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77話 誕生日パーティが貴族っぽい ①

 全ての階級の試合が終了し表彰式が始まった。


 闘技場の中央に台が置かれ、そこにはセオドアを中心にして、右手にヘクター、左手にはクインティンが立っている。


「上級の部優勝者、セオドア!」


 おお!勲章らしき物がちゃんと用意されている!

 嬉しそうに勲章を掲げるセオドアに、観客からも大きな拍手が贈られる。


「中級の部優勝者、ヘクター!」


 同じようにヘクターにも勲章が与えられ、拍手も大きい。ヘクター、もっと嬉しそうな顔しろよ!


「初級の部優勝者、クインティン!」


 クインティンにも勲章が与えられたが、ちょっと小さめな気がする。でもすっごい嬉しそうだ。


「アシュリー。こちらへ」

「はい!」


 私は今日の催しに対しての感謝の気持ちを伝えたいと、お父様にお願いしたのだ。


「まずは、今日の私の誕生日の為にこのような大会を催してくれた父と、協力してくださった方々にお礼を申し上げます。そして、大会に出場してくださった皆様、試合を見に来てくださった皆様にも心より感謝いたします!

 今日という素晴らしい誕生日を私は一生忘れることはないでしょう!

 私はまだ子供で、分からないことが多すぎます。しかし、父や兄と共にこのグレンヴィルを護っていく為に精一杯努力します!皆様、どうか私の成長を見ていてください!お願いします!」


 一斉に拍手と歓声が湧き上がった。


「アシュリー。演説まで出来るようになって・・・」


 何か、ジェイムズお兄様だけ感無量だ。




 選手が闘技場から退場してお開きになり、一旦着替えに部屋に戻ることになった。


 まだ脱ぎたくないな〜!

 まだ騎士団の制服着ていたいな〜!


 私がウダウダと部屋に戻ろうとしないので、皆が徐々に足を止めていく。

 一番後ろでクリフォード君とゆっくり歩いていたティファニー様が声をかけてくれた。


「アシュリー、どうしたの?」

「えー⋯っと」


 正直に言うのはちと恥ずかしい。


「あーしゃん、どちたの?」


 クッ!⋯クリフォード君が可愛すぎる!

 抱っこしたいが、砂ぼこり(まみ)れの自分には抱っこ出来ない⋯やはり、着替えるべきか!


「あ、〇△□〇△□!」


 ハロルドお兄様が何やら言っているが、少し離れているのでよく聞こえない。

 着替えに行こうと決意して歩き始めたところで、トーマスお兄様が笑いながら手を差し出してくるので、反射的に握ってしまった。

 そして、いつものように(いつもはジェイムズお兄様だが)ヒョイっと腕に乗せられた。


「騎士団の執務室に寄ってから戻る。皆は先に行ってくれ」


 スタスタ⋯いや、トーマスお兄様の場合はズンズンって感じだな。歩くのも早い。

 執務室に着くと私を腕から下ろし、大きな箱から何かを出して・・・


 制服だ!


「お兄様、これは⋯」

「ああ、支給される制服が一着な訳がないだろう?洗い替えだよ。アシュリーの分も二着ちゃんとある」


 なんと!

 私の気持ちはバレてしまったのか!


「今日は一日着ているといい」

「はい!ありがとう、お兄様!」


 嬉しいな〜!

 ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいな〜!

 スキップでもしたくなるが、この世界でスキップはやめた方が良いだろう。





 部屋に戻り、すぐに素っ裸になった所で浄化魔法をかける。


『全身シーブ●ーズ!』


 今日はクラリッサに薔薇の花を持たされたので、薔薇の香りだ。

 ニヤニヤするクラリッサに新しい制服を着せてもらって一息ついた。


「クラリッサ、そのニヤニヤは何ですか?」

「あ、すみません。つい⋯その『詠唱』が面白くて」


 確かに、変で面白いのだろう。

 クラリッサは、結構私の魔法の詠唱が気に入っていると思う。ラジオ体操など特にお気に入りではないだろうか。



「アシュリー様、今日の大会は素晴らしかったですね!あの強者の中で誰にも負けないなんて、本当に強くなられました」

「そ、そう?」


 クラリッサにも褒められて嬉しい!


「ヘクターも素晴らしい成績でした」

「最初は嫌がってましたけど・・・旦那様に言われては頑張るしかありませんから」

「お父様は何を考えているのでしょうか。クラリッサは分かりますか?」

「そうですね⋯兄の力を見せ付けたということは、兄の代わりは要らないと公言している様な?」


 ふむふむ


 私の護衛になろうとする奴がいるとか?

 さっきのお父様の様子でふと思ったのだが、もしかして、デヴィッド君の心を折るのが目的だった?


