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フランソワとワタル新世界 第二部 ~なせばなる、の旗のもとに~  作者: リレイ飛鳥


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第13章 陽気な緊迫

「さてどこへ行く……」


 とりあえず火事の現場から数百メートル離れたら、運転席のスグルが言った。

 その問いかけに呼応するかの如くある映像が俺の頭に浮かんだ。

 道場で、剣道着姿で脇差を構えたハズキ剣士が暴漢と戦っているシーンだ。


「あぶない!」 

 と、思わず叫んでしまった。


「な、なに!」 

 と、スグルは驚いて、ブレーキを踏む。


「行かなければ!」

 と、俺は怒鳴る。


「どこへ?」

 と、スグルも怒鳴り返す。


「居合の師範がいる家に」

 俺はシートから離れ、運転席の後ろまで行く。


「場所は分かるのか?」

 スグルは車を取肩に止めて、俺に訊く。


「知らない」

「何が見えたんだ?」

「ハズキさんが危機なんだ」


 それだけ聞いただけで、スグルは理解した。だけど、どこへ行けばいいのかわからない。


「何とかわからないかな……」

 と言ったら、タクロウが、

「見つけられるよ」

 と、眠たそうな表情で言う。


「できるのか?」

 スグルが切羽詰まったように聞く。


「ああ……」

 と、タクロウ。続けて、

「誰かを助けるんだよね」

 とタクロウは訊いてくる。


「そう」

 と、俺が答えた。


「じゃあ、特徴を言って」

 タクロウは俺に言う。


「お前のパソコンで見つけられるのか?」

 と、スグルが聞くと

「ええ? これで十分、しかも速い」

 と、タクロウはスマホを示してみせた。


「さあ、特徴を言って」

 と、タクロウが言うので、

「名前はタネクラハズキ、中学二年生、居合を習っている」

 と、俺は答えた。


「ああ、これ」

 タクロウがすぐにスマホの画像を俺に見せたくれた。

 ばっちり、剣道着姿のハズキ剣士が映っている。凛とした美少女剣士だ。


「こ、これ!」

「かわいい子だね……可愛すぎる剣士って」

 と、タクロウが嬉しそうに呟くと、

 スグルが「いいから、教えろ」と急かす。


「ええっと……居合の会の師範の孫娘だと……」

 と、検索し、「師範の携帯は……」と言って、俺にスマホを渡した。


 コールが鳴っている。師範の携帯を呼び出しているのだ。それに驚いている暇はない。コールが鳴っている。


 「はやく……」

 と、思わずつぶやいて知った。


 ひょっとして、間に合わないか、と焦りが出てくる。

 ようやく、「はい」、というぼんやりした声が聞こえた。


「師範ですか?」

「は、はい……」

 と、相手の戸惑いの声。


「私は夕方お会いした、フランソワです」

「ああ、どうも、先ほどはありがとうございました」

 と、いう陽気な声が返ってくる。ちょっと安心する。


「いや~あれから大変でしてね、ちょっと前に警察から戻ってきたところです。事情徴収っていうやつです。人生初ですね」


 訊かれもしないのに、師範は楽しそうに話してくる。

 というか、浮かれているようにも感じられる。それだけ今日の経験が大変だったということなのだろう。

 しかも、こちらが話す前に、

「大丈夫です。あなたたちのことは何も言いませんでしたから」

 と、それを心配してかけてきたのかと勘違いしたようで、そう答えてきた。


「ハズキさんは?」

 俺は急きこんで訊いた。


「ああ、あの子は、よほど嬉しかったんですね。刀をもらって。まだ道場で、居合の稽古をしております」

 と、師範は得意そうに答えた。


「すぐに道場へ行ってください!」

 俺は強く言った。


「道場へ?」

 俺の剣幕に押されたのか、動揺が伝わってくる。


「そうです。急いでください!」

 畳みかける様に強く言った。


「わかりました」

 と、言って切れそうになったので、

「刀を持って! 真剣です!」

 と、俺は続けた。


 すると、「わかった」と真剣そうに言って、電話は切れた。


「場所は!」

 俺も興奮しているので、車内であるにもかかわらず、タクロウに怒鳴ってしまった。


 するとタクロウは、

「貸してください」

 と、怯えたように言い、俺からスマホを引き取り、操作して、地図を示した。

 そこには、自宅と並んで道場が示されている。


「ここへ! 急いで!」

 俺はスグルに言う。


「わかった!」

 と、スグルは車を発進させた。


