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6話 偽装作戦~前編~

 朝…いつもと変わらぬ朝。天候はよろしい様子で朝日が窓から差し込んで少し眩しい。そして、ここ二週間位で見慣れた二段ベッド上段の裏面である木製部分が視線には映っている。



「おはようエリー。」



 俺が声を出すとエリーヌの声が聞こえた。自分が言ったはずなのにエリーヌの声が聞こえたのだ。



「おはようございますエリーヌさん。」



 先程の言葉に反応したのは寮で同室のベルティーユだ。既に起きて化粧台に座って顔にパウダーなどつけている最中だ。エリーヌのことではないので化粧なのかスキンケアの一種なのかはわからない。

 二つの二段ベッドの上にはそれぞれフラヴィとリーズがまだ寝ているようだった。


 とりあえず上体を起こしてみるが、やはり自分の意思で身体を動かせる。意味が分からない…。



「(起きてないのかエリー?)」



 小声でエリーヌに尋ねてみるが、やはり反応は一切ない。仕方がないので身体がどこまで動くのか確認することにした。

 まず手を握ってみる…問題ない。次はベッドに寝転んだまま足を上げてみる…普通にできる。ベッドから出て立ってみる…普通に立てた。それから屈伸などして体の状態を確かめるがいたって普通だ。自分の身体のように動かすことができた。



「今日は朝の訓練には行かないのですわね?」



 不意にベルティーユに問われたが曖昧な返事で返しておいた。とりあえずエリーヌがどうなったのか分からないとどうしようもない。

 ただ、自分の身体に大きな胸がついているというのはやはり気になる…揉むしかないぜ。むにゅむにゅと胸を押しつぶすように揉んでみる。エリーヌ自身に揉んでもらった時の方が若干気持ちよかった…不思議だ。

 身体の確認はいいとして、エリーヌが目覚めたときに何かあると拙いので学校にいく準備はしておこう。昨日は風呂も入っていないので桶に水を汲んできてパンツ一丁になり身体全体を拭っておく。身体を拭き終わるとその格好のままベビーパウダーのような粉を顔に軽くつけ、それから髪を櫛で整えてから左右の髪を集めて三つ編みにするのだが…。


(できねぇ!ストレートヘアでいいよね!!!)


 次は制服だが…下着姿のまま考えていると、ふと閃いた!


(ノーノーでいこう!!!)


 ノーブラノーパンで行こうの略である。慶太はささっと全裸になると裸の上に制服を着て準備万端とばかりに胸を張った。



「完全武装だぜ!」


「あら?随分と仕度が早いですわね。」



 ベルティーユは化粧台に座り、櫛を使い髪をすきながら鏡越しにこちらに声をかけてくる。



「お、おう!俺は……わ、私はまどろっこしいことは苦手なんですわ!オーホッホッホッ!」



 適当に女性言葉を使い、最後に雄たけびを上げて誤魔化す。



「エ、エリーヌさん。朝から随分と元気…ですわね。」



 ベルティーユは若干違和感を感じつつも言葉を選んでくれているようだ。エリーヌの言葉使いは丁寧すぎて俺には無理だ。社会人をやっていた頃なら別だが、精神を病んだときにそういう言葉使いをするのが嫌になったのだ。


(さて、準備が終わってしまったので暇だ…どうしよう…。)


 まだ陽も上がったばかりで朝食まで暇なのだ。フラヴィやリーズも寝ているくらい時間には余裕があったのだ。そして視線の先に下着姿のベルティーユを捉える。


(今はエリーヌの身体だ!セクハラしても許されそう?)


 慶太はエリーヌの身体を使い、鏡に映らぬようベルティーユの背後に回りこむ。両手を確認してから己に頷くと、ベルティーユの両胸を下着越しに後ろから鷲掴みにする。


(やばい。他人の胸を自分の意思で触るとやばい…鼻血でそう。)



「ちょっ!エリーヌさん!何ですのっ!?」


「あっ…うん。なんだろう?じゃれ合い?」



 適当に返事をしてからベルティーユの胸を開放する。お風呂の時間まではお楽しみとしてとっておくべきだと考えたからだ。その時刻までエリーヌが起きるかもわからないのだが…。



「二人…五月蝿い…。」



 眼を擦りながらリーズが起きたようだ。朝に弱いリーズを起こしてしまい、申し訳ない気持ちになるのは慶太も朝にちゃんと起きるのが苦手だったからだ。

 リーズはそのまま二段ベッドの梯子を使って降りると寝巻きを脱いで堂々と下着姿になる。


(リーズもたまらんのう…おじさん犯罪者になっちゃうぞ!)


