74話 剣術大会の出場者が豪華すぎる
訪問者はなんと、オデット様らしい。
お父様が手紙を出してまだ何日も経ってないよな?どんだけ急いで来たんだ!それとも、ルイーズ伯爵ん家はそんなに近いのか?
馬車からオデット様らしき令嬢が降りてくる。
あれ?エスコートしてるのは・・・第三騎士団長ではないだろうか。確かゼイヴィア・ルイーズ⋯そうか!オデット様はルイーズ家のご令嬢、ゼイヴィア団長の妹ってことか!
ふむふむ
お父様が、もう一人増えると言った出場者はゼイヴィア団長のことだな。それは楽しみだ!
「ルイーズ伯爵令嬢、よく来てくれた。娘のわがままに付き合わせて申し訳ない。休暇の間はごゆるりと過ごしてくだされ」
「グレンヴィル辺境伯様、とんでもございません!お誘いいただき、心より感謝しております。ルイーズ家が長女のオデットと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
オデット様は桃色の髪をふわふわとさせ、私の方を嬉しそうに見た。オデット様と私は初めましてではないな⋯合同授業で会っている。彼女がウェリントン兄の婚約者だったのか!
確か、魔術大会にも出場していた。
「改めまして、アシュリーです。これからはもっと仲良くしてください!」
「まぁ!本当にアシュリー様が私と仲良くしてくださるなんて!嬉しいです!!」
「グレンヴィル辺境伯様。この度は…」
「堅苦しい挨拶は良い。ゼイヴィア殿が一緒とは、アシュリーがいっそう喜んでいるのでな。こちらこそ来てくれて感謝する」
「はあ…そうなのですか?」
「アシュリーの顔を見れば分かるであろう」
「・・・確かに」
おっと!
そんなに顔に出ていたか?
「さぁさぁ、アシュリー。もう日も暮れる。中に入ろうではないか」
「そうですね。ゼイヴィア様もどうぞ中へ」
「覚えていただいてましたか」
「もちろんです!」
「お兄様とアシュリー様はお知り合いでしたの?お兄様、そんな事ひと言も仰っていませんでしたのに!」
「いやいや、王族の護衛で付いていた時に紹介されただけだよ」
「これからもっとお知り合いになるのです!」
「え?」
ルイーズ伯爵の領地は、グレンヴィルの2区と隣接しているらしい。それでも普通は2〜3日かかる行程を、準備もそこそこでぶっ飛ばして来たということだ。
ルイーズの人達には湯浴みの時間もゆっくり取ってもらい、今日は少し遅めの夕食となった。
馭者と護衛も兼ねていたゼイヴィア団長はかなり疲労しているのではないかと思ったが⋯
「王妃殿下はよく強行手段で視察に回りますので、この程度は慣れております」
「ははっ!母上も思い立ったら待っていられない人だからな。ゼイヴィア団長の若さと体力は騎士団長一だ」
「そうなのですね!素晴らしいです!」
体力は何よりも必要だ!
「アシュリーの目が輝いてるよ♪」
「無尽蔵の体力を持つアシュリーだからな。仲間意識でも芽生えたか?」
「無尽蔵・・・」
「ははっ!ゼイヴィアはまだアシュリー様と一戦を交えたことがないからな。明日の剣術大会で対戦できるといいな。アシュリー様との模擬戦は楽しいぞ!」
「デュラン団長・・・剣術大会とは?」
「明日はアシュリーの誕生日でな」
「はい、存じております。私、アシュリー様の誕生日に間に合うようと急いで参りました!」
そうだったのか!
「ああ、それでこれほど早く来てくれたのか。感謝する!」
「いえ、ご連絡いただいた様な事が本当ならば、誕生日にお祝いに駆けつけるのは必須だと思いました。ご期待の応えられたようで嬉しいです!」
ふむふむ。
ルイーズの人達も計画を知っているようだ。
「アシュリー様が喜ぶ催しが『剣術大会』だということですね?」
「分かるか?」
「はい、それで私も大会に出場させてもらえると」
「その通り!出てくれるか?」
「もちろんです。そのような催しなど何年ぶりでしょうか!」
おお?
思ったより喜んでくれている?
「ただなぁ、あまりにも精鋭が揃い過ぎてな、勝負がつかぬことも考えられる。特にアシュリーと闘う場合は長引く!」
お父様、そんな言い方は傷付くぞ!
「それでこの大会は一試合の時間を区切って進めるつもりだ。有効な攻撃が多かった方を勝者とする。アシュリーにはかなり不利な試合だ」
うんうん、全く構わん!
