388話 離島研修⑬ 島の格闘技
すっごいたくさんアワビを採ってもらった。
アワビだ!
前世では高くてなかなか食べられなかったアワビ。
今世では市場に出回っていなかったアワビ。
見た目がキモいので、誰も食べられるとは思わなかったのか、モントローズの近隣の海では生息していないのか分からないが、これまで見た事がなかったのだ!
それがこんなにたくさん!
何にしようかな〜♪
「アシュリー嬉しそうだな」
王子の乗っていた舟も戻って来たようだ。
後ろからデヴィッド君達も来るので、どんどん舟は戻って来ているのだろう。
「はい!嬉しいです!」
「・・・これは食べられるのか?」
王子とレイトンが乗った舟の獣人が採ってくれた物にもアワビが混じっていた。やっぱり見た目がグロテスクなので引いているようだ。
「はい!美味しいです!」
「へぇ〜・・・」
さすがのデヴィッド君もちょっとアワビに引いている気がする。
「アシュリーはよく知ってたね。僕は初めて見る…貝?これって貝なのかな?」
ん?
こ、これはもしや、まずい状況かもしれない。
モントローズの誰も食べないものを私が知っているというのは・・・。
「アシュリーはさっき『あわび』とか言ってた」
オスカル、余計な事を!
ますますやばい!?
名前まで言ってしまった!
えーと、えーと・・・アワビの名前の由来は、確か・・・
「貝の殻が片方しか無くて『合わない』のと、この辺が『ビロビロ』しているので『アワビ』と名付けました!」
本当の由来とは違うだろうが、まぁ良い。
「へぇ〜!アシュリーが名前付けるくらい喜んでるってことは美味しいんだ♪」
ご、誤魔化されてくれたか?
「どこで食べたんだ?」
「モントローズでも採れるの?」
うっ・・・誤魔化されいてない。
「お嬢様が2年前に初めてコーク領に行った時です。初めての海にはしゃいだお嬢様は、私達が止めるのも聞かずくろべえさんに乗って海の中へ潜って行きました」
ヘクター!
「アシュリー様がアワビと名付けたこの貝は、海の底の岩にくっ付いていた物ですので、海に潜らないと採れないと思います。それにこの見た目です、モントローズでは誰も食べようなどと思った事がないのではないでしょうか」
クラリッサも!
「私達も最初はアシュリー様が食べるというのに驚きましたから・・・」
「止めても言うこと聞きませんし・・・」
言い方が少々気になるが、二人ともナイスアシストである!!
「野生児かっ!グレンヴィル家は食料不足なのかっ!?」
「アシュリーらしいね♪」
「本当に徹底してんな!」
「この島の人達も好きなようだから、アシュリーの選択は正しかったって事だな」
「では、コーク領の海でも採れるのでしょうか」
ギクッ!
ローラの疑問は尤もである。
だが、それは断言できない。
「多分採れると思います」
クラリッサ!
言いきってしまって良いのか?
「でも海の底まで潜れる人がいないと駄目ですね」
「深さにもよるけど、息が続かないなぁ・・・」
海人さんのように訓練したら出来るぞ。
い、いや!
出来なくて良い!!
海に出ていた全部の舟が戻って来たら、すごいたくさんの魚介が集まった。
アワビだけではない
名前の分からない貝も
見たことがない魚もいる
海藻も・・・
ん?こ、これは海ぶどうかっ!?
しかし・・・
多すぎるっ!
「これはさすがに我々だけでは食べきれないな」
「多すぎるお礼だよね♪」
「島の人達全員で食べてもいいくらいじゃねぇ?」
「島の皆さんにもお返しした方が良いのではないですか?魚介は新鮮なうちに食べないといけませんし・・・」
ローラの言う通りである。
「クラリッサ、少々多すぎるので島の皆さんにも…」
「いえ、大丈夫なようです」
どういうことだ?
「島の人達も採り過ぎたと言っています。これは多分・・・」
「「「多分?」」」
「宴会が始まります」
またかっ!
「ははっ!好きだな〜!」
「この島の人達らしいね♪」
「フフッ♪今度は海鮮料理で宴会ですね」
あれよあれよと村の人達が集まって来て、宴会の準備がなされていった。
さすが、行動が早い!
この島にはあまり砂浜はなく、ほとんどが岩礁である。その少ない砂浜近くに村があるのだ。
砂浜といっても、それほど広くはない。
「本当に獣人って身体能力高いよな!」
「あぁ、私も驚いてばかりだ」
「舟に乗るって時もびっくりしたよね!」
「あれなっ!舟って海岸にあるものかと思ったら、海岸まで担いでくんだからよっ!」
「コークの海岸とは様子が違うので、ここの海は波が荒いのではないでしょうか。海に流されないように大切にしているのでしょうね」
そうか!
