76話 グレンヴィルの剣術大会②
「さぁて、食後の第一戦は私とセオドアだ」
「お兄様頑張ってください!」
「もちろん勝つつもりだよ」
セオドアのこれまでの成績は、私との引き分け以外は全勝である。
対するジェイムズお兄様は2勝1敗2引き分け。
しかもセオドアは、判定者であるお父様達を抜きにすればこの1区でNo.2だ。
そのセオドア相手でもお兄様の様子は何やら勝てる算段がありそうだ。
試合が面白くなりそうである!
因みにNo.1は奥さんの出産で休暇を取っている♪
グレンヴィルの猛者達は奥さんに弱いのだ。
お父様が呼んだたくさんの出店も、「売り切れ」続出のようで、観客も選手も腹を満たし充分な休息を取った。
試合再開だ!
上級の午後1戦目は、ジェイムズお兄様対セオドア。
中級はダドリー長男ことツェザール様とデヴィッド君という魔法学園の大会の再戦である。
どちらも見たい!!
中級のこれまでの成績は、なんとヘクターが全勝で暫定1位。
2位と3位はグレンヴィル騎士団員でランドンとケネス。ビリーはデヴィッド君にも負けていて5位!
ビリー、もっと鍛錬しろ!
そして4位がデヴィッド君で6位がツェザール様だ。
初級の試合ではどうやらクインティンの独壇場らしい・・・。平民の研修生や、ルシアン様、スコット様、それにリロイ君も初級に出場しているのだが、全員がクインティンに負けている。
研修生達よ頑張れ!
ジェイムスお兄様とセオドアの試合が始まった。
お兄様は赤、セオドアが白のリボンである。
お兄様もセオドアも楽しそうだ。
何か喋っているようだが、ここまでは聞こえない。
喋っていても、二人の剣は普通の人には見えないほどの速さで打ち合っているんだからレベルが違う。もう半分以上時間が過ぎていると思うが、どちらにも有効の攻撃はまだない。
目にも止まらぬ激しい打ち合いが続き、
もう時間が・・・と思ったその時。
一瞬のことだった。
セオドアの剣を躱すと同時にお兄様の足技が!
しかも二連発で!
驚いたセオドアを逃すことなく一撃が入り
お父様の有効判定の赤い旗が上がった。
カーーーーン!
ほぼ同時に終了の鐘が鳴った。
「1-0で赤の勝ちだ!」
「やったー!アシュリー!セオドアに勝ったよ~♪」
お兄様は大喜びで席の方へ戻ってくる。
「ジェイムズ様、やられました…まさかあそこで足技がくるとは・・・私もまだまだです」
「まぁ、今回はセオドアとの対戦の為に使わずにいたからね」
「私との対戦の為にですか?」
「うん。この私の戦い方を知らないのはグレンヴィルの騎士だけだったから。あ、見習い達や研修生達は知ってるよ、この前アシュリーとの模擬戦見せたから」
「そうだったのですか」
「テガンとヒューには勝てると思ったけどセオドアはね…正直当たって砕けろって気分だった」
「な…なんと。してやられたわけですね、私は」
「次からは意外性はなくなるけど、これが私の今の戦い方だよ!」
「次は対処してみせましょう!」
「そうだ。アシュリーと私の試合が残ってるから参考になると思うよ。ね♪ アシュリー」
「はい!」
「承知しました」
中級のツェザール様とデヴィッド君の試合はデヴィッド君の一本勝ちだったようだ。
今頃、ツェザール様は前回の闘いでデヴィッド君が手を抜いたことに気付いたことだろう・・・だって、あそこで怒ってるんだよね、ツェザール様。デヴィッド君は詰め寄られて困惑しているようだ。
ちょっと怒られればいいんだよ。
うん。
中級は次の試合も終わったようで、その次にヘクターと王子が出て行った。
私の試合はまだだから、これは試合が見れそうだ。
「始め!」
「「よろしくお願いします!」」
明らかにヘクターの方が強者であるが、王子は尻込みするでもなく堂々と構えている。
構えてるだけじゃダメなんだけどな。
もしかして、どう攻撃していいのか分からない?
ヘクターが先に攻撃を始めると、何とか防御するが・・・
あぁ…一瞬で終わった。
容赦ないな、ヘクター。
まぁ、試合数も多いから無駄な体力使うこともないんだが、次がデヴィッド君だから余計にとっとと勝負をつけたのかもしれない。
王子の落ち込みようがすごい。
頑張れ、王子!
さあ、私は最後の試合だ!
相手はジェイムスお兄様なので、勝ち負けはどうでもよい。
思う存分暴れてこよう!
