44話 王族とお茶会
R7/9/18に少し加筆修正しました。
魔術大会のシナリオが完成し、必要な小道具をロバート先生が手配してくれたのだが、音楽を流す魔道具は威力の弱い物しか無いらしい。
こういう困った時はお父様だ!
紋章も頼まなければならなかったので、急いで手紙を書いた。
王子暗殺事件の件は国王からも通達が行っているらしいので、その後の王子の鍛錬のことや、魔術大会出場の件は書いておこう。
なるべく楽しく過ごしている事が伝わる様に。
そうだ、花の種もついでに頼んでおこう。
クラリッサのお勧めも書いておけば、適当に送ってくれるだろう。
これで・・・
そうだ、魔道具に音楽も入れてもらっておけば楽だよな。
お父様ならオーケストラとか呼んで、迫力のある曲を入れといてくれるだろう。
これで・・・今度こそよし!
まだひと月以上あるから、十分間に合うよな?でも、早馬で届けてもらおうかな。
もちろん、支払いは着払いだ!
後は、練習あるのみだ。
毎日闘技場へ行き、イメージを固め実践する。自分で炎を操ったりするのは結構できる様になったが、沢山の土人形を同時に動かすのは、なかなか大変だ。
あっち動けば、こっち揃わず・・・。
もっとイメージを固めねばならない。
何度も何度も繰り返し練習する。
今日はロバート先生も大変そうだ・・・。
「先生、大丈夫ですか?癒し魔法かけましょうか?」
「いや、まだ大丈夫だ・・・」
本当か〜?
目の下に隈があるぞ?
闇魔法で思考を繋ぐ事は随分できる様になったのに、何がそんなに先生を疲れさせているのだろうか。
「いや、心配かけてるんだよな・・・悪いな。私事でなあ」
「私事?」
そういえば、先生の家の事は聞いたことがなかったな。カーネギー伯爵っていうくらいだから、伯爵家の当主な訳だ。
領地も持っているのだろうか・・・それは色々あるだろう。
「何か色々想像していそうだが、息子の魔術大会の為に指導していただけだ」
「息子!?魔術大会!?」
「ああ、この学園の2学年に在学している。今年の魔術大会に出場するらしい」
なんと!ロバート先生には私より年上の息子がいたと。しかも、2学年で魔術大会に出場するという事は、結構な魔術を使えるのではないか?
魔術師団長の息子という肩書はプレッシャーだろう・・・それが、他所の娘にかかり切りとなれば面白くないのは想像できるな。もしかして、奥さんとかにも文句言われたりしてないか?
思わず同情の眼差しを送ってしまった。
「この短時間で何を想像したんだか・・・その憐れみの眼が気になるな」
「いえ、父親も大変だな…と」
「まあ、ほぼ当たっていそうだな」
「でも、息子さんは魔術師団長の息子という重圧に耐えているのでは?その父親は、こんなちっこいのに付きっきりだと思えば腹も立つかと」
「ちっこいの…とか自分で言うな。お前の場合、大きさは関係ないな」
「授業以外でこの闘技場を使わせてもらっているのはかなり特別扱いだと思います。良ければ息子さんも一緒に・・・」
「それはない!お前と練習したら、一発で自信なくすわ!」
「そうですか・・・」
「ただなあ、いけないと思っても、どうしても自分やお前と比べてしまうんだ・・・」
「はぁ・・・」
「それをマシュー…息子に悟られないように指導するのが難しくてな。お前の方が何でも言い放題で気を使わなくて楽なくらいだ」
そういう事か・・・
でもなあ・・・
「ロバート先生。それは間違っていると思われます」
「ん?何がだ?」
「息子に気を使って指導する…という事がです。私はお父様に自分の技術を与えられるだけ与えられて育ちました。それこそ10歳にも満たない少女に与えるものではない厳しいものだったそうです」
「だそうです…って、自分では気付いてなかったってことだな」
「でも、私はそれが嬉しかった!
父のようになりたいと願い続ける子供にとって、与えてくれる厳しさは必要なものなのです!」
「そうなのか?」
「出来なくとも良いのです!いつかできるようになると励む事が必要なのであって、今すぐ結果を求めてはならないのです。
何年もかけて自分のものにしていく喜びもあるのです。その喜びの種と栄養は父親である先生が与えるべきなのです!」
「お前、凄いな・・・鍛錬の事となると」
「はい!私の信念であります!」
「そうか・・・そうだな。
マシューと話してみるか」
「それがいいかと」
翌日。
2時間目のロバート先生の授業の為に闘技場へ行くと、明らかに胡散臭い笑顔の先生と、多分息子だろう生徒が待っていた。
うん、似てるから絶対息子だ。
先生の少年版はそれほど強面ではないようだ。
「おはようございます。ロバート先生」
「ああ、アシュリー・・・おはよう。息子のマシューだ。アシュリーにお礼がしたいと言うので連れて来た」
「初めてお目にかかります。カーネギー家長男のマシューと申します」
何故に敬語?
