-92- とにかく!
鏡台病院のカンファレンス室である。
「恐らく、無理でしょう…」
外科医の紅口は、対峙して座る櫛川に女っぽいオネエのような口調で説明した。その説明を聞く患者の夫、櫛川は、この先生、大丈夫かい? …と不安そうな顔で紅口の顔を窺った。
「恐らく・・ということは、妻が助かる可能性もあると?」
「ええ、まあ…。ないこともなくはない、といった程で。ほほほ…」
なにが、ほほほ…だっ! と櫛川は切れそうになったが、そこはグッ! と我慢して、思うに留めた。しかも、ないこともなくはない・・とは、随分と回り諄い言い方である。ないこと→ない→ないのならあるんじゃないかっ! そこは、助かる可能性もあります! だろ!? と、また櫛川は怒れたが、やはりグッ! と我慢して、思うに留めた。
「このままですと、いずれにしてもダメです。やりましょう、とにかく!」
当たり前のことを紅口に理路整然と言われ、またまた櫛川は怒れたが、少し怒り疲れたのか、そう腹も立たなくなっていた。
「とにかく! よろしくお願いいたします…」
「分かりましたっ! じゃあ、あとから同意書にねっ!」
紅口は色目を使って櫛川を見た。俺は、その気はないぞっ! と櫛川はゾクッ! とした。
手術は、とにかく! 行われた。そして、何がどう間違ったのか、スンナリと成功したのである。
物事はダメ元で、とにかく! やればOKになる・・ということは、よくある。
完




