75話 グレンヴィルの剣術大会①
「これよりグレンヴィルによる剣術大会を開催する!」
お父様の声が闘技場に朗々と響く。
「この大会は我が娘・アシュリーの誕生日の祝いに開催するものであるが遊びではない。選手達はそれぞれの誇りをかけ、騎士の精神に則り、正々堂々と闘い抜くのだ!」
「「「「おーーーーーー!!」」」」
湧き上がる歓声。
いつの間にこれほどの観衆が集まったのか。
「多くの相手と闘えるよう、今回は時間を区切って試合を行う。一試合はこの4の砂時計が落ちるまで!それまでに勝負のつかなかった対戦については有効な攻撃の数で判定をする。判定者はこのゴッドフリー・グレンヴィルとトーマス・グレンヴィル、そして副騎士団長でありグレンヴィル1区を護り続ける強者、オリヴァー・テンプルが受け持つ。異存のある者はないか!」
いやいや、お父様に文句を言うような奴はいないだろう。しかも、1区のテンプル伯爵まで来ていたとは!
時間は4の砂時計。一刻を4回半分にした時間⋯つまりだいたい7分半ということだ。
結構短いな。
本当に私には不利な試合型式だ。
しかし、無様な試合はしないと誓った。
全力で挑むまで!
私は第一試合の一番くじ。
相手は我がグレンヴィルの精鋭、セオドアだ。
まだ一度も勝てた事がないどころか、毎回負ける相手である。トーマスお兄様レベルの騎士なのだ。
上級の判定者はお父様。
私は白いリボンを着け、セオドアは赤を着けた。
「魔法は禁止だ。木剣以外の武器も禁止。しかし、それ以外はどのように闘っても良い」
と、いうことは・・・足技もOKってことか!
「「承知!」」
「では、始めよ!」
「「よろしくお願いします!」」
お互いがすぐに攻撃に入った。
木剣が勢いよくかち合う。
クッ相変わらず重いな
「アシュリー様、また強くなられましたね」
「まあねっ!」
思いっきり捻りを加えて剣を払い、切り返すがセオドアには通用しない。
気を抜けば一瞬で終わる。
息をするのも忘れる程の緊張感が続く。
でも、それがたまらない!
セオドアも私が前より強くなって嬉しそうだ。
絶対に有効な一手を決めさせない!
全て払って避けて受けてみせる!
今までなら避けきれなかった攻撃が受けられた時のセオドアの驚いた顔がたまらん!
その隙に速攻に次いで回転し後ろを取るが、セオドアは後ろに目もついているらしい。
お互いに有効な攻撃が決まらぬまま時間が過ぎるが、焦ってはいけない。
焦っては隙を突かれる。
全て受けてみせる!
セオドアの剣の全てを見逃さない!
カーーーン!
あれ、終わっ…た?
「両者引き分け!」
負けなかっ…た?
セオドアに初めて負けなかった!
中級では「赤の勝ち」と聞こえた。
初級は判定ではなく、勝負が早くついていたらしく、もう次の試合をしている。
「アシュリー様、驚きました!本当に強くなられましたね!」
「セオドアありがとう!とても嬉しいです!」
用意された席に戻ると、クラリッサが飲み物を用意してくれていた。
「美味しいです!」
「アシュリー様が好きな小桃と檸檬を絞ったものです。さっぱりとした酸味がこういった時に良いと思いまして作りました」
「さすがクラリッサね!」
「喜んでいただけて良かったです」
ホント、非の付けようがない侍女である!
「次の試合も勝負がついたようです」
第一試合の2戦目は、デュラン団長とうちの精鋭テガン。3-2でデュラン団長の勝ち。
凄いなテガン。あのデュラン団長に有効な攻撃を入れられたのか…クッ私も頑張る!
中級はではデヴィッド君の試合だったようだ。
そうだ!
デヴィッド君にひと言言っておかなければ。
「ちょっとデヴィッド様の所へ行ってきます」
中級の待機席の方へ向かう途中のデヴィッド君に駆け寄り忠告する。
「デヴィッド様。このグレンヴィルの大会では本気を出してください。誰にも遠慮は要りません!」
「え・・・?」
「学園の剣術大会では、先輩に遠慮しましたでしょう?」
コソコソっと耳打ちすると、また驚いた顔をする。
「誰も気付いていないと思いましたか?私もお父様も分かりましたよ。ですから、遠慮をしたら、ここにいる人達のほとんどが分かります。本気で闘わないと怒られますよ。お父様は怒ると怖いらしいのです!」
「わ、分かりました・・・」
よし!