「始めよ!」
「「よろしくお願いします!」」
お互い同時に攻撃を始めた。
やっぱりジェイムスお兄様との闘いは楽しい!
剣をクルクルと振り回してみせるとお兄様も真似をする。
上段回し蹴りからの連続二段回し蹴り!
三連続だ!
さすがに三回はお兄様は無理だったようで二回だった。
その間の打ち合いも速く鋭く決めるが、お互いに受けまくる。
舞うようにしなやかな剣さばきをみせたかと思えば、瞬きも許さないほどの速さで攻め込む!
私もお兄様も、飛んで回って足技もどんどん繰り出す。
私が繰り出した蹴りをお兄様に取られそうになったが、瞬間に回転して反対の足で蹴って逃れる。
先ほどから、観客の驚きの声が止まない。
ははっ!
面白い!!
もっと速く、もっと鋭く、もっと強く!
お兄様もそれに応えてくる。
闘いの欲求は止まらない。
カーーーン!
でも残念ながらここで終わりだ。
「両者引き分け!」
私は全ての試合を0-0の引き分けという、ある意味美しい成績で飾った。
せめて1点くらいは欲しかったが仕方ない。これだけの強者達と試合が出来たこと、一撃も喰らわなかったことを喜ぼう!
「4の砂時計は短いね」
「はい・・・」
「それにしても、アシュリーすごいね!」
「え?」
「誰からも失点してないってすごいことだよ」
「誰からも得点出来てなくてもですか?」
「それは、これからアシュリーが伸びて行けば得られるようになるさ」
そうか。
今のまだ未熟な私が失点しなかったことは、自画自賛ではなくちゃんと褒めてもらえるんだ。
へへっ!
良かった。
上級の成績表が貼り出された。
1位 セオドア 5勝1敗1分け 得失点+6
2位 ジェイムズ 3勝1敗3分け 得失点+4
3位 デュラン 3勝1敗3分け 得失点+2
4位 アシュリー 0勝0敗7分け 得失点0
5位 テガン 3勝3敗1分け 得失点-1
6位 サイモン 1勝3敗3分け 得失点-3
7位 ゼイヴィア 1勝4敗2分け 得失点-4
7位 ヒュー 1勝4敗2分け 得失点-4
驚いた!
0勝0敗で得失点0の私は4位だと?
順位というのは面白い。
「どう考えても、この中で私が一番下手っぴなのになあ⋯」
「アシュリー様、それは違います」
え?
声に出てたか?
「もし、これが戦場だったらどうでしょう。ヒューなど死んでますね」
「うわっ!セオドアひでぇ!」
「事実でしょう?」
「はい・・・」
「でも、私は敵を一人も倒せていないということではないですか?」
「そうかもしれませんが、味方を助けることは出来るでしょう」
「そうでしょうか」
「敵を撹乱することも出来るでしょう」
「それは出来そうです」
「アシュリー様は得意そうですね」
「敵を倒すことも大事ですが、自分が死んでは意味が無いのです。グレンヴィルの騎士も兵士も自分の命を粗末にする者はおりません」
「はい!知ってます!」
「ならば、アシュリー様が下手っぴではないことはお分かりになりましたか?」
「何となく・・・」
「ははっ!まだまだこれからです!」
「そうだよ!アシュリー様の順位は正当な順位ですよ!セオドアはどんだけ強いのっ!騎士団長なのに、私は本当のびりっけつだよ!」
「私もあまり変わらん・・・しかも、今日出場したグレンヴィルの騎士団員は最強じゃないそうだ」
「え?上位三人じゃないの?」
「ええ、まぁ⋯私はNo.2の位置付けです」
「え?No.1はトーマス様じゃなくて?」
「はい、辺境伯やトーマス団長は数に入れません」
「ええーー?」
「私、テガンはNo.5で、ヒューはNo.6です」
「ええーー?」
「これは1区だけの位置付けですので、まだ2区から5区も入れるともっと変わります」
「もう、いいよ…もっと鍛えろってことだよな」
「騎士団長の名が泣くよ」
「ジェイムズ!うるさいよっ!」
「クラウディア様に今日のことがバレたら怖いぞ〜!」
「ゲッ!それがあった!」
「私も、マグダレーン様にバレたら⋯」
「ジェイムズ、お前黙ってろよ!」
「私が言わなくてもギルフォード殿下がいらっしゃるし」
「ああああ〜!そうだった!」
「お前達うるさい!みっともない」
「デュラン!」
「ここに居る間に特訓してもらえばいい」
「おっ!それはいい!」
「ゼイヴィアとサイモンは、あとほんの少し試合が続いていたらアシュリー様に負けていただろう」
「グッ・・・多分、デュランの言う通りだ」
「私も同感だ・・・」
「まぁ、私も半刻も続けば分からないがな」
「半刻も続けられるのか?」
「アシュリー様は一刻でも平気だ」
「ええーー?」
「絶対負ける・・・」
「私の言いたいことが分かったか?」
「ああ!明日から訓練に加えてもらう!」
「ゼイヴィア、お前帰らなくていいのか?」
「・・・休暇ギリギリまでいる!」
「私は実家に帰らねばならない。ダドリー家にいる間は3区の騎士団で特訓してもらおうと思う」
何か・・・騎士団長達の会話が面白くて、つい聞き入ってしまった!中級の試合を見に行かねば!