「お父様は、デヴィッド君を負かす為にヘクターを出場させたのではないでしょうか」

「え?」

「デヴィッド君は帝国関係者のようですので、帝国出身の師匠を持つヘクターなら勝てると言っていたのです」

「そ、そうですか・・・」


 あれ?

 クラリッサが変?


「デヴィッド君に『ディーデリヒ・ビスマルク』という名を告げたら、酷く驚いていました」

「・・・!!」


 おや、クラリッサも何か知っているようだ。

 教えてくれるかな〜?


「誰の名前ですか?」

「・・・」


「クラリッサは知っているのですね」

「・・・いえ」


「私はそんなに信用されていないのでしようか」

「違います!決してそうではありません!」

「でも、話せない?」


 これは追い詰め過ぎたかな?

 まあ聞かなくてもいっか!


「また話す気になったら教えてください」

「・・・・・・はい」


「そんな顔しなくても良いのです。正直、気になりますが、結構どうでも良いのです」

「・・・は?」


「だって、誰の名前でも私には関係ないですよね?とりあえず、私はデヴィッド君を『闇』から救えれば良いのです」

「はあ…ど、どういうことですか?」

「どういうことって⋯私にもよく分かりませんが、デヴィッド君は騎士になりたいのに何かに阻まれているようです。ですから、デヴィッド君が騎士になれるように、邪魔する奴を蹴散らすことにしたのです」

「ええーっ!」


「まぁ、今のところ具体的に何をすべきなのかは分かっていないので何も出来ませんが、とりあえずデヴィッド君を鍛えます」

「え?『闇』から救うのと鍛えるのと関係が?」

「もちろんです!ちょっとやそっとでは負けない身体は必要でしょう?相手は帝国かもしれないのですよ?強くなっておかなくてはなりません」

「えー・・・と、そうでしょうか」


「もし、デヴィッド君が口封じに命を狙われたらどうするのですか!それを自分で察知出来るようにならなければ・・・」


 そうだ!

 王子も鍛え直さなくては!

 あの無様な試合を見たら放置出来ない。


「明日から、王子とデヴィッド君には特別強化訓練を追加しましょう!」


「王子殿下もですか・・・ご愁傷さまです」




 着替えてどこに行くのかと思えばホールだった。

 クラリッサに連れられてホールに着くと、既に皆が待っていてくれたようで拍手で迎えられてしまった。


「「「アシュリー様!お誕生日おめでとうございます!」」」


 何だか照れくさいなぁ♪




 皆がひと通りお祝いしてくれた所で、それぞれ好きなように過ごしてもらう。

 料理もいっぱい並んでるし、楽団が楽曲を演奏してくれている。なんて豪華な誕生日だ。


 すごい貴族っぽい!!


 ん?・・・私、貴族だったな。



 好きな料理をたらふく食べ、ソファで一休みしていると、オデット様が布を差し出して来た。誕プレだろうか。


「これは我がルイーズの領地で開発中の織物で、是非アシュリー様にと持って参りました!」


 どこかで見た色だな。


「この布、伸びるのです!」


 おお!ジャージみたいだ!


「この色は制服と同じ色に染めてありますので、この布で制服の下穿きやブレザーを作っていただければ、もっと動きやすい制服となりましょう!」

「それはすごく良いですね!」

「本当は作って差し上げたかったのですが、採寸も出来ませんので布だけになりました」

「全く構いません!いただいてよろしいのですか?」

「はい!もちろんです」

「ありがとうございます!」


 これはいい!

 素材は綿だと思うが、すごい伸び〜る。


「早速仕立てましょう。オデット様、ありがとうございます」


 クラリッサが布を受け取って、さっさと持って行った。気が早い・・・。


 次はローレンティア様が来たので、オデット様は遠慮して下がって行った。これが貴族の礼儀なのだろうか⋯覚えなければ!


「アシュリー様⋯お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます、ローレンティア様。どうぞ隣に」


 一緒に、ソファに座ってお喋りするって友達っぽいよな!この機会に「ローラ」と呼んでいいか聞いてみようかな⋯。


「このようにお話するのは久しぶりな気がします。魔術師団での研修はいかがですか?」

「はい!とても楽しいです!皆さんとても良くしてくださいますし、たくさんの魔法を教えていただいてます」

「それは良かったです」

「これも全てアシュリー様のおかげです!」

「そんなことはありません。ローレンティア様の努力が結ばれたのですよ」

「ふふっ!アシュリー様はそう仰ると思っておりました。でも、今日はお誕生日ですからね、素直に贈り物を受け取っていただきますよ」

「え⋯?」


 何となく、押しが強いローレンティア様。

 そして、自分が着けているペンダントを取り出して見せてくれるのだが・・・

 これは、真珠かな?

 この世界にも真珠があるのか?

 あるんだろうな、目の前にあるから。


「真珠か・・・」


 いつの間にか近付いていたデヴィッド君が呟いた。

その途端!ローレンティア様がデヴィッド君を睨んだ!