岩礁ばかりなのもそのせいか。
「もっと丈夫な大船を造ればいいのに…。あんな揺れる舟じゃ・・・」
「オスカル様は溺れそうで怖かったんだ♪」
「そ、そんなことないよっ!」
「必要ないのではありませんか?あのような小舟でこれほどの漁が出来るのです」
この島の人達が暮らすだけなら十分だ。
無理に沖へ出れば・・・ボディアの海に流れ着いた人達のようになる。
《おーい!アシュリー達ー!》
「呼ばれていますね、行きましょう!」
呼ばれて行ってみると、平たい籠や器に先ほど採って来た魚介が種分けして並べてあった。
どれも山盛りだ。
《どれが食べたい?》
《好きな物どれでも選んで!すぐに調理するわ》
どうやら食べたいものを聞いてくれているらしい。
それはもちろん・・・
《これ!》
アワビである!
「私も食べてみたいな」
「僕も〜♪アシュリーがそんなに気に入ってるのなら食べてみたいよね!」
結局、皆してアワビを選んだ。
《ははっ!美味いものは知ってるんだな!》
《ちょっと仕込みに時間がかかるから、待っててね。作ってる間、子ども達の「シマ」でも観ててよ》
指をさされた方を見ると、島の人達が集まって何やら始めるようだ。
「クラリッサ、彼女は何と言ったのですか?」
「私にもよく分かりませんが、子ども達の『しま』を観てと言っていました」
ふむ・・・
すると、ワーワーという騒ぎ声がして来た。
歓声というか、声援というか
何かのスポーツを観戦しているような…。
そうか!
子ども達の『しま』とは、きっと格闘技の名前だ!
二人が腰紐を掴み合ってから始めるのか・・・日本の大相撲とは随分違いそうだが、相撲に一番近そうである。
私から見れば子ども達って大きさではないが、島の子ども達はこうして力比べをしているのか。
ネズミの相撲ならぬ、
ネコの相撲か。
私も餅を食べたら勝てるだろうか。
「俺も仲間に入ってくる!」
「兄上?」
「獣人と力比べ出来るんだぜ!」
「簡単に負けそうだけど…」
「いいんだよ!」
仲間に入って行ったムハンマドは、手振りでルールを説明してもらっている。
どうやら、背中?いや、両肩を地面につけたら負けのようだ。
ムハンマドは同じくらいの大きさの獣人と向かい合い、腰を落としてお互いの腰紐を掴んでいる。
《始め!》
獣人達と我々の歓声が飛び交う中、ムハンマドは結構頑張っている。力では到底勝てないのだが、ムハンマドもある程度は戦い慣れているのだ。
しかし・・・
《ボンブの勝ち!》
「あ〜!やられたな。ありがとうございました!」
「ムハンマド、よく頑張ったな!」
「すぐにやられるかと思ったのに♪」
「動きが分からないわけじゃないからな…でもすげー力だ!やっぱり勝てねーか・・・」
「私も行って来るかな・・・」
「ギルフォード様、頑張って〜♪」
王子も挑戦しに行った。
相手は王子よりひと回りほどデカい。
だが、王子も健闘した。
途中で相手が焦り始めたくらいだ。
結局、相手の馬鹿力で釣り上げられて負けてしまったが…。
「ギルフォード様、惜しかったな!」
「あぁ、足が少しでも離れたら負けだ。彼らの力には勝てない」
「アシュリーなんて片手で持ち上げられるな」
「「「確かに…」」」
その通りだと思う。
こういう力比べっぽいものではない格闘技はないのだろうか。
これは力をつけて行くための遊びや訓練であって、格闘技として戦っているわけではない感じがする。
あくまで敵は人以外であり、人同士で戦うという概念がなければ格闘技など生まれないのかもしれない。
私が長老とただ力比べをしても負ける。
剣術だったら多分私が勝つ。
分からんが・・・。
もっと自由な、身体能力を使いまくった格闘技で戦いたいのだ。
「今度は大人が出てきたようだ」
え・・・?
王子は大人と子どもの違いが分かるのか!
「さっきのとは違うみたいだよ…始め方が違う」
本当だ。
向き合っていてもお互いに触れてはいない。
《始め!》
これは・・・
空手?
「おぉ!!面白いっ!『ミル』とは違うけど面白そうな武術だぜ」
「どこか、ヘクターさんの武術に似ていますね」
カンフーと空手では随分違うのだが・・・ローラには似て見えるのかもしれない。
だが、長老はこの空手っぽい格闘技でもトップに君臨していると思われる。ならば私と一戦交える事も『有り』だ!
「僕、入れてもらって来る!」
「おぅ!頑張って来い」
「デヴィッド様、頑張ってください!」
うん、デヴィッド君なら十分戦えそうだ。
ヘクターも行けばいいのにと思ってヘクターを見ると・・・
「行きませんよ」
行かないらしい。
何でだ?
