三
他に二軒の寺を廻ってから、太助と根吉は大川で小舟をつかまえ、深川まで下った。小名木川を高橋を過ぎてしばらく入り、そこで陸にあがる。
下屋敷を二軒廻って、玄関を出たところで馬道の武佐蔵に出くわした。
「いけねえ、忘れ物を……」
くるりと反転、屋敷に戻ろうとする太助と根吉に背中から、
「待ちやがれ、てめえら色吉んとこの若い奴らじゃねえか」
と武佐蔵が声を浴びせた。しかたなくふたりは振り返った。
「やれやれ、またあんたか」
「こっちのセリフだ!」
「おいらは色吉の子分でもなけりゃ、若くもねえですぜ、馬道の……旦那」
「武佐蔵だよ、んな細けえこたあいい、こんなところでなにやってやがる」
「なにって、天下の往来、なにやってようと勝手じゃねえですかい」
「なにい、また縄張り荒らしやってんじゃねえだろうな」
「荒らしもなにも、ここいらあ旦那の縄張りでもねえでやしょう」
「ぬかしやがれ、まえにも言ったが、御府内まんべんなく宇井野様の縄張り、てこたあ俺の縄張りよ」
「んで、そんな縄張りの広い馬道の……旦那のほうこそこんなとこで何やってなさるんで?」
「武佐蔵だよ。そうだ、俺ぁ忙しいんでえ、てめえの相手なんざしてる暇はねえのよ」
武佐蔵はてけてけと去っていきかけたが振り返って、
「いいか、縄張り荒らすんじゃねえぞ」
と言い残して去っていく。
「浅草じゃあ出てこなかったんで、幸先いいって喜んだんですがねえ」
太助と根吉はあっけにとられて武佐蔵の背中を見送った。
待たせておいた小舟に乗りこむと、大川を逆に渡り八丁堀を抜けて三十間堀を南に、汐留橋あたりの河岸で陸にあがった。そこから徒歩で青山で武家屋敷をひとつたずね、今日の最後の訪問先である麻布の武家屋敷をおとずれたころにはもうあたりは真っ暗だった。
麻布から汐留橋まで戻るときには、根吉が提灯をさげて先導していた。
舟は大川をさかのぼり、神田川に入った。佐久間河岸で降りる。
船頭が「ちぇ、ずいぶんと遅くなっちまった」などと不平を言うので少しはずんでやると、とたんに「こいつはどうも」と上機嫌になった。
根吉を先導に夜道を歩きだす。




