃして…」


「…………」


 説明が終わり、エイトは離せと頼むのだが………エイダは無言でエイトの頬を蹂躙し続ける。

 エイダとアルダの双子に、他に兄弟が居るのかは謎だが、エイダが弟属性とでも呼べるものを持っているのは間違いない事実だろう。


 ともあれ、エイトはこのまま蹂躙されるのを良しとはせず、果敢に抵抗を試みる。しかし、流石は高ランク冒険者だ。とても簡単には引き剥がせない。

 このままこの奇妙な状況が続くのか、そんな風に内心でエイトが考えた時、救世主が現れた。その人物は意外にもアルダだった。

 アルダは無言でエイダの後頭部を叩く………しかも、二連打で。

 パパンッという小気味良い音が響き、次いでエイダの悲鳴が響き渡った。


「痛っ!? ちょっと、何するのよ!?」


「それは私のセリフだ。エイトが困っているだろう」


 朝とは正反対になった双子の立ち位置。それが面白いのか、ボスコは笑みを浮かべながら笑い声を押し殺す。

 騎士団の三人も同様の反応を見せている。


 暫くボケとツッコミが逆転した双子漫才を楽しんだ面々は、夕食を摂ると簡易テントを張って交代で休息することになった。

 エイトは、明日は絶対に馬車の揺れにはヤられない。そう内心で誓いを立てると、深い眠りにつくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。