「ホント、敵わないなぁ〜♪」
「叶いますよ」
「え?」
「では、頑張ってください!」
デヴィッド君は何か抱えていると思う。厨二病っぽく言えば『闇』が見え隠れしていると思うのだが、簡単にそれを吐露してはくれなさそうだ。
お父様はきっと何か知っているんだろうな。
この大会で何かふっ切れてくれればいいのに⋯。
第一試合3戦目は、ゼイヴィア団長とうちの精鋭ヒューだが・・・
なんと!ゼイヴィア団長は二刀流だった!
1-2でヒューの勝ちだが、ギリギリだったかと。
4戦目はジェイムズお兄様とサイモン団長。
これは・・・お兄様苦しい!サイモン・ダドリー団長はお父様タイプだ!
お兄様頑張れ!!
しかし、私の心の応援も虚しく、2-3でお兄様は負けてしまった。
これで第一試合は終わり、上級は第二試合に入る。
中級と初級は人数も上級より多いので、まだ第一試合のようだが、時間内に勝負がつく試合もあるみたいで、試合数は少し進んでいる。
さすが上級では、力も拮抗しているのか判定ばかりなので、時間いっぱいで進む。
あれ?
中級にヘクターがいる!?
ヘクターが赤毛のアン…じゃない、ナイジェル様に勝った?
しかも剣は短剣なのに、あっという間に勝負がついたようだ。
いや、短剣よりちょっと長めかな?
二刀流だし。ヘクター面白すぎるよ!!
ヘクターの所に行きたいが、次は自分の試合だ。終わったら行ってこよう!
まずは、デュラン団長との一戦だ!
「「よろしくお願いします!」」
模擬戦ではなく、試合となったらデュラン団長はどう変わるのか⋯。
短時間で勝負をかけてくるのか、確実に攻めてくるのか⋯。
どう来ても私は変わらない。
全て見逃さない!
一度も打たせない!
一打は私が打つのだ!
そして、結果はまたもや0-0である。
でも負けなかった!
「アシュリー様。本気の私に一打も打たせなかった人は初めてですよ」
「そうなのですか?」
「はい。正直驚いています・・・」
「それは褒め言葉でしょうか」
「もちろんです」
「ありがとうございます!」
「日に日に成長していく若者をこうして見守れるというのは楽しいものですね。グレンヴィル辺境伯様」
「ああ、デュラン団長の言う通りだ」
何となくデュラン団長のセリフがジジ臭い。まだそこまで年をとってないと思うのだが。
そうだ!
ヘクターの所へ行って来よう。
「ヘクター!」
「お嬢様、どうされたのですか?」
「ヘクターも出場するなんて聞いていなかったから驚いたの!」
「そういえば、言ってませんでしたね。旦那様に強制されたので、お嬢様も知っているものとばかり⋯」
「お父様が?」
「はい。アシュリーの専属従者として、その力を見せ付けて来いと・・・」
なんと!
「本当に親子ですね⋯言うことがそっくりです」
それは、私とお父様がそっくりということか?
「ふふっ!お父様の言う通りです。その力、見せ付けて来なさい!」
「ああ⋯もう!分かりましたよ!」
「そうそう、特にデヴィッド様には本気の本気で闘いなさい!」
「デヴィッド様ですか⋯彼には勝てないかも知れませんが、必死で頑張りますよ」
ヘクターもデヴィッド君の本来の強さを分かっているらしい。それなら大丈夫だろう。
その後、私はうちの精鋭のテガンとヒューとの闘いでも0-0が続き、次はゼイヴィア団長だ。
二刀流との闘いは初めてで、ちょっとワクワクする。
「「よろしくお願いします!」」
二刀流でも、使っている人間は一人だ。
見極めろ、自分!
右手と左手は全く違う動きをしているように見せてリズムがある。それを破れば・・・
変則攻撃に、ゼイヴィア団長の剣が乱れる。
けれど、すぐに持ち直す。
さすがだ。
それでも乱しまくる!
そして見極める。
崩して崩して、受けまくる!
早く速く舞って、
二本の剣を一本で受けまくる!
こちらの攻撃も受けられてしまうが、
とにかく打たせない!
ゼイヴィア団長の表情に焦りが見え始めた。
あと少し…
カーーーン!
終わってしまった⋯
あと1分欲しかった!
またもや0-0である。
「アシュリー様、本当に楽しかった!またいつかやりましょう!」
「はい!もちろんです!」
私との試合を楽しいと思ってもらえた!