辺境伯家だからか?
「ご丁寧にありがとうございます。グレンヴィル家長女のアシュリーと申します。お父様には大変お世話になっております」
「堅苦しいなあ・・・」
誰の所為だよ!
「昨夜、父と話をする事ができました。僕…私の気持ちを貴方が代弁してくれたおかげです!」
「そうなのですか?」
「はい!僕…私は」
「僕で良いですよ。出来れば堅苦しい敬語も無い方がありがたいです」
「ははっ!父さんの言う通りだね」
「そうだろう?」
何か私の事を言ったらしい・・・
「僕は父さんみたいに飛び抜けて魔術が得意な訳ではないけど、王宮魔術師団に入るのが夢なんだ!
その為ならどんな厳しい訓練もやりたい。でも、今まで父さんは優しく指導してくれる事はあってもそれだけだった。
僕は期待されてもいないのかとずっと悩んでいたんだ。でも昨日、君が父さんを叱咤激励したと聞いて驚いたよ!そして嬉しかった!」
叱咤激励したつもりはなかったが、結果的にそうなったか・・・。
「父さんが、これから僕にもっと多くの事を叩き込んでくれるって!君のおかげだ、本当にありがとう!」
「いえ、夢を追うのは自分との戦いでもあります。是非頑張ってください!」
うんうん
夢追う少年、いいねぇ・・・。
「僕も君の魔術大会での発表楽しみにしてる!きっと凄いんだろうね。僕だけじゃなく、皆楽しみしてるから頑張ってね!」
「・・・・・・」
そんなに噂になっているのか?
これは期待に応えねば!
本日、光の日はお休みの日。
グレンヴィルから紋章旗と、同じ大きさの布が届いた。
早いな・・・。
手紙が届いたら直ぐに早馬走らせたか?いつまでにあればいいと手紙に書いておくべきだった!
手紙には、魔道具と花の種は後から送ってくれるとある。ありがたいものだ。
今日は朝から大忙しだ・・・クラリッサが。
まあ、私も忙しいと言えば忙しいのだが、立ってるだけとか、座ってるだけなのを忙しいとは言わない気がする。
そう、今日は王宮で王妃とお茶会である!
王妃だけではない。
残りの王族皆一挙公開である!
クラリッサが腕によりをかけて私を着飾らせているのだ。
12歳なのにうっすら化粧もされたよ・・・。
髪はツヤツヤ、綺麗に編み込まれ、花飾りなんかも付いている。
王宮でそのまま騎士団へ乗り込むのは出来そうもない。そんな事をしたらクラリッサに泣かれるだろう。
ロバート先生は我が家まで来てくれて、今度は我が家の馬車に乗り換えて王宮へ行く。
我が家の方が格が上だからだそうだが、そういうの本当に面倒だな・・・。
今日もお茶会などしてくれなくても良いと思うのだ。その辺でちょちょいと挨拶させてくれれば良かったのだ。
「はぁ・・・面倒だ」
「おい!口に出てるぞ!」
しまった!
最近、脳内会話の機会が増え、頭の中の口調が外に出てしまう時がある。王族の前では気を付けねば。
王宮に着き、案内され、豪奢な扉を開けられ、中に入ると・・・
なんと!王族だけでなく、護衛の騎士までズラっと並んでいた。第一と第二の騎士団長がいるという事は、他も騎士団長だと思われる。
何という心遣い!
感謝感激!!
・・・と、感激している場合ではない。
ロバート先生に続き跪く。
「あ〜いいのよ!いいのよ!
もう、そんな改まった挨拶は要らないの」
「「・・・・・・」」
「自己紹介したら席に着きましょう」
「「・・・・・・」」
何か、思ってたのと違うんだが?
気さくな隣のおばちゃんを思い出すような・・・
王妃だよな?
