五
「おめえのダチのあの銀明亭六陸って芸人だがよ」
太助が言った。
「ダチはよしてくれよ」
色吉が言った。
「ひところはずいぶん景気が良かったようだがよ」
柳原堤下の小料理屋でふたりは差し向かっていた。太助の子分どもは少し離れた席にいた。
「ここしばらく会ってねえぜ。そうだ、思い出してみりゃあの喧嘩騒ぎが最後だ。あんときゃあんたもいたじゃねえか」
「ちっ、あんたもいたもねえもんだ、おいらが助けてやったんじゃねえか」
「おう、あんときは助かったぜ、ありがとよ」
「ありゃいつだ、まだ夏まえだったな」
太助は気をよくして話を戻した。まったく単細胞は助かる。
「たしかそんなもんだな。あんたと知りあってすぐくれえだった」
いまはそろそろ十五夜の月見を迎えようという季節だ。
「会ってねえどころか評判も聞いてねえのか。最近はすっかり落ちぶれたもんよ」
「落ちぶれた、って……あれからまだたったの三月もたたねえじゃねえか」
「そこがそれ、お江戸のおっかねえところよ。なにしろ生き馬の目を抜く、ってな」
実は色吉も近頃六陸が冴えない、という話は風の噂に聞いてはいた。聞いてはいたが、奴とはひと悶着あったし、いまさら気にかけてやるのも業腹だ。だからそこからさき、突っ込んだことは調べもしていない。
「ふん、そうかい」
「気になるか、え」
「別に、おれにぁ関係のねえこった」
「へ、無理すんなよ、いっときはずいぶん気易かったようじゃねえか」
「あいつのほうがなれなれしくしてきやがっただけで、おれぁ別に、そんなつもりもなかったけどな」
本音だった。色吉は情に厚いところもあったが、一方でひどく冷淡にもなれる男だった。
「まあとにかくよ、やつの小屋の近所に新しく、西国からやってきたつうふれこみの曲芸小屋ができてな、そこの曲芸が評判なのよ」
「ああ、それなら今度、旦那の一家が見にいくようなことを言ってたぜ」




