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『泥だらけのダイヤモンド』  作者: 智利


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15/15

この地面の上で、永遠に(最終話)


 一年後。

 成田空港の滑走路が見える丘に、小さな、けれど活気にあふれた『山本・鈴川金属工芸』の工房があった。

 マリは、結局、華やかな空の世界へは戻らなかった。

 彼女が選んだのは、地上で哲郎の「言葉」を翻訳し、彼の技術を世界に届けるマネージャーとしての道だった。制服を脱ぎ、作業着に身を包んだ彼女の顔には、かつての「作り物の微笑」ではなく、芯から溢れ出すような輝きがあった。

 「マリさん、次のフライトパーツの検品、終わりました!」

 「ありがとう、哲郎さん。でも、左の角の研磨、あと一ミリ甘いわよ」

 「ひえっ、厳しいなあ……」

 二人のやり取りに、若い弟子たちが笑い声を上げる。

 哲郎の右手は、完全には元に戻っていない。けれど、その不自由さが、かえって彼にしか出せない「味」を生んでいた。

 夕暮れ時、二人は工房の裏手で、離陸していく巨大な旅客機を見上げていた。

 銀色の翼が夕陽を浴びて、オレンジ色に輝いている。

 「綺麗ね……」

 「ええ。でも、あの翼を支えているのは、地面の上で汗を流している連中の意地ですから」

 哲郎は、マリの肩をそっと抱き寄せた。

 「哲郎さん。私、あなたと出会って、三流になる勇気をもらった気がするわ」

 「三流? 何を言ってるんですか。僕にとってのマリさんは、最初から今まで、ずっと世界一の一流ですよ」

 哲郎は相変わらず、そう言っただけで鼻を真っ赤にして泣き始めた。

 マリは笑って、自分のハンカチで彼の顔を拭いてやる。

 「泣かないでよ、社長。……ほら、明日は早いんだから。帰って、温かい豚汁を作りましょう」

 「はい! マリさん!」

 二人は手をつなぎ、一歩ずつ、踏みしめるように地面を歩いていく。

 

 空を飛ぶことよりも、遠くへ行くことよりも。

 泥にまみれ、火に焼かれ、それでも隣にいる人の手を離さないこと。

 

 鉄のように熱く、鋼のように固く結ばれた二人の物語は、今日もこの地上のどこかで、小さな火花を散らしながら続いている。

(完)

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