人外の三人、再度の登場
模擬戦を終えた後、エイトはアーロンの屋敷にある豪勢な浴室で体を清め、エイトの為に用意された一室で疲れた心身を癒すように深い眠りについた。
その翌日、エイトは嫌になるほどの質問攻めを受けることになった。誰であろうアーロンの娘のエヴァからだ。
もう既に当初のような視線を向けられることは無くなっていたが、今度は憧れのサッカー選手にまとわりつく子供ように、朝も早くからエヴァがエイトに質問しているのだ。
やれ何処の国の出身なのか、やれ魔法の師は誰なのか、そんな風に延々と。
朝食を摂りつつ困ったような表情でアーロンに視線を向けるのだが、父親であるアーロンは気にした素振りも見せず………と言うより、敢えて無視してるようだ。
(自分の娘だろ。何とかしろよ!)
澄まし顔で口に含んだ物を噛み続けるアーロンは、自分の腹をポンッと叩いて、もう満腹だと言外に示す。そして、そのまま席を立ち部屋を出て行こうとする。
異常にテンションの高いエヴァを押し付けて出て行こうとするアーロンを見て、そうはさせないとエイトが口を開く。
「おい、俺はもう帰ってもいいよな?」
模擬戦も済んだし、何より未開地探索も協力することを了解したのだから、ここに居る必要はない。であれば、この質問攻めから何とか逃れたいエイトとしては、自身が“渡り人"であることがバレるのは困る為、逸早く離脱したいと考えているのだろう。
そんなエイトの内心からの叫びが、先の一言だったのだが……………
「宿に戻られるのならお送りします」
即座に、隣に座るエヴァから提案が出され、エイトの望みは容易く断ち切られた。
「くははは! そいつは強い者が好きだからな。相手をしていてくれ。
もうすぐ雇った冒険者が来る手筈になっておる。昨日エイトが寝た後で使いを出したからな。
くっくっくっ、この屋敷で寛いでいてくれ。もう少しの辛抱だ」
笑いながら部屋を出て行くアーロンの背中を、エイトは苦々しく見送る。
「エイト殿の錬成したゴーレムと戦ってみたいのですが………流石に、あのゴーレムゴライアスというのは無理ですが、最初に錬成したゴーレムカヴァリエは練習相手に丁度良いんです。
迷惑でなければ、お願い出来ませんか?」
父親であるアーロンが居なくなるなり、エヴァはエイトへと詰め寄るように、お願いと言う名の取引を持ち掛ける。
勿論、それはエイトからしたらそう感じるだけであり、エヴァとしては純粋に頼んでいるだけでしかない。しかし、頼まれている当人には、練習相手をしてくれるなら質問攻めを辞めると言ってるように感じてしまうらしい。
エイトは口元を引きつかせながら、頷くことしか出来なかった。
「ありがとうございます! では、庭に移動しましょう!」
待ちきれないといった感じで、キラキラとした瞳を見せながらそう告げると、足早に庭に移動するエヴァ。ちなみに庭と言っているが、庭園と言った方が正しいレベルの美しさであり広さだ。
そんな庭に出たエイトは、先ずはエヴァの腕がどれほどなのか確かめる為、様子見として青銅製のゴーレムカヴァリエを一体だけ錬成した。
「おぉ、美しさすらある見事なゴーレムです! それに、今みたいに冷静に見ていると分かることですが、変わった形状の鎧兜ですね!」
「あー……自分なりに創意工夫をしたので、見たことがないのは当然かと……」
エヴァのことをウザがってはいたものの、やはり素直に自分のゴーレムを誉められるのは嬉しいらしく、若干気恥ずかしそうに頬を掻くエイト。
ちなみに、彼女が指摘する鎧兜の変わっている箇所とは………現在のヴァイスハイト国だけでなく、エルドラド全域で言えることなのだが、鎧は関節部分の可動域が非常に浅いことが言える。しかも、胴鎧に至っては背面と前面に大きな二枚の金属板で覆うだけの形状であり、前屈みになったり背を反らしたり出来ない。
エイトは、それではゴーレムの動きが人間に近付けることが出来なくなる為、何枚もの金属板で連結した胴鎧を作り上げたのだ。それによって、ゴーレムの動きが人間に近くなったのは言うまでもない。
勿論、それだけではない。普通の全身鎧とは違って、敵の剣撃や打撃の衝撃を受け流す構造になっており、既存の全身鎧とは一線を画す。
かつて、どこぞの高ランク冒険者で鎧兜マニアの女性が食いついたのも頷けるほどの高性能なゴーレムなのだ。
そんな自分が錬成した鎧兜の性能を嬉しさのあまり説明しても良いかな、などと考えてしまうエイト。自身が"渡り人“であることは秘匿することに集中するが、魔法のことがバレている相手には話しても問題が無いと考えているようだ。
それに昨日エイトが寝た後で、アーロンはエヴァに、エイトに関することは人前で喋るなと伝えている。それ故、魔法に関することは喋ってしまっても構わないのだ。
「鎧兜は既存の物を参考にしてます。ですが、構造上の欠陥などがゴーレムでは死活問題になりますので、色々と手を加えてます」
「成る程、その結果がこのゴーレムってことですね。
……それはそうと、父上と話している時と同じ口調で構いませんよ。と言うより、私はそちらの方が好きです」
