十四
夕刻、色吉が太助の長屋にいくと、ちょうど根吉と卒太もいた。
「やれやれ、ひでえめにあったぜ。馬道の、あのなんとかいう親分につかまっちまって、さんざん絞られたぜ」
「そいつは申し訳ねえ、余計なことをしちまったかな」
「そんなことはねえ、おかげで店の者をじっくり調べられたぜ。途中で奴や宇井野様が来てたら、体よく追っ払われてたろうからな」
と色吉が言うと、太助もうなずいて、話を引き取った。
「ところでおめえ、話は変わるがよ、こっちは番頭について、ちいと面白い話を聞きこんできたぜ」
「番頭の文造か……面白い話ってなあ、なんでい」
「あの野郎、石部金吉づらして囲いもんがいるのよ」
太助の話によると、文造は店からそう遠からぬ本銀町にお鶴という二十をいくつか越えた女を囲っているとのこと。
「本銀町っておめえ、ここから浜門屋に行く途中じゃねえか。なんなら、店よりもこっちのほうが近いんじゃあねえか」
「おうよ。ご近所のよしみで、いろいろ話を聞いてきたぜ」
「待て待て、先走んねえでくれ。そもそもよくそんな女、昨日の今日で見つけやがったな」
「おいらたちは葬儀の手伝いをしてた店の連中を当たってたんだがよ、そんなかで小僧の清七ってのが話してくれたのよ」
清七はよく使いに出されて外を歩きまわっていたから、たまに番頭が女のところに出入りするのを見かけていたらしい。まだ年若く、気も小さいところのある清七はみて見ぬふりをしていた。
もちろん文造は独り身なのだから妾、というのもおかしいが、しかし番頭が浜門屋の婿入りするというのは店の者は皆知っていたし、そうなると将来の店の主になると目されている番頭に清七ごときが意見などできようはずもなかった。
「このお鶴ってのもそれほど頭のはっきりした方でもねえから、ちいと諭してやったら素直にいろいろと話してくれたぜ」
太助の言うところの諭すとは十手をちらつかせながら脅したりすかしたり、ということである。
三年ほどまえ、お鶴の父親の借金を文造が片付ける代わりに、身を預けることになったとのことだった。
お鶴のことはもちろん文造は秘密にしていて、それは時に色町で女を買うことがあっても、忠兵衛としては黙認もしようが、さすがに外に妾など囲っているとなると婿取りについても考えをあらためかねないだろうから当然のことだろう。
「このお鶴ってのがまた体は豊満なわりに顔のほうはよよと崩れそうななんとも儚い雰囲気、見るからに男泣かせの、まあとにかくなんともいい女でよ、番頭が三日と開けず通ってるというのも無理もねえ」
色吉はしばらくなにか考えこんだ。
「ふうむ。それで、新吉のほうはどうだえ。なにか出てきたか」
「そいつについちゃあ、番頭の言ってた通りの評判だな。柄も大きく顔もまあまあ、見た目はいいがぼんやりで、しょっちゅう店主や番頭に叱られ、小言を言われ、説教されてたそうだ。馘首になるのもまあ無理からねえ、ってのはみんな口をそろえてたぜ」
女中頭のお登和が言う。
「まあ、あんまり人のことを悪くは言いたくないけど、あのひととにかく鈍なんですよ。いろんなものを落として壊したり、お客様を案内してるときに転んでみたり。帳簿もよく間違ってたし、むしろ番頭さんもよくこれまで我慢した、ってなくらいですとも」
「うーん」
色吉は腕を組んでまたしばらく考えをまとめ、それから太助たちに向かって口を開いた。