「まずはこちらからね。
私が王妃のクラウディアよ。
はい、次」
「私は側妃のマグダレーンよ」
「私は分かるわね♪第一王女のナタリアよ」
「私も分かるな。第一王子のギルフォードだ」
すまん、名前は覚えてなかった。
「第二王子のオースティンです」
「第二王女のヴィネットです。お会い出来てとても嬉しいです!」
「あ!ずるい、僕も言いたかったのに!
僕もお会い出来てとてもとても嬉しいです!」
な、なんと可愛らしい!!
大きさ的には私とほぼ変わらないのだが…
ついお姉さん目線で見てしまう!
「ありがとうございます!」
「次は・・・そちらにしましょうか。騎士達は後のお楽しみね♪」
ん?私からか?
先生じゃないんだな。
「グレンヴィル家が長女、アシュリーと申します。本日は私のわがままでこのようなお茶会を開いて頂きありがとうございます」
「堅苦しいのは要らないって言ったでしょう?本当にいいのよ。皆がアシュリーに会いたかったのだから、ありがたいのはこちらよ♪」
「私も自己紹介を?」
「ふふっ、ロバートは全員顔見知りね。座ってちょうだい」
丸い大きなテーブルを囲んだ席に腰をおろす。ちょっと椅子が高いので座りにくかった!
「さて、まずはお礼を言わせて欲しいわ。あなた達、特にアシュリーには息子のギルフォードの命を何度も何度も救ってもらったわ!お礼だけでは足りないのよ・・・」
「いえ、そのお気持ちだけで十分です」
「そう聞いてはいるのだけど、私の言葉で伝えたかったの。本当にありがとう」
「はい!しかと伝わりました!」
気持ちの良い王妃だな。
「では、お待ちかねの騎士団長よ!」
「はい!」
「ふふっ目が正直ね♪」
しまった・・・。
顔に出すぎたか。
「一度お会いしておりますが、第一騎士団長のモージズ・ハンティントンです。次は是非一戦を」
「はい!是非とも!」
皆が驚いている様だ。
驚いてないのは、見知った数人だけだ。
ん? 一人知らない人でも驚いてない人がいるな。騎士ではなさそうだが⋯。
「私もよく知っておられると思うが、第二騎士団長のデュラン・コークです。私とも、また是非」
「はい、是非!今度はもっと楽しませて差し上げます!」
「ははっ!相変わらず頼もしい」
皆の目がまた一段と大きくなったか?
「えーと・・・お初にお目にかかります。第三騎士団長のゼイヴィア・ルイーズです。私とも、一戦?」
「ははっ!ゼイヴィア、別に一戦は挨拶ではないんだよ。我々は既に約束しているのだ。まあ、アシュリー様は喜ばれると思うがな」
「はい!お時間いただけるのでしたら、是非!」
「はあ、機会があれば・・・」
「では、次は私かな?第四騎士団長をやっとります、サイモン・ダドリーと申します。実家ではグレンヴィル辺境伯には大変お世話になっております。宜しければ、私とも一戦交えて頂きたい」
「ええ!是非ともよろしくお願いいたします」
ダドリーはグレンヴィルの3区を護る伯爵家だ。強いはずだ!
「私は第五騎士団長のミッチェル・ボディアと申します。覚えていないかもしれませんが、ティファニーの婚約式で一度会ってます。一応、アシュリー様の義理の兄になりますね♪トーマス殿とは同級生で、よく貴方の自慢をされました。私とも是非一戦お願いいたします」
「はい!是非お願いいたします!」
そうか!ティファニー様の双子の兄というのが第五騎士団長なのかっ!知らなかった・・・でも、お兄様の友達のボディア様としてなら何度も聞いた事があるぞ?強いはずだ!
これで第五騎士団まで全員の騎士団長と会えた!
あと一人紹介されてないのは誰だ?
「最後は私ですね。これだけ騎士団長の方々に目を輝かせていらっしゃる所に申し訳ない気持ちでいっぱいです・・・」
申し訳ない?
「私、宰相のリチャード・ハミルトンと申します。以後お見知りおきを」
「宰相様でいらっしゃいましたか。これまで他の方とは違う反応をされていましたので・・・納得ですわ!」
その表情に感情を出さない素晴らしさ、見習わなければ。宰相をしているくらいなのだから、出来る男に違いない!
「あら、アシュリーはリチャードにも興味ありそうよ?」
「出来る人間が分かるんじゃない?」
・・・バレてる?
というか、王族の人達はどうも私の人となりを理解している気がする。これはやりやすいのか、逆にやりにくいのか・・・分からん!
まあ、なる様になるだろう。
フォローはロバート先生に任せた。




