会議
丸い机を囲むように座るエイト、静寂の剣のメンバー三人、そしてアーロンとエヴァ。
メイドが紅茶を淹れて全員の前に置き、そのメイドが室内から出て行ったのを機に、アーロンが口を開いた。
「では、今回の未開地探索についての打ち合わせを始めるとしよう。
先ずは……顔見知りみたいだが、改めて両者に紹介しておこう。ランクAの冒険者であるボスコ、双子で金髪の方がエイダ、銀髪の方がアルダで、それぞれランクBになる。彼ら三人で静寂の剣という冒険者パーティーを組んでいる。
そして、ランクDのエイト。神話や伝承で登場する鋼鉄製のゴーレム魔法を操る稀有な魔術師だ。コイツのことは絶対に口外するなよ。……口外すれば……」
一旦言葉を途切られると、アーロンは自身の首を人差し指と中指の二本でスッと横切れさせた。静寂の剣のメンバー三人に、言外に殺すと告げたのだ。
自分の今は亡き恩人でもあるアイザックの息子達を助けてくれたエイトのことを、アーロンは大袈裟ではなく家族のように思っているのだろう。だからこそ、こんな脅しのようなことをしたのかもしれない。
ともあれ、口外した場合のことを明確に示された三人は、意外にも別段動揺した素振りを見せなかった。依頼主から依頼に関係する情報の秘匿に、冒険者では守秘義務とでも言えることがあるのだろう。それ故、こう言った類いのことは珍しくないのかもしれない。
「その辺りは問題ない。折角出てきた骨のある新人冒険者を、潰すようなことはしないからな」
「そうよ。安心してちょうだい」
「当然だ。口外すれば、あの鎧兜の製作方法が分からなくなってしまうかもしれない。それは断じて許さんからな! もし、エイトの情報を漏らす奴が居たなら、私が排除してやる!」
ボスコとエイダが緩やかな口調でそう告げるのだが、最後に発言したアルダは少々剣呑なことを言ってのけた。
その発言を耳にした全員が、庭園の時と同様に口元を引きつらせる。
(製作方法って……魔法だから、特に鍛治の知識がある訳じゃないんだけど……)
困ったように頭を抱えるエイトに、ギラギラとした視線を向けて獲物を捕らえようとする肉食獣のような目付きで見詰めるアルダ。
そのせいで、益々打ち合わせの場が混沌としたものへと変わっていく。
それを理解しているのか、静寂の剣のメンバーとして責任を取るかのようにエイダがアルダの後頭部を勢い良く叩いた。
パンっという小気味良い音が室内に響き渡った。
無論、叩かれた本人は黙ってない。叩いた張本人に鋭い視線を向け反論し出した。
「ちょっ、なんで叩く!?」
呆れた様子を隠しもせず、深い溜め息を吐きながらエイダが口を開く。
「あんたが変なことを言うからでしょう?」
「ど・こ・が、変なことだ! 私は彼を大事に思うからこそ、不遜な輩を排除すると言っているのだぞ!!」
まるで、自分の発言や行いは全てがジハードだと言わんばかりだ。しかし、アルダの考えをブッチャケてしまうと、どこぞの馬鹿な貴族にエイトの鎧兜の製法が独占されることを忌避しているだけに違いない。
それをオブラートに包んで口に出された発言なのだが、それに気付かないエイダではない。何せ、双子として生を受け、長い間を一緒に過ごしてきたのだ。当然アルダの考えを見透かしている。
「最終的にはここで恩を売って、自分専用の鎧兜を制作して貰おうと考えているんでしょう?」
「な、何を、い、言っているのか……わ、私には、さっぱりだな」
核心をつくエイダの問に、アルダはしどろもどろに言い返した。その様子が、エイダの発言の証左なのは言うまでもないだろう。
ボスコとエイダは、お互いに視線を合わせるとガックリと項垂れた。この鎧兜に執着する癖さえなければ、そう考えながら………。
そんな混沌とし始めた場を切り裂くように、アーロンが咳払いをして打ち合わせを再開させる。
「取り敢えず、未開地探索は二週間を予定している。その為の食事などは各自で用意しておいてくれ。装備についても同様だな。
それから、俺が有している騎士団からは、娘のエヴァと実力者を二人、計三人を同行させる手筈になっておる。どいつも俺が認める強者だ」
騎士団から三人、そして冒険者組が四人。合計七人で未開地探索を行うということだろう。
エイトはその事実に頷きながら、打ち合わせの場に居る全員に視線を向けてここまで理解しているかを確認しているアーロンに了解を示す。
アーロンは、全ての人間が了承していることを確認すると、今回の未開地探索に関する肝を説明し始めた。
「未開地で、何か異常が発生しているようだ。ここに集って貰った者には、それを調査して欲しい。
だがしかし、未開地は非常に危険な場所だ。故にエイトには、何か不測の事態が発生した場合、多数のゴーレムでその場の撹乱をしつつ、全員で脱出することに注意をはらっておいてくれ。頼んだぞ」
「成る程、確かに強力な魔物相手から逃亡するのには最適かもな。