 リーズに対しても後ろから"ほんのり膨らんでいる胸"を揉んでみるが、無反応だ。ただ…顔から察するにかなり御機嫌斜めだ。危険を察知した俺は、リーズから急いで離れると朝食まで大人しくすることにした。

 ベルティーユがフラヴィを起こして着替え等の準備が終わると食堂に向かう。食堂に着いてから配給のおばちゃんに食事を貰い座席につくと食事を始める。



「今日のエリーヌさんは少しおかしくありません?」



 食事中にそう言ったのはベルティーユだ。朝から盛りすぎてしまっただろうか…。



「そ、そうかしら?わ、私は普段通りのつもりなんですけどぉ…」



 俺は見苦しい言い訳だが何も言わないよりはマシだろうと発言をする。



「朝から…胸揉まれた…エリーヌ発情期?」



 リーズは無知だと思っていたが、変なことは知っているのか。



「テンション高いだけじゃないのー?」



 まったく手を出していないので疑問も抱いていないフラヴィ。



「同性愛に目覚めたんじゃないの?わたしは興味ないけど。」



 本当に興味なさげにあっさりと告げるフレデリーク。


(友人になったというのにその他人事のような言い方はなんだ。お風呂の時間になったらお仕置きしてあげなくてはいけないね。)


 それにしても未だにエリーヌの反応がない。このまま女性の身体で生活しなければいけないのだろうかとも考え始めてしまう。


(男に愛を囁かれながら抱き合うなんて俺には無理だぞ…。アランがこの状態になったら天国かもしれないけど…。)


 一瞬、男と一夜を共にする想像をしてしまい、顔から血の気が引いてしまった。


 朝食を終えて、授業が始まる。座学はマジでつまらない…ので、俺は学生時代に会得した授業を聞いたフリをしながら寝るというスキルを発動していた。

 気付けば三時限目の体育のような…体力強化訓練だ。ノーノー状態なので上手く体操服に着替えて室外訓練場に出る。本日も持久走を行うそうだ。毎度のこととはいえ参っちゃうね。

 暫く走っていると元の自分の身体より疲れを感じない。意外とエリーヌは体力があるのかもしれない。そして何周目か終わった頃に男子生徒がこちらを見て前屈みになっているのを確認した。自分の状態を確認すると、服は着ているが…。


(汗で肌が透けて…胸の先端が見えているのか…青少年には刺激が強いか)


 そのまま調子に乗って両腕で胸を寄せ、女の子走りでぷるんぷるんと胸を揺らしてみると面白い程に男子が途中で脱落していく。


(おもしろ!!サキュバスにでもなった気分だぞ…。)


 走りきる頃には男子はほぼ全滅していたのだ。仕上げに指導員であるオーバンにも胸を寄せながら…「オーバンせんせぃ…疲れましたぁ。」と言ってオーバンの腕に胸を押し当ててみる。…当ててんのよ。

 オーバンは息を荒くしつつ鼻血を垂らし、股間を膨らませながら倒れてしまった。理性と欲望が争ってダブルノックアウトでもしたのだろう。


(俺は罪作りな男よのう…。)


 三時限目が終わるとその男子生徒たちが一斉にやってきて「「「今日は一緒に食事などどうですか!」」」と誘いがあったのだが、流石に女子を愛でる時間の方が大事なのでお断りした。後日もエリーヌの身体を借りられたら誘いに乗ってもいいかもしれない。


 体操服から制服に着替え直すと先程より下半身がスースーしている気がする。ノーパンだから当たり前なのだが…やはり、パンツくらいは穿いていた方がよかったかもしれない。エリーヌが目覚めたら面白そうだと思ってやったことなのだが、現在エリーヌの反応は一切ない。

 脱衣所から出てリーズと食堂へ向かおうと歩いているとクラスの男子たちが後ろから沢山付いてきていた。授業中に誘惑しすぎた弊害であろうか…。


(しかし、何の相手もしてあげないのも心残りだ。サービス精神旺盛な俺がご褒美を進呈しよう。)


 俺はわざとらしい演技をしながら盛大に転んで尻を男子生徒に向けてみる。スカートは捲れて尻が丸見えだ…そしてパンツは穿いていない。言わなくても分かると思うが放送できないような状態である。



「「「ブフッーーーーーーーー!?!?!?!?!?」」」



 男子生徒たちは(エリーヌ)の股間を凝視すると鼻血を噴き出して倒れてしまった。


(男子諸君。今日のオカズにでもしたまえ。)


 俺は男子全員が妄想の世界に旅立ったのを確認すると立ち上がる。



「さて、邪魔者もいなくなったし行こうか。」


「え…うん。…今日のエリーヌ大胆。」



 食堂に着くとベルティーユが座って待っていた。相変わらず早いのでクラスで友達ができないのかもしれないね。俺とリーズが対面に座って暫く待つとフラフレコンビがやってきた。