ふぅ⋯間に合ったようだ。
もう少しで見逃すところだった。
これからヘクターVSデヴィッド君の試合が始まる。
「「よろしくお願いします!」」
デヴィッド君が剣を突き出すように構え⋯
「白の勝ち!」
え?
ええ〜!?
終わっちゃったよ!
突き出した剣を二本の短剣で拗られ
手首を切られ、
同時に首を切られて終わり。
ヘクターの一本勝ちである。
その間約1秒くらい?
普通の人は、ヘクターが何をしたかも分からなかったかもしれないほどの速さだった。
デヴィッド君、ポカーン・・・である。
ヘクターは言いつけを守って本気の本気で闘っただけなんだろうけど、デヴィッド君にはショックが大きかったようだ。
早く立ち直るのだ!
君はよく頑張った!
私がヘクターの所に駆け寄ろうとする前に、お父様が寄って行き、ヘクターの頭を撫でている。
おお〜!初めて見る光景だ!
ヘクターはどうやら照れている様子。
うんうん、私はヘクターが従者で鼻が高いよ!
しかし、お父様があそこまでヘクターを前面に出そうとするのは変だと思うのだ。ヘクターにってことは、私繋がりの何か理由がありそうだと思うのは考え過ぎだろうか?
うーん・・・
まあ、後で聞いてみよう。
とりあえず、私はデヴィッド君へ声をかけた。
「精一杯闘いましたか?」
「え?」
「この大会では精一杯闘いましたか?」
「うん、精一杯だった。勝てなかったけど⋯。本当に勝てなかったんだ!」
「ならば良かったです。後悔はありませんか?」
「・・・さっき、ツェザール様にすごく怒られた。魔法学園での闘いではわざと負けただろ⋯って、本気で怒られた。でも、今回本気で闘ったから許してやるって、笑ってくれた」
「そうですか」
「学園でも本気で闘えば良かったって、ちょっと後悔した」
「良いことです。これから二度としなければ良いのです」
「ははっ!そうみたいだね。すぐに許してくれちゃうんだ⋯」
「騎士とはそういうものです」
「そうか⋯本気で騎士を目指したいな⋯」
「目指せば良いではないですか」
「そう、だよね⋯」
これは『闇』の何かが阻んでいるな。
将来を夢見られない状況にしてる奴は誰だ!
「叶いますと言ったではありませんか」
「え?」
「でも、デヴィッド様が叶えようとしなければ叶いません。諦めてはダメですよ」
「え?」
「まずはデヴィッド様がちゃんと願わないと始まりません」
「え?」
「デヴィッド様の将来を阻む者がいるなら蹴散らして差し上げましょう!」
「え〜っ!?」
「また物騒な話をしておるな」
「お父様、物騒な話ではありません」
「蹴散らすとか言っておったではないか」
「それは、有望な子供の将来を阻む者など蹴散らして当然ではありませんか?」
「アシュリー・・・まぁ、そうだな」
「必要ならば蹴散らすと言ったまでです」
「相手が簡単に手放してくれなければ?」
「蹴散らします!!」
「ブッ⋯」
ぶっ?
「あはははっ!アシュリー様はやっぱりすごいね!」
「守ると言ったではありませんか」
「うん、分かってる⋯」
「言い淀むのは、蹴散らす相手が大きすぎるからであろう」
「・・・・・」
ああ、やっぱり帝国か。
「ディーデリヒ・ビスマルク」
お父様が言った名前に、驚いて目を見張るデヴィッド君だが、言葉は出ない。誰の名前だろう?
「何故知っている⋯という顔だな。まぁ、私ほどになれば容易いのだよ」
「そう、ですか⋯」
「そんなに怯えるな。アシュリーが望む限り悪いようにはしないから安心しなさい」
「・・・・・・」
「それよりも、君はアシュリーに目を付けられた」
「え?」
「そちらの覚悟をしなさい」
「・・・えーと?」
「そのうち分かる」
目を付けるってどういう意味だ!
お父様酷い!