デヴィッド君の相手はデヴィッド君より随分と大きい。トーマスお兄様くらいだろうか。
ルールは、技を一本決めるか相手のダウンを奪うかのようだが、技を知らないデヴィッド君は少々違っても良いらしい。手か足がバッチリ決まれば良いとのこと。
「よろしくお願いします!」
獣人の挨拶は軽く頭を下げるだけのようだ。
《始め!》
獣人が鋭く突いて来るのを次々といなすデヴィッド君に、観ている獣人達も歓声をあげている。
《デヴィッド!やるなぁ!》
《ノルン行け!そこだ!》
《ああ〜!何やってんだよ!》
相手の攻撃を見極める事が出来れば、例え力の差があろうと負けはしないはずだ。
デヴィッド君頑張れ!!
獣人の力強い突きや蹴りに比べるとデヴィッド君の動きはとても柔らかく、一見相手にダメージを与えているようには見えないが・・・
ビュン!
ガッ!
決まった!
今のは決まったぞ!!
《うっ・・・》
思った通り、相手はガクッと片膝を突いた。
多分足にきたのだろう。
《1本!デヴィッドの勝ち!》
「やったな!」
「デヴィッド様!」
「デヴィッド、すごいぞ!」
「あの獣人に勝った・・・やっぱりデヴィッドって強いんだな」
オスカルがデヴィッド君の強さに驚いている。
《うぉー!!》
《すげー!!》
《ノルン、だらしねーぞ!》
《う、うるせぇ!お前らも戦ってみろよっ!》
《よし!俺が行く!》
《行けー!タモタモ!》
《まかせとけ!》
タモタモ…名前に緊張感はないが、さっきの獣人より強そうなのが出て来た。
「僕が続けて戦っちゃっていいの?」
《俺は誰でもいいぜ!》
「ヘクター!行くのです!」
「もう!お嬢様・・・」
「ヘクター行くんだ!大陸の意地を見せてくれ」
「行け行けー!」
「もう!仕方ないですね…」
王子やムハンマドにまで言われて、しぶしぶヘクターが出て行った。
《ヘクターか・・・》
タモタモはちょっと怯んだようである。
ヘクターの方がデヴィッド君より強いって分かるのだな。
「よろしくお願いします」
《始め!》
《《《タモタモーー!!》》》
「「「ヘクター!!」」」
すごい歓声だったが、勝負はすぐに決まった。
目にも止まらぬ速さで手が動いたと思ったら、ヘクターの上段蹴りが一発決まったのだ。
《1本!ヘクターの勝ち!》
《《《うぉーーーー!強いっ!!》》》
「「「やった!!」」」
「ヘクター!やりましたねっ!」
「彼らは一手一手に力を込めすぎです。そういう格闘技なのでしょうか」
「多分、そうなのでしょう」
「当たればかなりの衝撃でしょうが、当てられなければ良いのです」
「ヘクター・・・簡単に言ってくれる・・・」
「デヴィッドがヘクターの方が強いって言ったのがよく分かったよ・・・本当に強いんだな」
「でしょ!剣術でも僕は勝てないよ♪」
「ふーん・・・」
オスカルの視線がヘクターに突き刺さる。
「もう・・・私もお嬢様には勝てませんよ」
「アシュリーはどんだけ強いんだよ!」
「しかし・・・多分、長老には・・・」
《アシュリー!》
ん?
ダロンが私を呼んでいる?
来い来いと言っているようだ。
《アシュリーはヘクターより強いんだろ?だったら俺が相手になるぜ!》
どうやらダロンが私と組手をしてくれるらしい。
望むところだ!
《お願いします!》
《よっしゃ!》
《始め!》
ダロンはお父様と同じくらい、つまり私の1.5倍だと言っても良いくらいの大きさだ。
手足の長さも随分違う。
だが、ヘクターの言った通り、彼らは一手一手に力を込めてくる。
真っ直ぐに・・・。
申し訳ないが、空手の戦い方に合わせるつもりはない。
ガスガス!
ヒラリ…
《は・・・?》
ジャンピング三段回し蹴り!
バババシッ!!
《1本!いや、3本!?とにかくアシュリーの勝ち!》
《は、速いっ!》
《《《う、うぉーーーー!!》》》
「「「アシュリー!やったーーー!!」」」
「アシュリー!素晴らしいです!」
「す、すごい・・・見えなかった・・・」
《アシュリー、強ぇなあ!》
《あんなちっこいのによぉ!》
パンパンパン!
《アシュリー、どれだけ鍛えてきたんだい。素晴らしい跳躍力と速さだ。うちのダロンが瞬殺されたよ》
ラスボスの登場だ!