 俺の頭に浮かんだ映像では、ハズキは何人かを相手にしていた。それぞれ得意な武器を持った相手にじりじりと間を詰められているようだ。


 近づいた相手にハズキ剣士は剣を突き刺すが、ダメージを与えられていない。

 ハズキの動きは速いため相手の胸や腹に剣先は当たるのだが、なんせ、膂力(りょりょく)が無い。肉を突き切るまでにはいたらないのだ。


 その中でも、フランソワは感心している。ミズキ剣士は覚悟を持って剣を振るっていると。

 わずか14歳の少女が、真剣を振る覚悟を持っているということだ。相手の命を奪うかもしれないし、自分が死ぬかもしれない、ということだ。 


 だが、それも時間の問題。このままだと、いずれ捕まってしまう。

 師範が間に合えば、と願う。

 ただし、師範はお酒を飲んでいたようだ。声が陽気であった。

 色々あった日、警察に事情徴収までされた。それが済んで、解放され、ようやく落ち着いてお酒を飲んでいたようだ。それで戦えるのか……と。


 先ほど俺が相手にした剣士クラスだったら、たぶん、師範でも勝てない。

 とにかく、師範の戦いは時間稼ぎでいいから、間に合ってくれと俺は必死に願った。


「何分で着く?」

 俺はスグルに訊く。


「ナビによると……ええ、30分……距離は2キロとないが……」

「ああ、渋滞か……」

 と、スグルは嘆いている。


 俺はすぐに計算する。2キロなら、走って10分かからない、

 と思ったとたん、俺は、というかフランソワは杖を抱え、サイドドアを開けてしまった。

 車は走っている。


「おい、おい! ちょっと待て、慌てるな! 停まるから」

 と、スグルは言って、路肩に車を寄せた。


「走るつもりか。場所がわからないだろう」

 スグルが呆れる様に指摘する。


 フランソワはタクロウからスマホをひったくった。そして、サイドドアから歩道へ飛び出してしまった。


 歩道には通行人がけっこう歩いている。フランソワはそれを縫うように走っていく。

 歩道沿いのお店から洩れてくる光に照らされて歩道上はけっこう明るい。

 すれ違う人たちが誰もが驚いて道を開けてくれる。何回も繰り返されているところだ。


 走る風でフードは外れてしまっている。

 紫色のローブをまとった西洋の美女が血相を変えて走っているのだから。しかも今回は手に杖を持っている。驚かない方が尋常でない。

 中には、声をかけて道をふさごうとする輩もいるが、さっとかわされて問題なく走っていく。


 大通りを曲がり路地に入ると、そこは高級住宅街になっているようで、広い敷地を持った屋敷が並んでいた。

 その長い塀に沿って、いくつか角を回り、スマホのナビが示した屋敷の門前まで来た。


 道路の脇に、おなじみの黒いワンボックスが停めてある。

 そっと近づいて運転席を覗けば、若い男がしきりに塀の向こうを気にしている様子がわかった。


 フランソワは車の後ろに回り、バックドアをドンドンと叩いた。

 音に反応して、運転席にいた若い男は、ドアを開けて出てきて、回ってきた。フランソワとガチ合い、激しく驚いている。

 フランソワは、というか俺は、男の鳩尾に正拳をくらわした。男は気絶してしまう。

 俺は、男のジャンパーの内ポケットからスマホを取り出し、一番上の相手にかける。


「なんだ!」と声。


 俺はスマホに向かい「やばいです! 警察が来ます!」と呟いた。


「警察!」

 と、相手の緊迫した声。


「近所で通報したようです」

 と、俺。


「いそげ!」

 と相手は吠え、電話は切れる。


 俺は、ジャンプして塀の上に両手をかけて、体を引き上げて塀の上に乗る。

 薄暗い中、母屋の隣に道場があるのが認められる。木造の歴史ある建造物のようだ。


 俺は飛び降りて道場へ向かう。

 ちょうど、そこから男が三人飛び出してきた。獲物を得ることなく逃げるようだ。

 駆けてくる俺を認めて男たちは驚いているが、一斉に構えた。


 杖を横に振る。構えていた男の側頭に当たり、男はぶっ倒れる。


 次の男の足を杖ですくう。男は空に投げ出され、頭から地面に叩きつけられる。呻いている。


 三人目の男がそれをみて、逃げようと背中を見せたので、杖で背中をつく。男は吹っ飛ばされて地面に転がる。

 転がった男の頭を杖で殴り失神させる。


 転ばされた男の鳩尾に杖を打ち込む。悶絶した挙句気を失ってしまう。


 フランソワは、三人の男をあっという間に倒してしまう。

 その手際に自分のことながら、俺は感心してしまった。



   第14章 観念の後 に続く







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