分かった、危なくなった時は任せてくれ」
自分が戦闘での戦力ではなく、逃亡する際の手段として考えられていることに腹は一切たたないらしく、エイトは素直に頷いた。エヴァを除いたこの場に居る人間で、自分が一番弱いことを理解しているからこそ、素直に了承したのだろう。
静寂の剣のメンバーの実力をエイトは知らないが、自分が彼らに劣っているのは肌で感じているらしい。
「うむ、任せたぞ。
それはそうと、今回の異常の原因が判明せずとも、危険に陥った場合、あるいは二週間が経過した場合は絶対に帰って来いよ」
未開地には何の情報もない魔物が多数存在する。しかも、高ランクの魔物が、だ。
それ故、アーロンは必要以上に言い聞かせるように全員に視線を向けながら釘をさすように言いつけた。
人外の実力を持つアーロンでさえ、未開地は危険な場所なのだ。だからこその発言である。
「大丈夫だ。冒険者ってのは、引き際を心得ているもんだよ。
アーロンの旦那なら、知ってるだろ?」
「まぁな。だが、念に念を、と言うだろ?」
今のボスコとアーロンのやり取りの意味が分からないエイトは、脳内に疑問符を浮かべている。
エイトは知らないことなのだが、実はアーロンがまだ若い頃は、冒険者として活動していた。しかも、ただの冒険者ではない。冒険者として最高ランクに指定されているランクSとしてだ。
当時のアーロンは、ヴァイスハイト国内だけではなく、隣国にも異名を轟かせるほどの絶対強者として知られていた。その時の異名は、今では伝説として冒険者達に広く知られている。
"ブラッドレイン“、それがアーロンの異名だ。
アーロンの行く場所その先々で、血の雨が降ることからそう呼ばれるようになった。
そんな過去を持つアーロンが、不敵な笑みを浮かべて言葉を続ける。
「準備には時間が掛かるだろう。……三日後の早朝、ブリッツの正門に集合してくれ。
全員が集まり次第、出発だ」
「「「了解」」」
アーロンの言葉に、エイト、ボスコ、エイダの三人が揃って返答した。
最後の一人の冒険者は………
「で、では、私はゴーレムを……もう一度見せて貰おうかな」
まるで乙女のように、モジモジとした様子で提案するアルダ。
エイトは未開地探索の話しで忘れていたらしく、アルダに視線を向けながら苦笑する。
「あー……いいよ。でも、外に場所を移させてくれないかな? 流石に、ゴーレムゴライアスは大きいから」
「あぁ、勿論だ!」
エイトの外見は子供なのだが、何故か不思議なことに、この場に限ってはエイトが大人に見えてしまう。そして、エイトが大人に見えるなら、アルダが必然的に子供に見えることになる。
そんな両者の立場が逆転している中、二人は外に出た。
この日はアルダが満足するまでゴーレムを錬成していた為、エイトは物資の調達は次の日にするしかなかった。
ちなみに、夕刻が訪れ解散することになっても、アルダはエイトの袖を掴み、中々離さなかったのは言うまでもないだろう。
二つの太陽に照らされる中、エイトはブリッツの街を歩いていた。
ブリッツの街のメインストリートには、沢山の店が出店されており、無数の人々で賑わっている。
エイトは、その店を端から端まで顔を出して食料を買い込んでいく。無論、買い込んだ食料は空間倉庫に入れるだけでいい。何せ、空間倉庫内は時間という概念が存在しないため、温かい食料は何時までも温かいままであり、冷たい食料や飲み物は何時までも冷たいからだ。しかも、腐ることもないのだ。
そんな風にエイトが大量の食料を買い込んでいると、当然店主達は放っておく訳がなく、「自分の店の食事は最高だから試してくれ!」そう告げつつ幾つもの調理された商品を差し出してきた。
その無数の料理を少しずつ口に含み、味を吟味すると、値段を気にせずバンバン買っていくエイト。
依頼を受けた数は少ないが、魔物の素材を短期間に大量に冒険者ギルドに買い取って貰っているだけに、エイトの懐事情は相当潤っていた。その辺のランクDの冒険者とは隔絶した稼ぎであるのは間違いない。
店主達は、沢山の料理を買い込んでくれるエイトを見て、ここぞとばかりに自慢の料理を勧める。
何時の間にかエイトを囲むように、店主達の料理の腕を競う戦いが勃発していた。
(旨い! これもあれもそれも、どれもが旨い!)
腕を競い始めた店主達とは裏腹に、エイトは暢気に旨い料理に囲まれ御満悦の様子だ。
そんなこんなで、あっという間に必要分の食料………いや、明らかに必要分以上の食料を買い込んだエイトは、膨れた腹を撫でながら宿屋へと帰って行った。
そして翌日、何故か再度ブリッツの街のメインストリートで無数の食料を買い込むエイト。
結局、ブリッツのメインストリートでは、三日間連続で沢山の食料を買い込むエイトと、そんなエイトを囲んで沢山の店主達が腕を競う戦いが繰り広げられることになった。




