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出立

「というわけで、オレはしばらく暇になったわけだ。食い倒れ万歳! さあ、行くぜ!」


 ムウルはカシュールカの首に手を回した。


「そう易々と二人きりになれると思うなよ」


 カシュールカの耳元で囁く。

 カシュールカは苦笑した。

 やっぱりそういうことか、と心の中で呟く。


 ミイは、仲の良さそうなカシュールカとムウルを見ながら、大勢でする旅も楽しそうだな、と思う。

 なんせ、自分をはじめカシュールカもサクも、いまいち役に立つとは言いがたい面子なのだ。

 その点、ムウルが多方面にわたって役に立つのはこれまでの経験で実証済みだ。

 きっと、随分と楽ができるに違いない。


「ムウルも一緒だなんて……楽しくなりそうね」


 まさか便利で嬉しいわと言うわけにもいかないので、言葉を選んで告げる。


「だろ? さあ、最初の目的地はどこだ?」


 ミイはカシュールカとムウルに続いて家を出た。

 振り返り、家の中を一望する。

 ほんの僅かな時間だったけれど、この家には愛着がわいてしまったようだ。


 きっと、いつかまたここに戻って来よう。


 そう思いながらミイはドアを閉めた。


 振り向くと、サクが待ちくたびれたと文句を言いながら酒をあおっていた。

 その先に人影が見えた。

 何やら叫びながらこちらに向かって走ってくる。

 黒い服を着たあの男たちは……。


「ボニー商会の連中だわ!」


「何!? あいつらか? 性懲りもなくまたミイを狙って来やがったのか! よおし、俺が片付けてやるぜ」 


 ムウルが袖を捲り上げた。


「馬鹿、わざわざ面倒起こすなよ。逃げるが勝ちだ」


 カシュールカは即座に踵を返し、ミイの手を取った。

 カシュールカの手は、暖かくて力強くて、ミイをほっとさせる。

 その手を握り返し、ミイはカシュールカと一緒に走り出した。


「行こう」


 サクはムウルの肩をぽんと叩いて声をかけると、ムウルを置き去りとっとと逃げ出す。


「あっ! おい、待てって!」


 ムウルは背後の連中を気にしながらも慌てて三人の後を追う。


 ミイはカシュールカを見上げる。

 カシュールカは走りながら笑っていた。


 後方からサクとムウルの笑い声も聞こえる。


 カシュールカとサクとミイ。そしてムウル。   

 なまけ者の元貴族と、人見知りでアル中の魔術師と、そして嘘つきで面倒くさがり屋のミイ。

 同行するのは盗賊の下っ端。


 果たしてどんな食い倒れ道中がミイたちを待っているのか。

 ミイは自由の空気を胸いっぱいに吸い込み、未来に胸を躍らせるのだった。


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