悪魔と魔術師
サクは、小さなナイフを取り出した。
ためらいなく、腕の内側をざくりを切る。
流れ出す血が、腕を伝う。
魔術師の血は、触媒になる。
そして――。
サクが懐から取り出したのは、小さな石。
引きこもっているあいだ、酒ばかり飲んでいたのは事実だけれど、それだけしかしていなかったわけでもない。
魔力を込めて精製したこの石が、今のサクの助けになる。
「覚悟はできているか?」
腕を滴る血が、サクの手の平で小石を赤く染めた。
ぶわっと、突然燃え上がった炎は、青紫の、熱くない炎。
炎を見とめたフォートスが、サクに対抗すべくまとうその力を増幅させる。
眼前で膨れ上がる、禍々しく強力な悪魔の力は、それだけでサクを圧する。
けれど、ここで諦めるわけにはいかない。
青紫の炎は杖の先に移り、まっすぐにフォートスを捉える。
「大人しく戻ってくるんだ、フォートス。それとも、ここで滅ぼされるのを望むか?」
フォートスの力はさらに膨らむ。
大人しく従うつもりはないということだ。
あの強大な力を爆発させてはいけない。
あれごと、封じ込める。
サクは、大きく、息を吸い込んだ。
僕にはできる。僕は、やらなければならない。
――なんとしても、だ。
「ツアッシュクロスをもちて、フォートス、おまえを我が眼窩へと封じる。我の声を聞き、我に従え、フォートス」
自分の内にある魔力のすべてを、サクはフォートスへと向けて放った。