「その代わり、なるべく多くの相手と闘える型式にするつもりだ」
「それは面白そうですね!」
話の途中、玄関の鐘が鳴ったので、セバスチャンが対応に行った。こんな時間に来客とは誰だろうと思ったが、お父様は知っていたようだ。
「おお!やっと着いたか。すぐにこちらへ通してくれ」
しばらくしてやって来たのは、知っている人・・・その子供もよく知っている・・・サイモン・ダドリー第四騎士団長だった!
お父様が「もう一人増える」と言ったのはサイモン団長のことだったのか!ゼイヴィア団長は予想外の幸運(私にとって)だったと。
「サイモン・ダドリー、ただいま到着いたしました。到着が遅くなり申し訳ありません!このようなむさ苦しい姿で食事に同席することをお許しください」
「良いのだ。休暇に帰る所を呼んだのは私だからな。急がせてすまなかった」
「いえ!お誘いいただき感謝いたします。アシュリーお嬢様とは、以前にお約束もしておりますので、楽しみに参りました」
「そうか…サイモンともか…。アシュリーは強い者には目がないからな…すまぬ」
お父様が謝るのは何でだろう
それにしても・・・第二、第三、第四の騎士団長にジェイムズお兄様、そして我がグレンヴィルの精鋭達。この剣術大会の出場メンバー豪華過ぎないか?
お父様とトーマスお兄様は出場しないだろうけど、判定付きの試合だから審判とかするんだろうな。
いやぁ〜♪
誕生日にこんな豪華な剣術大会を催してもらえるとは、私はなんて幸せ者なんだ!
「アシュリーの顔が嬉しさで崩れまくってるね♪」
ハロルドお兄様、うるさいよ!
もう、喜びを顔に出さないなんて出来そうもないんだよ!
「アシュリー様は本当に剣術がお好きでいらっしゃるのですね」
「オデット、それが剣術が一番ではないそうなんだよ」
「ライオネル様、どういうことですか?」
「アシュリー様が本当にお好きなのは体術なのだと、ギルフォード殿下が仰っていたんだ」
「まあ!体術ですか?私もアシュリー様の体術を拝見したいです!」
「ふふっ オデットは本当にアシュリー様が大好きだね♪」
「はい!ライオネル様とはまた違った意味で大好きでございます!」
なんか⋯仲睦まじいカップルの会話というのはむず痒いものだな。話してるのは私のことなのだが⋯。
「こんなに仲の良い二人を引き裂こうなどとは、ウェリントン家の人間の目は節穴か」
「面目ありません・・・」
「いや、ライオネルが悪いわけではないだろう」
「王子殿下もやる気になられましたか?」
「なんだ、その『やる気』というのは⋯物騒だな」
「まあ、決戦の日が来るのを待ちましょう」
「戦いなのかよ!」
「気持ち的には。実際に戦ったりはいたしませんのでご安心を」
「そ、そうか⋯」
「どうやら、ギルフォード殿下も事情をご存知のようですね」
「ああ、ライオネルからだいたいのことは聞いたので予想はできる。ゼイヴィア団長は知っていたのか?」
「いえ、全く。今回、休暇で実家に帰ったところで、グレンヴィル辺境伯からの手紙で偶然知りました。ルイーズ家を軽んじた行い。たとえ王の妹君だとしても許し難い・・・」
おぉ!ゼイヴィア団長はすごい怒ってるみたいだ。そりゃ大事な妹がコケにされたってことだから腹も立つだろう。
「アシュリー様にとってはウェリントン家と縁を結ぶことは非常に良いことですのに、なぜこのような策までしてルイーズ家を立ててくださるので?」
「え?何で私にとって良いことなのですか?」
「え!?」
「「「あははははははは!」」」
あれ?皆に大ウケだ。
変なこと言ったかな?
「ああ、アシュリー様にはギルフォード殿下が⋯」
「「「ブフォッ!」」」
今度は皆噴き出したよ。
面白いな!
「ゼイヴィア団長。それもありえません」
「そ、そうですか!要らぬことを申しました!」
「ゼイヴィア団長。アシュリーはこのグレンヴィルに残りたいのだ」
「え?それでは領地の者との婚姻をお望みで?」
「それもちょっと違うかな・・・」
「え?」
「アシュリーの一番の望みは、このグレンヴィルに自分の領地を持ち、父や兄達と共に領地と国を護ることだ。婚姻はどうでも良いのだそうだ」
「ええっ!?」
そんなに驚くことなのだろうか。
まぁ、淑女らしくはないかな?
