-9- 物ごとの帰着
立川の仕事は実直だ。物ごとを最後の最後までキッチリやらないと気が済まない性分だった。
つい先だっても、伝票の額と集金額の帳尻が合わず、夜通し計算をやっていたくらいだ。
「やあ立川さん、おはようございます。徹夜でしたか…ご苦労さまです」
「いや、なに…。今日は休み番でしたから、キッチリ合わせておこうと思いましてね」
立川にすればよくあることだが、他の社員にすれば、よくあることではない。それも、帳尻の額が合えば合ったで、また何回か計算をやり直すという実直な仕事ぶりだったから、夜通しとなるのもやむを得なかった。金融機関への振り込みが未済みの店や会社へ直接、出かけ、集金をする嫌な役回りだったが、立川は悪びれもせず、20年以上、その係をやっていた。
「ははは…アレは立川さん以外には無理でしょう」
会社のすべての者がそう言うほど、実直思考の立川の仕事は的を得ていた。彼が足を運べば、まず回収できない金はなかった。
「いや~、立川さんですからな。ははは…うちも今、そう余裕はないんですが、払えなくもない。ここはひとつ、立川さんの顔を立てましょう!」
物ごとの帰着がそうなれば、出世できそうなものである。ところが、立川はそうならなかった。会社は立川が有能なだけに、敢えて上のポストへ出世させなかったのである。会社としては立川が回収係を抜ければ困るのだ。フツゥ~の場合、有能な社員は出世する・・としたものだが、立川のいる会社は、そういうよくある常識を外れていた。ただ、会社も立川を便利な道具として顎で使っていた訳ではない。それなりの額などのケアはしていた。まあ、実直な立川だったから、そんなことを目的に仕事をしていた訳ではなかったが…。立川としては、物ごとの帰着さえ、キッチリいけば、気分が晴れたのである。キッチリいかないと、それが僅かな金額でも、立川の心は萎えて曇るのだった。
「やっと合いましたよっ!」
「はっ? なんでしたか?」
「いや、10円の儲けがね…」
「ははは…そりゃ、よかったですね!」
隣りの席の若手社員は10円くらい自腹で…と内心では思ったが、心に留め、愛想笑いでそう言った。
完




