十三
色吉が卒太の長屋を訪れたのはもう四つ半になんなんとするころだった。太助たちはまた卒太の部屋でも呑んだらしく、狭い部屋の畳のうえで雑魚寝していた。傘をすぼめ、落ちた水けを払いながら、
「おい、起きてくれよ。うっ、酒くせえ、これじゃあ役に立つかどうか……」
「この野郎、こんな時分にやってきて役に立つの立たないの、勝手ばかりぬかしてるなよ」
「なんでえ、起きてたのかよ」
「いま起きたんでえ。おめえが起きろっつったんだろうが」
「そいつはすまねえな。で、動けそうかい」
「伊達に毎晩深酒してるわけじゃねえ、今夜はこれで抑えてたほうよ、素面も同然だ」
根吉と卒太も起きあがってきた。
「頼もしいこった、よろしくたのむぜ」
爺さんの戸のまえで、卒太が小声で声をかける。
「則兵衛さん、則兵衛さん、夜分すまねえが、急用なんだ」
返事はない。
「爺さん……おい、寝てんのかい、すまねえが開けるぜ」
戸を開けて中を覗きこむ。
「則兵衛さん……じゃまするぜ」
卒太は部屋に入って、それからすぐに表に顔を出した。「いやせんぜ、空っぽでさ」
通路に控えていた色吉たちもなかに入った。
なるほど、畳は新しくなっていたが……
「ひでえ臭いだな、床ずれか」
太助が鼻を押さえる。
「爺さん、このところ出歩いてるんだろう、床ずれはねえんじゃねえか。だけどボロ雑巾みてえな煎餅布団だな」
色吉は敷きっぱなしだった布団をまくり上げた。
「お香がきれてやすぜ」
根吉が神棚を指して言った。
外はあいかわらずじとじとと雨が降り、まだまだ残暑も厳しいおり、狭い部屋のなかは蒸してきて、臭いはますますひどくなるようだった。
色吉は鼻をひくつかせそこらを嗅ぎまわっていたが、煎餅布団をどけて畳に手をかけた。太助に手伝わせて引っぺがすと、床板を何枚かめくった。
「見ろよ、土がちいと盛りあがってる。なにか埋めてあると見たぜ。ん、なんだか妙な落書きがあるな」
色吉の言う通り、床下の土には丸と三角と四角を組み合わせた妙な図形と異国の文字らしきものが刻んであった。
蝋燭の灯りのもと、鍬をもった色吉と太助は床下の土を掘り返していった。根吉と卒太は土をよけるのを手伝う。四人とも無言で、ざくざくいう音だけがしていた。
「なんか出てきたぜ」
一尺ばかり掘り下げたところで色吉は鍬を放りだし、手で土をかきはじめた。太助もそれに倣う。
「う……おいおい、こりゃあ……勘弁してくれよ……」
しかし文句を言いながらも太助は掘り続けた。
あまりの臭気に全員手拭いで鼻からしたを覆った。ただでさえ汗だくだった顔がさらに汗まみれになる。頻繁に拭わないと、汗でまえが見えない。
掘り起こしたときには、四人とも汗と土にまみれて真っ黒になっていた。
「お良婆さんだな」
「だいぶ傷んでるみてえですが……そうのようでやす」
いちばんよく知っている卒太が、掘り起こしたものの顔らしきところにおのれの顔をくっつけるようにして確かめた。
「で、どうする」
「例の神社――馬子神社に行ってみるとしようぜ」