「アシュリーが功績を立て続けていけば、初の女性の爵位持ちが生まれるかもしれないな」
「そ、そういうことですか。アシュリー様らしいですね。では、私などは婿に最適では?」
「「「ブフォッ!」」」
おや、目からウロコだ。
「歳が離れ過ぎですかね・・・アシュリー様が成人したら、30過ぎですから」
「まあ、そういう話はアシュリーが爵位を持てるとなったらだな」
「では、辺境伯様。一応、候補の片隅にでも」
「わ、分かった・・・」
お父様も困っている様子。
でも、私自身は困っていない。
騎士団長が婿というのは願ったりだ!
でも、今はそんなことはどうでもいい。剣術大会が楽しみ過ぎて、心が逸る。今夜寝られるかな〜?
・・・などと思ったが、よく寝た。
早寝早起きがモットーの私は、普通にグースカ寝て、パッチリと目覚めたのでる。
うん、今日も健康!
「おはようございます、アシュリー様。お目覚めになられましたか」
「はい!目覚めスッキリです!」
「それは良かったです。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう!」
クラリッサが着替えを二種類用意してくれている。
「今朝も鍛錬に行かれますか?」
「もちろん行きます」
「では、着替えはこちらを」
朝の鍛錬のメニューは、6歳の頃からほとんど変わっていない。独り黙々と鍛錬するこの時間も好きなのだ。
シャドーボクシングを終え一息ついた所で、ヨアブが飲み物を持って来てくれた。
「お嬢様、おはようございます」
「ヨアブ、おはよう」
「お嬢様、誕生日おめでとうございます。これは些細なものですが、爺からの贈り物ですじゃ」
そう言って渡された物は靴なのだが、いつものより軽い。
「新しい靴ですねっ!軽いです!」
「はい。以前から少し重いと仰っていたので、軽くて丈夫に出来ないかと、お嬢様が王都に行かれてから色々と工夫しておりましてな、先月やっと出来たところで・・・間に合って良かったですじゃ」
「嬉しいです!ヨアブありがとう!」
早速履いてみる。
「大きさはどうですか?ほんの少し大きく作っておきましたが、合いますかな?」
「ええ、ピッタリ!まるで測ったかのようだわ」
「お嬢様の成長はずっと見てきましたから、この半年でどれくらい大きくなるか予想しただけですじゃ」
さすがヨアブ!
靴底のクッション性も上がっている。これは、前世のランニングシューズにも引けを取らないのではないだろうか。
「素晴らしいわ!」
「喜んでいただけて良かったですじゃ。大きさも良いようなので、もう一足作っておきます」
「ええ、是非お願い!」
縄跳びといい、ランニングシューズといい、ヨアブは庭師の域を超えた職人だ!お父様に給金をもっと上げてもらわねば!
朝食の席で、お父様にヨアブの給金アップをお願いしたら、お父様が困った顔をした。
「儂も何度も言ったのだ。その度に断られたがな・・・一度、勝手に給金を上げて渡したところ、多かったと返して寄越したそうだ。何とも律儀な爺さんだ」
なんと、ヨアブは給金アップを望んでいない?
「住む家も、あんな小屋のような所でなく、新しく建てると言ったのも断られた。あの小屋は思い出がいっぱい詰まっておるのだと」
ああ…そうか。
私は物心ついた頃からヨアブの所に入り浸っていた。それこそ、前世の記憶を思い出す前からだ。
「では、冬になる前に補強しましょう!隙間風などが入らぬように、直すだけなら構わないと思います」
「そうだな。それは良い考えだ」
朝食を食べ終えた所で、トーマスお兄様が何か持って来た。
「アシュリー。私からの誕生日の祝いだ」
それはグレンヴィルの騎士服だった。
「騎士団の制服は団長から渡すのが習わしだ。さあ受け取って。そして、今日の大会で着てくれないか」
「お兄様・・・あ、ありがとう・・・」
嬉しすぎて目頭が熱くなる。
どれほどこの制服が着たかったか⋯その意味も含めて認められたかったか。大会で着て良いということは公式でも認められたということなのだ。
「この制服を着る限り、無様な試合はいたしません!グレンヴィル騎士団の名誉にかけて!」
「ああ、頑張れ!」
一緒に朝食を食べていたロッティ先生も、王子達も皆が拍手してくれた。
何故かジェイムズお兄様だけ泣いている。
感無量かっ!
さあ、着替えて闘技場へ行こう。
グレンヴィル剣術大会の始まりだ!