「おまったせー!」


「遅れて悪かったわね。それにしても律儀に待っているなんて良くできるわね。」



 五名が集まったので食事を始めることにする。今日はパンと何かの乳らしき飲み物と野菜スープ、少し量が物足りなく感じる。



「そういえば、そろそろエリーヌさんの魔宝技も安定して出せるようになりました?」



 ベルティーユが尋ねてくるが、慶太は現在自分の置かれた立場を忘れて、質問に反応せずにいると背中をリーズに軽く叩かれて動揺してしまう。



「…おっ、おう。魔宝技のことだっけ…練習して慣れた頃だし…今日の放課後にでも披露しようか?」



 途惑っていたので適当に返答してみるが、思いの外食いつきがよかった。



「楽しみにしておきますわ。」


「今度は…爆発しない?」


「おー!ついに見れるんだね~。」


「ま、まあ見てあげるわ。…わ、わたしも許可さえ貰えればもっと優れた魔宝技を披露できるのに。」



 軽く約束してしまったが、まあ…いいだろう。



「それにしても今日のエリーは随分ワイルドじゃない~?」



 俺はさらにフラヴィの不意打ちを食らい飲み物を噴き出しそうになってしまう。食事にがっつき過ぎたのだろうか。



「そ、そうかな?自分じゃ普通だと思ってるんだけど…。」



 とりあえず言い訳だけはさせていただく。絶対にだ。



「そういえば口調も普段と違って男らしい印象を受けますわね。」


「行動も…ダイタンだったよ。男子に…お尻見せてた。」


「わたしは気にならないけど?寧ろ話しやすいかもしれないわね。」



 ベルティーユやリーズはフラヴィと同様に若干の違和感を覚えているようだが確信ではないようだった。フレデリークに関しては付き合いが浅いためなのか、興味がないのかあっさりしたものだ。



「こ、細かいことを気にしたら禿ちゃうよ!」



 この世界の人に通用するかは分からないが、それ以上の詮索を避ける意味で俺は告げたのだが無視されてしまう。



「何か悪い病気になのでは?」


「病気~?怖~い。」


「何かが…エリーヌに化けてる…のかも。」


「変質魔宝なら可能性はあるわね。」


「誰かがエリーヌさんになっているということですの?」


「エリーが乗っ取られたー!?」


「なんで変質が乗っ取りになってんのよ。」


「自分の系統以外は…よく知らない。」


「でも、エリーヌさんを模す必要があるのでしょうか。」


「ない…。」


「ないわね…。」


「ありえな~い。」



 若干エリーヌを貶されている気もするが、ここで気にしていたら男が廃るので黙々と食事を続けていた。それからは彼女らは他愛もない会話を続けて昼食を終えたのだった。

 さて、気を取り直して午後の授業だ。舞踏ということで専門の部屋へ行く。何やら前回の続き…だそうだが、俺は内容など覚えてないよう。とりあーえずペアになった男子に合わせて踊ればよかろうもん。

 暫く踊っているとこちらの下半身を見た女子は顔を背け、男子生徒と男の舞踏指導員は凝視しながら顔を真っ赤に染めている。何故だろうと確認するとスカートが捲れてノーパンな尻が丸見えだった。予期せぬサービス行為をしてしまった…ボーナスをいただきたいくらいだ。



「あ、え、エリーヌさん…かな。何故下着をつけていないのかな?」



 指導員が普通なら聞かないような質問を投げかけてくる。



「えっと…お、お爺様にいただいた…馬鹿には見えない下着ですわ!これはそういう下着です!そうです!そうなんだよ!!」



突然の質問に、俺はヤケクソ交じりに主張した。今迄無かった位に強く。そして"どこかの王様のように騙されてください”と心の中で考えていた。



「あ、うん。そうなんだね。大事な贈り物じゃ仕方ないね。」



 指導員は納得した顔をしていないが目の保養にするためなのか、鼻血を垂らしつつそんな台詞を口にする。


(いいのかよ!?)


 その後は男子生徒がずっと尻を眺めて来るので、サービス精神に溢れた俺はスカートを尻の半分まで捲って踊っていたのだった。

 ちなみに、ペアの男子は鼻息を荒くして時折股間を押し付けてくるのが少しきつかった。子供のぞうさんなら可愛がれるが、マンモスになりかけはお断りしたいからだ。

 ところで同クラスのリーズはといえば気にした素振りがない…謎が多い子だ。


 後の座学でも男子は(エリーヌ)の尻をずっと凝視しており、まともな授業にならなかったことは語るまでもないだろう。

読み直したら誤字の多いこと…出来る限り修正しました。

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