 私は、そのローレンティア様の勢いに驚いたよ。


「何故知っているのですか!」

「え?」

「え?」


 私とデヴィッド君の声が重なる。

『真珠』だと分かってはダメなのか?

 ローレンティア様は、声こそ潜めているが、かなりお怒りな雰囲気で、綺麗な子が怒ると怖いのを実感した瞬間である。


 不穏な空気を察したお父様や騎士団長達が、私達の周りを囲むように並んでくれている。

 なんて素早い行動!さすがである。


「この国で()()を知っている人はほとんどおりません!何故なら貴重過ぎて争いが起きかねないので秘匿しているからです。ですからもちろん市場にも出回りませんし、貴族の間でもやり取りはないはず。それを何故カーライル子爵家の貴方が知っているのですか!」


「それは⋯そんな貴重な物だって知らなかったけど、実物を1回見た事があったから・・・そんな大変なこととは知らなかったんだ」


 これは本当のことを言っている。

 これ以上責めてはいけない。

 私はローレンティア様を制して、質問を引き継ぐ。


「・・・実物を見たと?」

「うん、昨年見た」

「どこで見ましたか?」

「アトール公爵の別荘」


 やっぱり奴が関わっていたか。

 やり取りを聞いていた我が家の人達と王子&エドゥアルド様の目が皿だ。


 待てよ・・・

 海、海岸、コーク領、秘匿。


「分かりました!お父様!!」

「な、なんだ!!」


 皆にはあまり聞こえないよう、声を潜めて伝える。


「塩ではなく『()()』です!」


 これで分かるだろう。


「そうか・・・なるほど」


 分かったようである。

 聞こえていない王子は「?」な顔をしているが、エドゥアルド様や騎士団長は分かったようだ。


 王子、頭も鍛えようか⋯。



「ローレンティア様、詳しいお話は後でいたしましょう。それでその美しく光る白い宝石を私に見せてくれたのは何故ですか?」

「はい!これは双子の宝石なのです。それで片方をアシュリー様に是非受け取っていただきたくて!」


「・・・・・・・・・え?」



「沈黙長かったよな?」

「ええ、さすがのアシュリー様も固まってますね」

「頭が受け付け拒否してるとか」


 王子達が何か言っているが分からない。

 なんだと?

 争いが起こるかもしれないほど貴重な真珠を私にくれると?


 えーーーーと

 ど、どうすればっ!


 困った時のお父様頼みっ!

 なんと、目を逸らされた!


 王族の王子はっ!?

 クソッ、既に知らん顔だ!


「ご迷惑ですか・・・?」


 そ、そんな仔犬の様な仕草はやめてくれ!


「迷惑とかではなくてですね⋯そのような貴重なものを私などに与えては、豚に真珠・・・」


 おっと!

 前世のことわざがピッタリすぎた。


「アシュリー様が豚などとはありえませんわ!女神か天使のようにお美しいですのに!」

「ま、まあ!ありがとう⋯」


 本当にどうすれば・・・。


「ローレンティア様はアシュリー様とお揃いがいいんだって。もらってあげなよ!」


 この、クソデヴィッド坊主!

 無責任になんて事を言うんだ!


「そうなのです。これは私が見つけた双子の宝石で、父には大切な人にあげなさいと言われました」

「それでしたら、将来の伴侶となる方に差し上げるのがよろしいのではありませんか?」

「いえ!私の人生を変えてくださったアシュリー様以外考えられません!」

「そ、そうですか・・・」


「それに⋯このように秘匿すべき貴重な宝石は、アシュリー様ほどに()()()()()()()()をお持ちの方にこそ相応しいのです、アシュリー様でしたら誰よりも大切に()()()()()()と信じております」


「ありがたくいただきましょう!」


「「「えーーー!?」」」



「今の説得の何がアシュリーを変えたのか分かるか?」

「分かりません!」

「何がアシュリーを変えたのか⋯」

「僕、分かりますよ」

「何でお前が分かるんだ!」

「え?だって、全部アシュリー様の好きそうな言葉だよ?『強い』に『真っ直ぐ』に『信念』に、あと『守ってほしい』とか?『鍛錬』とか『訓練』とか入ってたらもっといいんじゃない?」

「そ、そういえば・・・」

「デヴィッド、お前すごいな」

「そぉですか?」




 そうだったのか・・・自分。

 つい、乗せられてしまったよ!


 ああ・・・

 ローレンティア様がすっごい嬉しそう・・・








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― 新着の感想 ―
アシュリー見てると何度もスッキリ感を味わえる。 伯爵一族を罰することなく救うという感情は 日本人って感じがしました。 とてもたのしい小説です。 アシュリーがチートでもまだ家族の方が強かったりするのは…
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