錬成されているゴーレムカヴァリエから一切目を離さず、エヴァはエイトへと話し続けている。新しい物好きなのか、はたまた魔法が珍しいのか、それは判断つかないが、かなり夢中になっているのは間違いない。
そんなある種の穏やかな雰囲気が漂う中、エヴァやエイトとは違う第三者の声が、エイトの真後ろから掛けられた。
「道化の仮面を被る魔術師が、君のような可愛い顔をした子供だったとは……驚きだ」
「っ!?」
自身とエヴァを除くと、錬成したゴーレムカヴァリエしか庭園には存在しなかった筈だ。そんな言葉を内心で叫びながら、背後へと視線を向けるエイト。
そこには謎の声の主だけではなく、他にも二人の人物が居た。
「……あんた達は、あの時の!?」
「お久しぶりね、道化の魔術師くん。ワタシたちを覚えててくれて嬉しいわ」
「はっはっはっ! あの時より随分と強くなったようだな!」
短い茶髪の筋骨隆々の男性が一人。次いで、金髪と銀髪の美しい双子の女性。
エイトには彼らと以前に出会ったことがあった。“弱者の森"と呼ばれる森の中で。
困惑しているエイトを無視して、双子の一人である銀髪のアルダが、錬成されてあるゴーレムカヴァリエへと近付くと感嘆の声を漏らす。
「やはり美しい……何度見ても。この機能美も、この材質も、どれをとっても美しい」
エイトは突然現れた三人に戸惑いながら、エヴァへと視線を向けるのだが、エヴァは別段警戒したような様子を見せていなかった。寧ろ、面識があるのか筋骨隆々のボスコへと軽く会釈している。
それを見て益々戸惑うエイトだったが、そこにアーロンが現れることで多少冷静になれたようだ。ボスコ達のような明らかな人外に囲まれる状況で、同じく人外であるアーロンが現れたからこそ、エイトは冷静になれたらしい。
「なんだ、お前たちは面識があったのか?」
「前にオークキングやゴブリンキングが一度に弱者の森に出現した時にな。俺からしたら、アーロンの旦那がコイツと知り合いだったのが驚いたよ」
肩を竦めながらそう告げるボスコは、アーロンから視線をエイトへと移す。
それに釣られてアーロンもエイトへと視線を移し、不敵な笑みを浮かべながら口を開く。
「エイト、コイツらが先に言った冒険者たちだ。
良かったら他のゴーレムを見せてやってくれ。連携の為にも、どれほどの戦力を持っているのか知って貰っとく方が良いだろうからな」
「…………大丈夫なのか?」
アーロンの提案に、エイトは顔を顰めて疑問を口にする。
以前に会ってはいるものの、ほぼ初対面と言ってもいい間柄である。であれば、彼らが信用出来るのかどうか心配なのだろう。
そんなエイトの内心の考えを感じ取ったアーロンは、一度だけ大きく頷くことで大丈夫だと示す。
「………分かった。あんたを信用するよ」
エイトは目を瞑って大きく手を広げて無詠唱でゴーレムシュツルム一体、ゴーレムゴライアス一体を錬成させる。
静寂の剣のメンバーの二人、ボスコとエイダは、神話や伝承でしか登場しない鋼鉄製のゴーレムを見て驚きの声を上げた。そして、それ以上の反応を見せた者が一人………
「なんと!? これは鋼鉄製ではないか!? 素晴らしい!!」
錬成されたばかりのゴーレムシュツルムとゴーレムゴライアスに飛び付き、力一杯に抱き締めるアルダ。
今まで驚かれることが多かった為に、ボスコとエイダの反応には特に何も感じなかったエイトだったが、アルダの反応には驚きを通り越して引いてしまう。
(…………何これ? ちょっと気持ち悪いんですけど……)
嫌な汗が頬を伝うのを感じながら、内心でアルダの現状の感想を呟く。
確かにエイトの感想通り、傍目から見ているとゴーレムに抱き付くアルダは気持ち悪い。奇人変人の類いにしか見えないからだ。
そんなアルダを見たボスコとエイダも、鋼鉄製のゴーレムを見た驚きから我に返り、呆れた表情を見せながら二人の手がアルダの目と口を覆って引き離した。
「……ちょっ………何を……するんだ……離せ……見えない……じゃないか……」
「はいはい、落ち着きましょうね。先ずは仕事の話しが済んでからでしょう? 後で見せて貰えば良いじゃない」
「そうそう、それに未開地探索してたら嫌でも目にすることになるだろうが。今は仕事が先だぞ」
「……約束……だぞ……後で……」
「はいはい、後でね」
ゴーレムから5mほどアルダを引き離すことに成功した二人は、再度大きな溜め息を吐いて苦笑しつつエイトに視線を向ける。
「打ち合わせが終わったら、悪いんだが……もう一度アルダにゴーレムを見せてやってくれ。コイツ、鎧兜マニアでな」
エイトは口元を引きつらせつつ頷く。
「ゴメンね。ワタシのお気に入りのライスワインを後で上げるわ」
エイトは再度口元を引きつらせた状態で頷いた………と言うより、ジタバタしているアルダを見ていると、それ以外の反応が出来なかったようだ。
流石のアーロンも、静寂の剣のメンバーのこんな醜態を見たことが無かったようで、エイトと同様に口元を引きつらせつつ、打ち合わせの為に場所を移動し始めた。