嬉しいな〜♪
今、上級は第五試合だが、中級は既に第六試合に進んでいるようだ。
中級の出場者は11人なので、一人10試合する訳だが、このペースでいくと、終了はそんなに変わらないのかな?
初級は20人以上いるので、グループをふたつに分けてある。一人9試合して、グループ上位の者同士が闘うという仕組みらしい。
おっ!
これから王子とヨナ・ビュートの試合だ。
二人とも随分体力ついたからな、良い試合が出来るだろう。
うん、うん、二人とも剣の振りも安定しているぞ!そうだ、そこだ!
行け!王子!違う!
避けろ!違う!
うーん・・・二人共まだまだだな。
動体視力をもっと鍛えるにはどうしたらいいかな。何か良い方法がないか、今度お父様に聞いてみよう。それが彼らの課題だ。
試合の結果は、ヨナの一本勝ちである。
王子よ、鍛錬頑張れ⋯。
さぁ、次はサイモン団長だ・・・頑張ろう!
「「よろしくお願いします!」」
身長はお父様やトーマスお兄様より少し小さいが、横幅はお父様と変わらないサイモン団長。
うーん・・・不動明王だな。
しかし、剣筋は鋭く速い!
手が痺れそうな程の衝撃が来る!
剣をしっかり受けた私を見て、サイモン団長は驚いている。
予想外に力持ちだったことにびっくりしたか?
力には自信がある!
大丈夫だ。
見極めろ、自分!
見逃すな、一打も!
あんなのに打たれたら痛いしな・・・
打たせない。
今度こそ打ってみせる。
そう意気込んだが、時間切れ!
6戦目も0-0となった。
「アシュリー様のこの小さな身体のどこにこんな力があるのやら!感服しました!」
「褒められました・・・一打も出来ませんでしたのに」
「いやいや、私も一打も出来ませんでした!それどころか、あと少し長引けば結果は違っていたでしょう」
うん、あと少し時間が欲しかった!
「将来が楽しみです!是非また一戦いたしましょう」
「はい!是非!」
最後はジェイムズお兄様を残すのみ。
そう思った時、お父様の声が響いた。
「そろそろ昼時となる。良い匂いがしてくるであろう?選手の皆も腹ごしらえをしようではないか!」
「「「わーい!!」」」
子供達が大喜びだ。
そういえば腹減ったな!
「アシュリー様、シャルロット様の所へ行きましょう。『たこ焼き』があるそうですよ」
「今すぐ行きます!」
たこ焼き!たこ焼き!
わーい!
観覧席の貴賓席で待っていてくれたロッティ先生の所へ行くと、まだ焼きたてのたこ焼きがいっぱいあった!
「さあさ、熱いうちにいただきましょう」
「はい!」
うん!やっぱり美味い!
このソースいいなぁ〜
欲しいなぁ〜
私達に続いて、お父様やお兄様達、ヘクターや王子達も来た。
「なんだこれは」
「たこ焼きです!美味しいので、是非召し上がってください」
「いい匂いだ」
「ヘクターも食べて!とても美味しいのです」
「いただきます」
「どお?」
「あ、熱いです!」
ははっ!
それがたこ焼きの醍醐味さ!
「アシュリー、楽しいか?」
「はい!とっても楽しいです!」
「そうか…試合もかなり健闘しているな」
「そうなのです!今日は不利な試合ですし、最初は負けるのも覚悟しておりましたが、それではダメだと必死に受け続けましたら、1回も負けていません!」
「最後は私とだね。楽しく行こう!」
「はい!ジェイムズお兄様!」
「ヘクターも健闘しているようだな」
「は、はい…何とか」
「ははっ!何とかか・・・どの試合も判定ではなく、一本勝ちのくせにか?」
おや、そうなのか?
すごいなヘクター。
「残りの対戦相手は誰だ?」
「ギルフォード殿下とデヴィッド・カーライル様です」
「ほぉ、やりにくい二人が残ったな」
「はぁ…まぁ…」
「遠慮なく行け」
「そのつもりです」
「デヴィッド・カーライルには気を付けろ。あの子の剣術は多分…帝国の剣術だ。まぁ、帝国出身の師匠を持つヘクターなら大丈夫だろうが」
「えぇっ!そんな・・・」
なんと!
お父様が危惧していたのは、剣術が帝国のものだったからか・・・デヴィッド君が帝国関係者ってことだとすると、彼の『闇』も少し見えてくるな。
早くこっちにおいで
楽しいよ!




