05
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「これはまたとないチャンスなのですわ!」
「は、はあ」
わかっているのか、いないのか。トールヴァルドは碧色の瞳を白黒させていた。そこへ今まで消沈していたリキャルドが口を挟んでくる。
「だがすでに父さんたちが学園にきてしまっているんだぞ」
「だからこそです。わたくしの侍従が暴漢役になりますので、リキャルド様はフィーナ様のことをお守りください」
リキャルドを奮起させようとした言葉にフィーナが反応する。
「フィンさんが?」
ソフィーはフィーナを安心させるため、朗らかに笑った。
「ええ。何も心配はいりませんわ。フィーナ様はリキャルド様に身を任せるだけでよいのです」
「俺が必ず君を守るから」
「リッキー」
またもや二人の世界に入ろうとするフィーナたちをトールヴァルドのほんわかとした声が引きとめる。
「なるほど。だから彼はどこかへいかれたのですね」
トールヴァルドが得心したと言うようにポンと手を叩いた。
「変装か何かしてくるのだと思いますわ。さあ、皆さま。早くご両親様のところへ参りましょう。フィンの方が先についてしまったら大変です」
ソフィーが冗談交じりに言うと、強張っていたリキャルドたちの顔が少しだけ緩んだ。
「そうだな。必ず父さんたちに認めてもらおう」
「ええ」
リキャルドがフィーナの手を取り歩き出す。ソフィーもトールヴァルドとあとへ続き、彼らの両親が待っているであろう塔の外へ向かった。
※※※
「「リキャルド!」」
「「フィーナ!」」
ソフィーたちがカフェのある教員塔を出るとすぐに声がかかった。二組の男女がいる。彼らがリキャルドとフィーナたちの両親なのだろう。
(リキャルド様はお父様似でいらっしゃるのね。お顔がそっくり)
ただ、茶色の長方形眼鏡のせいか。リキャルドとは違い、父親の方は冷たそうな印象を受けた。隣には子どもを産んだようにはまったく見えない可憐な女性が、リキャルドとよく似た瞳を潤ませている。その少し離れた所には、切れ長の瞳に上品ですらりとした男性と、トールヴァルドと同じ猫目の女性がフィーナたちの出方を窺っていた。
(フィーナ様とトールヴァルド様はよく似ていると思っていたけど、ご両親を見ると違うのね)
どちらかといえばフィーナの方が父親似で、トールヴァルドが母親似になるのだろうか。ソフィーはトールヴァルドの背中に隠れる形で二組の夫婦を観察した。
(これってなんだかトールヴァルド様に守られているみたいじゃない?)
少し華奢だが自分よりもはるかに大きな背中が目の前にある。これが物語でよく登場する、恋人に守られる主人公の立ち位置なのだろうか。
(やっぱりトールヴァルド様がわたくしの運命のお相手……)
ソフィーは場違いにも心を躍らせた。
「リキャルド・メリーン! うちの娘に気安く触れないでもらおうか」
フィーナの父親が前に出た。だがリキャルドは耳を貸さない。それどころかさらにフィーナを引き寄せる。
「リッキー、お前は何をしているんだ。お前が構うような娘ではないだろう。早くそんな娘は放してこちらへきなさい!」
「そんな娘とはなんですか、アルノルド・メリーン! 勝手に娘の肩に触れているはそちらの息子でしょう。汚らわしい!」
フィーナの母親が毛を逆立てた猫のようにリキャルドの父親、アルノルドに牙を剥けた。それに対し、今度はリキャルドの母親が怒りを露わにする。
「カリーナ・シェルマン! あなたの目は節穴ですか。よくご覧なさい。お宅の娘が、リッキーの手を掴んで離さないのです!」
愛らしい顔立ちとは裏腹に血の気が多い女性らしい。リキャルドの母親は、今にもフィーナの母、カリーナに掴みかかりそうな勢いだ。
(それにしてもあの人たちは服の色が違うのね)
袖口が広いなど、形こそは同じようだが生地の色味や刺繍の模様がまったく異なっていた。
(ユグドラシルの育成に関わっている人たちだからかしら?)
自分たちが着ている黒地に幾何学模様の刺繍に対し、彼らは緑系の生地にユグドラシルの葉や花を象った刺繍がされている。それだけに、ユグドラシルに対する彼らのプライドの高さが感じ取れた。
「父さん、母さん。うちとシェルマン家が仲違いしているのは知ってる。でも俺はフィーナが好きなんだ」
子どもそっちのけで睨み合う親たちを見て、リキャルドがついに声をあげた。
「リッキー、あなた自分が何を言っているのかわかっているの?」
「お父様、お母様。申しわけございません。お父様たちから反対されるとわかっていました。でも……でも、わたくしもリッキーのことが諦められないんです」
リキャルドへ近寄ろうとする彼の母親を遮る形で、今度はフィーナが口を開いた。ぎゅっとリキャルドの手を握り締め、フィーナは熱の籠った眼差しをリキャルドへ向ける。その姿に彼の母親が鼻を鳴らした。
「ああ、そういうことね。リッキー、あなたはヨセフィーナに騙されているのよ。優しいあなたのことだもの。その娘の演技にまんまと引っかかってしまったのね。可哀そうなリッキー」
「何をバカなことを。騙されているのはフィーナの方よ! フィーナ、怒らないから本当のことを言ってちょうだい」
「お母様、わたくしは本当のことしか」
「まさかリキャルドに脅されているのか? なんて卑怯な」
フィーナの言葉を最後まで聞かずに、彼女の父親が口を挟んだ。フィーナが悲しそうに眉を下げた。
「違います、お父様。わたくしは本当にリッキーのことが」
「リッキーがそんなことをするわけがないだろう! むしろうちの息子の方が被害者だ! そうなんだろうリッキー?」
今度はアルノルドがフィーナのセリフを遮った。それにリキャルドが言い返す。
「父さん。俺は騙されてもないし、脅されてもいないよ」
(なんてこと……。ここまでフィーナ様やリキャルド様の話を聞かないなんて)
今まで彼らがなぜ両親に打ち明けられなかったのか、これでよくわかった。
(だからこその暴漢者に襲われる作戦よね!)
長年抱いてきた感情を真逆に変えるにはこのくらいの荒療治が必要だ。幸いにも子どもたちに愛情はあるみたいだからきっと上手くいく。
(そろそろフィンの用意は終わったかしら?)
ソフィーは侍従の姿を捜そうと周囲を見渡した。しかし、それらしい人物は見あたらない。
(まあ、仕方ないわよね。急なことだったし……)
ソフィーは言い合いを続ける二組の夫婦を眺めながら暴漢に扮した侍従の登場を待つことにした。ふいに、目の前が開かれる。いつの間にかトールヴァルドが諍いの場へ躍り出ていた。




